意識
「え?」
まるでこいつ…俺が聞いてくるのを知ってたみたいだ。
「え?君、そのこと聞きに僕のとこに来たんでしょ?」
「またはじまった…。コイツいつもこうなんだよね…」
隣にいた女性が呟く。
この人達かなり仲いいっぽいな…。
「で、君さ、『酔狂する男』は読んだの?」
「あ、ああ、読んだよ。」
まずい…完全に向こうの流れに乗せられてる。
「じゃあ早い。方法を教えていいかな?」
え?そんな簡単に?
「え?ちょっとまって。質問したいことがあるんだけど!ってか、今日聞きたいことがあってきたのは俺なのに、いつの間にかあんたが全部話しちゃってるし。」
「なに?」
「いや、まずさ、あんた、ほんとにタイムスリップしてきたの?」
「うん。」
「え?いつから?ってかそんなの…」
「俺はさ、まだ二回しかしたことないけど。一回目は一年前に飛んで、二回目は二日後に飛んできた。正確には、二回目に飛んだのは一回目から考えると1一か月と二十八日前、だね。」
疑問が多すぎて言葉にならない。コイツ、真面目な顔でなんてめちゃくちゃなこと言ってんだ…。
「え、じゃあ…手術…レーザーで脳を焼き切ったのか?」
「いや、そんなことしなくても飛べるよ。今の君なら。」
今の俺…?どういうことだ?
「方法は単純さ。夜寝るときにひたすら飛びたい時の記憶を再生するんだ。何度も、何度も。そして次第にそれは記憶から夢に変わる。君が睡眠状態に入った途端にね。あとはもう集中するだけでいい。その夢に。」
「え…」
なんだそれ…簡単すぎんだろ…。
「なんか質問?」
「いや…そんなに簡単…なのか?」
簡単、という言葉にやまとの表情が少し曇った。
「単純だけど簡単じゃないよ。まず、寝る前ににまで考えていたことを睡眠時の意識にまで続けることは容易じゃない。それこそ、大きな別れだったり、記憶に大きく残るような体験じゃないと、夢にまで見るのは難しい」
「たしかに…な」
「あと、夢に見ることはできても、集中していないと目が覚める。だからできる限り鮮明に記憶を振り返るんだ。君の彼女の表情・周りの景色・交わした言葉、すべてをね。」
「それは…」
難しそうだ、と答えようとしながら。俺は何かを疑問に思った。疑問、というより違和感だろう。なにかおかしい。
「まぁ、いいや、とりあえず連絡先だけでも教えておくからさ。何かあったら連絡してよ。」
「うわー私にはすぐに連絡先教えてくれなかったのにー」
そっか…この人もいるんだった…。
二人の会話を聞きながら、俺はとりあえずこの場を離れたくてしょうがなかった。
頭の中を整理したい。
「あっ、和樹くんさ、タイムスリップは三回までだから!それ以上したら、本の主人公みたいになるよ!」
そういって、彼は女性を連れて校舎の中に消えていった。
本の主人公みたいに…?どういうことだ?
そういえば俺は本を最後まで読んでいない。
正直、あんな難しい本最後までよめるほど俺は読書家じゃない。
いろいろと頭に浮かぶ疑問を整理しながら、俺は家についた。
さぁ…やってみるか。
とはいいつつ、うまく約束した時のことが思い出せない。
俺は一年前、あおいになんと言っただろう。
場所は…どこだったっけ…。
確か、高校の中のどっかだったよな…。
そんなことを考えているうちに、俺は眠ってしまった。
翌朝、起きてすぐにケータイの日付を見た俺は落胆した。
3月22日 午前8時30分
普通に目が覚めただけじゃねえか…。