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第十九話 アルド・ウェイトリーの追憶

この物語は、倉庫娘のサモナー道中記 本編 第八十三話のサイドストーリーになります。

先に本編 第八十三話をお読みになりますと、よりお楽しみ頂けるかと思います。

 ワシの名は、アルド・ウェイトリー。

 ハイリム王国国立魔法学院で、魔法理論を教えておる。……あまり、人気は無いがの。


 長年、この学院で教鞭を取ってきたが、今年は面白い学生が入ってきた。


 1人は、ワシの良く知る錬金術ギルドの元ギルド員。

 若いエルフで、実に腕の良い錬金術師だったが、まさか、ギルドを辞めて学生になるとは思わなんだ。


 もう1人は、この辺りでは珍しい、黒髪・黒い瞳の少ね……おっと、娘じゃった!

 貴族の末娘と言う訳でも無く、苗字も持たぬ平民じゃが、他の者とは違った空気をまとっている様な。何とも不思議な娘じゃ。


 しかも、2人共にワシの憧れの人物の弟子なのじゃよ!


 ……少しばかり、昔の話をしようかの。


 今から、ほんの50年程前。

 ワシは、この学院に入学したばかりの若造じゃった。


 ウェイトリー伯爵家の3男であったワシは、2人の兄とは違って家督や遺産なぞには興味が無く、魔法学に取り憑かれておった。


 かつて、この世界には、今では考えられん程に発達した魔法文明が存在し、その強大な力は神にも匹敵せん勢いだったと言う。


 そんな力が、欠片を残すだけで滅んでしまった。

 それを、今の世に少しずつじゃが理論立てて復活させる。

 どうじゃ? 考えただけでゾクゾクするじゃろ!?


 まあ、それは置いておいて。


 そんなもんだから、ワシがこの学院に入ったのは当然だったのじゃが。


 そこで、ワシは1人の女性と出会ったのじゃ。


 美しい金色の髪を肩口で揃え、髪と同じ色の瞳は大きくて吸い込まれてしまいそうな。

 透き通る様な白い肌は、絹を思わせる様な、まるで女神が降りて来たかと見まごう程の美貌の持ち主。


 少し歳上の、マシュリーと言う名のその娘は、苗字の無い平民の出にも関わらず、全ての試験にトップで合格し、入学の挨拶を任される程の才女じゃった。


 たちまち、マシュリーは学院の人気者になったが、そんな彼女にも弱点があった。


 マシュリーは、極端に魔力が少なかったのじゃ。


 実技の授業では2、3発が精々で、持続的に魔力を供給しなければならない魔導器の授業では昏倒する事もしばしば。


 回復も遅かったため、補習もままならない有り様じゃった。


 どんなに美しくても、どんなに賢くても魔法が使えなくては意味が無い。


 マシュリーに嫉妬していた貴族の娘たちは、これ見よがしに彼女の悪い噂を囃し立てた。


「あの女は、貴族の妾だった!」


「試験も、それで免除されたに違いない!」


 もちろん、全て根も葉も無い噂だったが。

 次第に、彼女は白い目で見られる様になっていった。


 彼女の周囲から、1人去り2人去りする中、当時のワシは、それでも彼女の友であろうとした。

 しかし、彼女は力無く笑ってこう言った。


「ありがとう。

 でも、あたしと一緒にいたら貴方まで白い目で見られちゃうわ。

 大丈夫よ、あたしは天命を受けたんだもの!」


 〝天命〟

 当時も今も、大天才か気の触れた者の証。


 ワシには、彼女がとうとう気が触れてしまったと思った。


 それからしばらくして、マシュリーは授業に出なくなった。

 代わりに彼女は、ある先生の研究室に出入りする様になった。


 その先生の名は、紅蓮の魔術師、イライザ・ファンネイル。


 稀代の天才魔術師にして、賞金稼ぎ兼冒険者。


 炎の魔法を得意とし、彼女を怒らせた者は、影しか残らないと言う噂の持ち主。

 当時、既に齢60を超えているにも関わらず、その見た目は妖艶で、多く見積もっても20代後半と言う〝魔女〟と呼ぶに相応しい存在だった。


 やがて、マシュリーの姿を学院で見かける事が無くなり、ワシもまた、心の何処かで彼女を想いながらも日々の課題に忙殺されていった。


 学院の卒業を間近に控えたある日、ワシは偶然、マシュリーに出会ったのじゃ。


 馬車に乗り込もうとしていた彼女は、ワシの知っているマシュリーではなかった。


 美しかった金色の髪は白く、まるでヤガーの様にボサボサだった。

 そして、吸い込まれそうだった瞳は、まるで歴戦の戦士の様に厳しくなっていて、一見してマシュリーだとは気づかない程だった。


「ま、マシュリー!?」


 ワシの呼びかけに、マシュリーは一瞬だけ止まったのだが、そのまま馬車に乗り込んでしまった。

 ゆっくりと走り出した馬車の窓から、彼女は顔を出してこちらを見たのだったが、その顔は、ワシの良く知るマシュリーの顔に戻っている気がしたよ。

 目を閉じれば、手を振る彼女の小さくなって行く姿が、ハッキリと浮かび上がる。


 それ以来、マシュリーの姿を見る事は無かったのじゃが。

 風の噂で、彼女が冒険者として活躍しているのを聞いていた。


 年月が経ち、ワシが学院に戻って来た頃、マシュリーもまた、この地に戻って来たと知った。


 彼女は今、マーシュと名乗り、イムの村で薬師をして暮らしているらしい。


 会いに行きたかったが、何を話して良いか解らず、結局は行かずじまいじゃった。


 そんなある日、マーシュから1通の手紙が届いた。


 それは、彼女の弟子が2人、学院に入学するからよろしくと言う物じゃった。


 ワシは、彼女に少なからず罪悪感を持っておった。

 だが、彼女の手紙にあった「親愛なるアルド」の文字に、この瞬間だけは神に祈りたい気分になった。


 そして、彼女の願いに全身全霊を捧げる事を決めたのじゃ。


 彼女の手紙は、その最後をこう締めくくっておったよ。


 〝ウロとニードルス。

 この2人は、かなり厄介な物件になると思う。


 森を知らないニードルスは、エルフである事が足枷となる日が来るかも知れない。

 また、ウロの進む道はただならぬ茨の道となるでしょう。

 どうか、2人を導いてやって欲しい。

 特にウロ。

 彼女の魂が、神に弄ばれない様に〟

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