第二話 魔界からの訪問者
この物語は「現代魔術活劇」である。
「ピンポーン――――――」
チャイムが鳴った。
誰だろう? 此処を訪ねてくる人なんて新聞の勧誘や郵便物ぐらいしか無いのだが。
玄関へ向かいドアを開ける。
「はーい、誰ですかー。何かの勧誘ならお断りで―――――――」
あれ? 予想とは裏腹に、目の前に立っていたのはブロンズの髪色をした美少女だった。
「あのー……誰ですか?」
「わたしは騎藤ヤイコ。魔界から来ました」
「えっ、はい?」
「お邪魔させて貰うけど、いいわね」
「いっ、ちょっはあ?」
半ば強引に入ろうとする少女を、オレは必死に止めに入る。
「いや、今はちょっとダメというか……」
「何でですか? 別にいいで――――――」
「えっ?」
「その子は妹さん?」
「妹?」
後ろを振り返ると漆黒の髪をした、無表情を崩さない少女―――三日前の深夜、オレが召喚してしまった謎の少女―――ノラがいた。
「ノラ! 何で此処に!」
「……ノラ」
ブロンズの髪色の少女は呟いた。
「あなた、ほんとに薙野征介の妹?」
駄目だ、ノラは間違いなくこう答える……
「ノラはご主人様の奴隷です」
沈黙が一瞬続いてしまった。
「……あなたね」
「あっ! はいいいい!」
「女の子に何教えてるのよおおおおぉおおぉ!」
少女のビンタが勢い良くオレの頬にクリーンヒットした。
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「自己紹介をするわね。私の名前は騎藤ヤイコ…って二回目か。
一応『国家魔術界』の花形、魔術本部に所属してて水土岐教授の部下です。
歳は十九、あなたの一個上ね。呼び方はヤイコお姉さんでいいわよ」
「………自己紹介は以上ですか、ヤイコお姉さん」
まだ色々怪しいというか、痛いというか。オレはまだヒリヒリと痛む頬を押さえる。
いつの間にか、ヤイコお姉さんは家に入りこんでいる。
かというノラはオレの後ろで正座していた。
「それより何でオレの名前とか歳とか知ってるんですか?」
「ああ、三日前の深夜から二日間、貴方のことはみっちりと調べさせてもらったの。
悪く思わないでよね、あんなドでかい魔力を放出したあなたが悪いのよ」
魔力? やっぱりオレが三日目の真夜中にした召喚は魔術だったのか……
「あのー、国家魔術界というのは……?」
「国家魔術界ってのは手っ取り早く言えば魔術保護団体みたいな。通称・魔界って呼んでるんだけど。そんな略し方したら組織のお偉いさんがお怒りになるから言わないけど、解った?」
「具体的に何をするんですか」
「うん、まあ魔術を使って悪いことをする魔術師の抑制だとか、魔術の秘匿だとか……色々ね」
益々怪しいな、こりゃ。
「魔術師の組織ってことは分かりました。ってことはヤイコさんも魔術使えるんですか?」
「現代魔術ならね」
「えっ?」
「魔術には〝現代魔術〟と〝古代魔術〟があるの。現在魔界も通して使用しているのは現代魔術の方。何でかっていうと、古代魔術と現代魔術では魔力の消費量が違うの」
「???」
「……つまり、現代の魔術師たちでは古代魔術は使用不可ってこと。無理にでも使おうとすれば本人自体がパンクしちゃうわ
まあ、あなたが使ったのは多分古代魔術だけどね」
「あのー……オレがあの時したのは多分、召喚っていうのだと思う……」
「れえっ! それって本当? あなた身体に支障は?」
「無い……と思う」
「……もしやとは思ってたけど、あなた〝特質魔体〟ね」
「???」
オレには〝トクシツマタイ〟という言葉はピンと来ないが、ヤイコは憐れんでいるのか怒っているのか、複雑な表情をしていた。
「特質魔体っていうのは、体の何処かに偏って魔力がたくさんある部位のこと。
例えば目なら魔眼、脚なら魔脚、あなたの場合は心臓。心臓の特質魔体なんて聞いたことないけどそうとしか考えられない」
何か凄い事態になっているような気がしてきた……。
「オレの特質魔体はいったい何なんだ?」
「古書とかで見たことがあったあれかもしれない……」
「あれ?」
「魔力の貯蔵量は普通の魔術師の約百倍、そして魔力のエネルギー出力量は約五十倍。
かの魔法使いや仙人にはこれが備わっていたというわ…」
ゴクリ―――――唾を呑み込む。
「それはね………〝無限貯蔵〟っていうの」
とてもしんどい。
NORA―ノラ―の世界観、伝えられるかな……