第2話
流石に、頼まれるとどうも断れない。結局、仕方なくついて来てしまった。
スーパーで出会った女性は芦北 茜さんというらしい。
「本当に助かったわ。ありがとう。……でも何であんなにきれいに焼けるのかしら? ……何か秘訣でもあるの?」
「……いえ、何も。昔に母の焼き方を見ていただけで、見様見真似です」
「へぇー。あなたのお母さん、お菓子を作るのが上手だったのでしょうね。
一度お会いしてみたいわ」
「…………」
何故かは分からないけど、無意識に手が震えだし、目が潤んだ。僕はそれを見られないように顔を伏せた。
「どうかしたの?」
「……いえ、……何も」
「…………」
「母には……。……母にはもう会えません。二年前に亡くなりました」
「!? そう……だったの……。……ごめんなさいね」
どうにかしてこの場の空気を変えないと……。でも、僕には見当たらなかった。
そうだ……
「突然すみません……。あの……ホットケーキミックスってまだ残ってますか?」
「えぇ、……うん、多分」
よし。
「バターと牛乳もありますよね? あと、卵も」
「うん、ホットケーキの材料なら……。何で?」
「今から時間ありますか?」
「えぇ、大丈夫」
「じゃあ、もう一品お菓子を作ります」
「突然、どうしたの?」
「……僕の話で茜さんまで暗くなられるのが見ていられなかったから」
茜さんは少し考えているようだった。
「今、材料を確認してくるわ。もし、無かったらまた買いに行きましょう」
「……はい!」
そうしてもう一品のお菓子作りが始まった。