↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR

黒い雲の正体

作者: TOMMY
掲載日:2026/08/15

真っ暗な雲が空を覆っているように見える。

けれど、それは錯覚の類に決まっている。


実際には、無数の小さな水滴が、上昇気流によって宙を漂っているだけ。


ほら、黒い要素なんてないじゃないか。


それに近くで見れば、雲なんてものは存在しない。

ただ無数の水滴が集まっているだけのこと。


だから、怖くなんかない。


ピカッ、

と一瞬だけ、黒い雲の内側が光った。


雷──そう呼ぶ人もいる。


でも、それもきっと違う。

水滴が擦れ合うことで静電気が限界まで溜まり、空気中を放電する。


そんな現象が、本当に起こるだろうか。


空気は絶縁体だ。

そんなものが、突然光るはずがない。


きっと誰かが、あの雲の中でライトを点けたのだ。

一瞬だけ。

そして消した。

それなら説明がつく。


ゴロゴロ、と空が唸った。


……雷鳴?

そんなはずはない。


音が空から降ってくるなんて、どう考えてもおかしい。


きっとスピーカーだ。

最近は、恐怖を煽って安全グッズを売る会社だってある。


簡単な商売だ。


……そうに決まっている。


ざあっと雨が降り始めた。

周囲の地面が濡れていく。

これは少し考えれば分かる。


空から水が落ちてくるなんて、自然現象として説明するほうがおかしい。


蛇口を全開にしたホースを、誰かが上空へ向けているだけだ。

そう考えれば、すべて説明がつく。


誰がそんな面倒なことをするのか?

知らない。

そんなことはどうでもいい。

現に、今ここでは水が降っている。


周囲を濡らすことが好きな変人が、どこかでホースを握っている。

それだけのことだ。


そう考えていれば──

怖くない。


僕は空を見上げた。


黒い。

どこまでも黒い。

その雲の向こうには、何かがいるような気がした。

目の光る怪物。

恐ろしく唸る化け物。


……いいや、そんなことを考える必要はない。


ここは人工物に囲まれた、人工的に作られた空間だ。


空も。

雨も。

雷も。


人間が作ったものだ。

だから安全だ。

怪物なんて存在しない。


存在したとしても、人間の手の届かないところだ。

この都会の真ん中に、そんなものがいるはずがない。

自然なんて、もっと遠い場所にあるものだ。


そう思えば、怖いものなんて一つもない。


僕は大雨の中へ足を踏み出した。


冷たい雨が顔に当たる。

頭上で、また空が光った。

反射的に足が止まる。


……違う。


ライトだ。

そうに決まっている。


次の瞬間、轟音が響いた。

僕は耳を塞いだ。


大丈夫。

これはスピーカーだ。

僕は企業に洗脳されないようにしてるだけ。

怖くなんかない。


そう言って僕は、もう一度歩き出した。


背後で、何かが光っている気がした。

振り返らなかった。

振り返る必要なんてない。


だってここは、人間が作った安全な場所なのだから。


背後の壁に、何か文字が浮かんでいた。

僕は見なかった。


決して怖いものなんてあるもんか。

定期的に人の恐怖心を煽るだけ。


ゲリラ豪雨も突風も異常気象も。

全部、人のエゴが作り上げた人工物なんだ。


知っている。


少なくとも──

昔の空は、こんなに黒くはなかった。


──僕は画面を切り替えた。


今日の天候設定は、ゲリラ豪雨。


雨量、風速、雷光。

画面に数値を入力していく。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
雨や雷を必死に別のものとして説明しようとする「僕」の姿が印象に残りました。最後に天候設定の画面が出てきて、静かな怖さが残る短編でした。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。