ヒント
とはいえ、タイムスリップの方法は本の中に詳細に書き込まれていた。
だがこれでは、普通の人にはできない。
時間は、連続しているものではない。
実際はいくつもの瞬間がとぎれとぎれに存在するのだが、脳がそれを並び替え、再生し、あたかも連続しているかのように感じているだけだ。
精神病院を訪ねると、時間障害、と呼ばれる人たちがいる。
彼らにとっては次の日が昨日であったり、明後日であったりするのだ。
彼らには総じて脳の同じ部分に障害がある者が多い。
それはまさに、とぎれとぎれの時間を線で結び連続的に再生する部分である。
つまり、タイムスリップするには脳のこの部分に障害を起こさせればいいのだ。
本の主人公はレーザーでこの部分を焼き切り、自発的に時間障害を起こさせたのである。
だが、時間と時間を順序づけて結ぶシステムを壊すとどうなるか。
制御を失った脳はあらゆる時間をランダムに結びだす。
起きているときにタイムスリップしてしまうことはない。
覚醒状態にある脳は、脳の失われた部分を他の部分で代用するからだ。
だが、睡眠に入り脳が覚醒をやめると、途端に今まで順序よく結んでいた時間がランダムに結ばれだす。
つまり、寝ている間にランダムに主人公は別の時間軸に飛ばされる。
とまぁ、本に書いてあったタイムスリップの内容はこうだ。
みてわかる通り俺にはさっぱりだったが、一つよくわかったことがある。
俺には不可能だ。
ピヨピヨ
なつみ:意味わかんない( ゜Д゜)
意味わかんないって、俺もだよ。と返信しようとしたが、これはさっきの俺のボケに対してのメッセージか…。
カズ:すまんすまん。 テキトーに返事した。
なつみ:サイテー。
なつみ:で、タイムスリップどうだったの?(*'▽')
なんでこいつ俺が調べまくったこと知ってるんだ?!
カズ:?!
なつみ:あんた、なんだかんだこういう噂好きじゃん?
なつみ:だからどうせ調べてるんだろうなーと思って(*'▽')
くそ…かまかけただけかよ…腹立つ顔文字…
カズ:できないってことはわかったよ( `ー´)
なつみ:やっぱそうだよねー
なつみ:あのキチガイ まじ殴る"(-""-)"
そうか…そういえばそいつの存在忘れてた…。
カズ:あっ そのキチガイ ちょっと一回話してみたいんだけど
なつみ:えっ? まだ信じてんの?
カズ:いや。好奇心( `ー´)
なつみ:ふーん
なつみ:会いたいなら明日うちのガッコ―来れば?
カズ:今日は駄目なの?
なつみ:今日は大事な用事があるので!
そうだった……
カズ:そうだったな(笑)
なつみ:(笑)ってつけんな
カズ:すまん(笑)
なつみ:うざー
「今日はこの本を最後まで読むか…。」
独り言をいいながら本をひらいたが
俺はなんだかんだ本を最後まで読む前に耐え切れず寝てしまっていた…。
翌朝、俺はめずらしく早起きした。
まぁ、昨日は寝るのが相当に早かったので当たり前かもしれないが。
「おはよー」
「おお、和樹。朝早いな」
親父の顔を見るのは久しぶりな気がする。
「今日学校いくからさ」
「今日学校あるの?」
「いや、友達の学校」
「あんた自分の学校行かないのに友達の学校って…」
朝からイライラする人たちだ。まったく…。
親父とお袋が俺を皮肉っている間に俺はそそくさと準備を済ませ、玄関を出た。
なつみの行っている学校は、実家から電車で15分ほどの距離にある看護学校だった。
小さい校舎で生徒も少なそうなかんじである。
入るのが気まずく、俺は外でなつみが来るのを待つことにした。
だが、一時間ほど待ってもなつみは来ず、かわりに俺は誰かに聞くことにした。
「すいませんっ、ちょっといいですか?」
校門を通ろうとする女性に声をかけると、あからさまに嫌そうな顔をされた。
「なんですか?」
「あのー僕、ココの一年生のなつみっていう子の友人の…
「あっ、もしかして直樹くん?!」
突然女性の表情が変わった。
「いや…直樹とは仲いいし、名前も似てるけど俺は和樹です。」
「あっそっか…え?で?なに?どしたの?」
また最初の嫌そうな顔に戻る。
なんなんだこの人。
「なんか、この学校にへんな事言ってる人いません?なんていうか、時間軸がどーたらって感じの…。」
「あー、やまと君のことかな…。あいつならあそこらへんに…」
といいながら振り向くと、彼女は校舎に入ろうとした男性を無理やり手を引っ張りながら連れてきた。
彼女が連れてきたのは、俺が想像していたものとは程遠いかなりのイケメンだった。
だが、第一声からそいつは普通じゃなかった。
「あ、もしかしてタイムスリップの方法教えてもらいに来たの?」