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第十二話 夢見る商人少女

この物語は、倉庫娘のサモナー道中記 本編 第六十話のサイドストーリーになります。

先に本編 第六十話をお読みになりますと、よりお楽しみ頂けるかと思います。

 あたし、ジーナ・ティモシー。


 あたしの家は、この国ではちょっとは知れた名『ティモシー商会』。

 アンクル・ティモシーの名前で有名な、商会のトップはあたしの叔父さん。ナンバー2が、叔父の弟であたしの父さん。


 あたしも、将来は立派な商人になるべく小さい頃からお店の中を走り回って育った。


 そんなあたしが、魔法学院に入学したきっかけは、今から10年前。あたしが5歳の時だった。


 〝靴の紐から魔導器まで〟が謳い文句のティモシー商会。

 売り物はもちろん、珍しい物なら買い取りもするし、お宝の鑑定だってしちゃう。


 その日も、どこかの遺跡に潜った冒険者たちがお宝を抱えてやって来た。


 それは、一見するとただの古びたランタンだった。

 鉄製のフレームに細やかな装飾が施されているけど、それ位なら街の細工師だって作れちゃう。


 でも、そのランタンは普通のランタンじゃなかった。


 ロウソクやオイルなどの燃料を入れる蓋以外が、完全に密封されていたの!


 普通のランタンなら、全体に少しだけ隙間があって、空気が入る様になっている。

 それは、火の精霊が風の精霊から魔力を貰うためで、これが無いと、火はたちまち弱くなって消えてしまう。


 あたしはこれを『ガラクタだ』と言って、冒険者たちを怒らせたけど、店の鑑定士であたしの家庭教師でもあった老魔術師のリドリー先生は違ってた。


「ジーナ、失礼な事を言ってはいけない。これは、決してガラクタなんかじゃない!

 残念ながらランタンとしては使えないが、古美術品として見れば相当だし、しっかりと保存の魔法も施されている!」


 これは掘り出し物だ。と言って冒険者たちを誉めるリドリー先生に、あたしは、心の中で戦慄していた。

 だって、こんな事をリドリー先生が言う時って、絶対に裏があるんだもん。


 結局、ランタンは金貨30枚で買い取り、冒険者たちは上機嫌で帰って行った。

 冒険者たちを見送った後、リドリー先生は今まで見た事も無い邪悪な笑顔であたしに振り返った。


「ジーナ、君にこのランタンの本当の価値が解るかい?」


 正直、あたしには解らなかった。

 だって、あたしには、ただの古い作り損ないのランタンにしか見えなかったから。


 涙ぐむあたしに、さっきとは違う優しい笑顔になったリドリー先生は、ゆっくりと丁寧に教えてくれた。


「このランタンはね、普通のランタンでは無い。

 まず、空気が入らない作りになっているね? 前に教えた通り、これでは火が生きられないのは解るね?」


 あたしがうなずくと、リドリー先生もウンウンとうなずいた。


「では、中を見てごらん。

 何か、気づかないかな?」


 ランタンの中を覗いたあたしは、2つの事に気がついた。


 1つは、中が全く煤などで汚れていないのに、獣の様な独特の臭いが微かに残っている事。


 もう1つは、ランタンの上側と底に、何か模様の様な物がビッシリと刻み込まれている事だった。


 あたしの答えに、リドリー先生は手を叩いて喜んでくれた。


「そう、そうだよジーナ。流石はティモシーの血筋だな!

 いいかい、ジーナ? このランタンはね、ロウソクなどを使うランタンではないのだよ。燃料は、これだ!」


 そう言ってリドリー先生が取り出したのは、宝石の様な、何かキラキラとした物だった。


「先生、これは?」


「これは、魔石の欠片だ。このランタンの燃料は、魔石なんだよ!」


 リドリー先生は、魔石の欠片をランタンの中に入れると、蓋を閉じて何事か呟いた。


 すると、火も灯していないのにランタンは見た事も無い明るい光を放ち始めた!


「これは凄いぞ、ジーナ。

 魔石を使っているとは言え、これほどの光は『灯り』の魔法でも出せはしない。

 使った魔石はゴブリンの、しかも小さな欠片だ。もう、これだけで金貨300枚はくだらないな!」


 リドリー先生がもう1度何事か呟くと、光は急に弱く小さくなって消えた。


 ランタンから魔石の欠片を取り出したリドリー先生は、欠片を眺めて満足気にうなずいた。


「あれほどの光を放ったのに、魔力がほとんど失われていない。これは、素晴らしい品だ!

 解るかい、ジーナ。ランタンの中の臭いは、魔石の臭いだよ。

 普通、魔石に臭いは無いと言われているが、微かだが魔物から取れる魔石には臭いがある。

 保存魔法が施されていて、これほど臭いが残ると言う事は、かなりの歳月を使われて来た事になる。

 にも関わらず、こんなに保存状態が良いなんて……」


 少年の様に目を輝かせて、魔導器を熱く語るリドリー先生は、あたしの唖然とした視線に気づいたらしく、オホンッと咳払いを1つした。


「と、とにかく、大切なのは『知識』だ。

 彼らに知識があったからなら、こうはならなかっただろう。

 ジーナ、君がもし商人を目指すのなら、魔法の品も解る様にならなければね?」


 翌日から、古代語の読み書きがあたしの日課になった。

 数年後には、生活魔法の『灯り』が使える様になった。


 ただ、リドリー先生はあたしが魔法を学ぶ事に賛成はしてくれなかった。

 理由は、先生の娘さんを魔力の暴走によって亡くしているから。


 あたしが14歳の時、リドリー先生はこの世を去った。「魔法使いも、老いには勝てないよ」とリドリー先生は言っていたっけ。


 リドリー先生は、最後まであたしが魔術師になる事を反対していた。

 でも、あたしはより魔導器を知るために魔術師になると決めていた。


 そんなあたしに、リドリー先生は1つだけ魔法を教えてくれた。


『邪悪探知』


 その名の通り、邪悪を探知する魔法だ。


「お宝を持ち込む冒険者の中には、呪われた品の厄介払いに来る者もいる。それを忘れてはいけないよ?」


 リドリー先生は、そう言って笑っていた。

 あたしの魔力量では、1日に1回しか使う事は出来ないけど。……ちなみに、リドリー先生は邪悪だった。


 魔導器の扱いを学ぶため、あたしが魔法学院に入学する事を父さんは反対しなかった。

 店は、成人した2人の兄がいるから問題無いし、魔導器の事が解る者を雇うのは、結構、高くつくからね。


 ただし、寮へは入らず家からの通学が条件だった。

 正直、面倒だったけど仕方ない。学費、全額出してくれたし。


 商人の世界しか知らなかったあたしにとって、魔法学院は何もかもが新鮮だった。

 そして、恐ろしい所だった。


 今まであたしは、〝ジーナお嬢様〟なんて呼ばれていた。

 でもこれは、商会の中での話であって、貴族の、本物のお嬢様がいる学院の中では通用しない。


 上級貴族からは平民と罵られたし、下級貴族からはお金の無心をされた。


 こんな状況にも関わらず、担当の先生は班を作れと言う。


 より所が無くって、心が折れそうだった時、あの2人が目に入った。


 良く、図書室で見かけたエルフと少年の2人。

 鬼気迫る表情で写本をして、写本屋の人が引くほど驚いていた2人。


 そこに、見た事の無いもう1人の男性を加えた3人が、教室の隅にいるのが見えた。


 担当の先生は、4人の班を作れと言った。

 この機を逃したら、あたしはここでは生きていけないかも知れない!!


 人混みを掻き分け、あたしは、3人の元へ急いだ。

 そして、声をかけたのだ。


 3人は、あたしの『ティモシー』の名前に驚いていたけど、身分の事もお金の事も言ったりはせずに、あたしを快く班に加えてくれた。


 この時、あたしの心はとても安らかだった。

 だって、あたしを守ってくれる素敵な男性が3人もいるんだもん。


 ……あ、1人は女性だったけど、見ようによっては少年に見えなくもない。だから良し!


 こうして、あたしの学院生活は始まった。


 不安ばかりだったけど、今は3人の仲間がいるから大丈夫。


 まるで、いつか読んだ姫を守る3人の騎士みたいな?

 馬車に揺られながら、そんな空想に浸るのがあたしの新しい日課になったのでした。

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