第一話 真夜中の出会い
この物語は「現代魔術活劇」である。
もうすぐ真夜中の二時頃になる。
いつもならぐっすり眠っている時間帯なのだが、今夜はしなければいけないことがある。
自然に閉じそうになる瞼を強制的に抉じ開け、自室へと向かう。
自室と言っても今この家にはオレしか住んでないから全て自室ということなるのだが……この説明は後々にして置こう。
自室に到着し、ドアノブを回す。
そして、部屋を見回す。
……部屋は真っ暗闇で灯りは静かに佇む一本の蝋燭だけ、床には白いチョークで何やら奇妙な図形が描かれてある。
一見、気味の悪い部屋と言った感じである。
しかし、今からすることを発表すればこの部屋はその行為をするのにぴったりの部屋になるだろう。
その行為とは何を隠そう〝儀式〟である。
一気にオレのイメージが、オカルト陰気少年に変わったことだろう。
違うのだ、儀式と云っても嫌いな奴を呪い殺す訳でもないし、悪魔を降臨させようとも思っていない。
オレが今からすることは〝召喚儀式〟というものである。
〝召喚〟というとドラゴンみたいなのを出現させるようなものだと、オレはイメージしている。
だからオレはオカルト陰気少年なんかではない。ドラゴンに跨って空とか飛んでみたいなあ~、とか夢見る好奇心旺盛な少年なのだ(それはそれでダメな子なんじゃないかとか思わないでね)。
まあ、オレも少年という歳では無いんだけどね。
さて儀式の戻ろうか。
この奇妙な図形が俗に言う〝召喚陣(魔方陣)〟である。
オレも真似事で描いたので精確には描けてないと思う。
そして、この儀式には必要不可欠な物がある。
それは、一週間前押入れで見つけた古びた書物のことである。今までの準備の過程は、全てこの古い本を見て行ったことだ。
かなり古びているので所々ページが途切れていたり、紙が破れていたりしているので、とにかく見にくいのが難所である。
右手に持つこの古びた本をパラパラと捲り返し、これからの儀式の過程を確認する。
次の項目は『異界と術者の結合』つまり、異界へと繋がるルートを確保するという内容だ。
術者は自らの血液を一滴召喚陣に垂らす…と云ったことをしなければいけない。何気にリスクの大きい課題ではある。
冗談半分でしようと思っていた人だったら、ここで挫折したかもしれない。
だが、オレは迷いなく左手に持っているナイフで指を切った。
指からはじわりと一粒の血が溢れだした。その血をすかさず召喚陣に垂らした。
ピトッという音と共に召喚陣の上に十円台の水溜りができた。次の作業は『実体の呼び出し』もう儀式は終盤にさしかかる。
この作業で召喚の際の呼び出し文句を唱えればいいのだ。オレは昨日徹夜で制作した呪文を暗唱する。
「我が元に集う不屈の魂たちよ、我賛同するならば応えよ。
汝は我に忠誠を誓うか。
ならば今此処に姿を現したまえ。
汝に告げる
汝は我の手となり足となり友と成りうる。
さあ、我の元に集うのだ誇り高き英雄よ―――――!」
………
何も起こらない。
若干の恥かしさが冷や汗と共に湧き出してきた、その瞬間。
途轍もない突風と煙がその場に渦巻いた。
恐らく召喚陣から放出されているであろう煙は部屋中に満ちた。
そして、雷鳴よりも激しい轟音が響き渡る。
それは数秒続いた。
静寂の中、何かの影が現れた。
よく視えないがそれは人のようで……人?
儀式が成功した喜びの他に、一つの疑問が浮かび上がる。
――――――オレは一体何を召喚したんだ?
やがて一面を覆っていた煙が薄れていく。
その影は人のような形になっていた。
煙がどんどん退いていく。
黒い髪、白い肌、細い脚………
それは間違いなく人間だった。
可憐な顔をした少女だった。
☝☛
「えっあっあの……!」
まさかこんなに可愛い少女が出て来るとは思わなかった。
動顚も束の間、少女はこっちに顔を向けた。
「オレは征介! えーっと薙野征介! ああーキミの名前は?」
「………」
「いやえっとキミを召喚したのはオレなんだ……って何を言ってんだオレ! ゴメン失礼だったかな?」
少女は何も答えない。
見れば少女の服はボロボロで髪もボサボサ、もう何が何だか分からない。
すると少女の元からヒラヒラと紙切れが落ちてきた。
「これは……?」
その紙切は少し焦げていて英語で「NORA」と書かれてあった。
「もしかしてキミの名前、ノラっていうの」
「……ノラ」
少女が初めて呟いた。
「ノラって言うんだね! えーっと、ねぇノラは日本語は―――――」
そこでオレの言葉は少女のあの言葉に遮られた。
「ノラは奴隷です。ご主人様の奴隷です」
オレの驚きを他に、少女は淡々と言い放ったのだ。
それはオレとノラの真夜中の出会いだった。
初めて投稿しました。
とても怖いです。
狂い咲なんてふざけた名前をつけた奴がよく言ったもんだと思いますが、お愛読頂ければ感激です。