1章 14 家族の再開
「涙活」...続いてる?
それと私『セシル』僕『耕助』がしょっちゅう起こりますがご容赦下さい。
ピンポッピンポッピンポ〜ン、ピンポッピンポッ...
「壊れる壊れる壊れる」
私は慌てて玄関に行き鍵を開けると
ガチャ!!「にぃに〜!!!!どこ居るん?ねぇね!にぃにどこ居るんよ?!意地悪せんと早よ合わせて!!」
興奮しまくる三歳の兄嫁に沙織が黙って三歳の方を指差す。
「純玲?」
眼の前で振り返ってコチラを見る女性に、私は思わず呼びかけていた...
「三歳くん?どうして私を呼び捨てたの?」
そう言いながらも三歳を見る眼が、三歳を見ている事に僕は気付く。
「純玲!」「にぃに!」
感極まり抱き合う3人......
「ちょっと邪魔しないでよ!」
そう言って私は沙織を押し退けると
「なぁ〜んでもう戻っちゃうの?!」
「アンタがいらん事するからやん!」
沙織の文句に私が言い返すと
「...セシルさん?」
純玲にそう言われ私は
「...ハイ」
何だか申し訳なくなってしまった。
「...ちょっと、代わってよ」
「だから無理だって!」
沙織の我儘をいなしていると、今度は情けない姉妹喧嘩が...
「お姉ちゃんしつこいよ〜」「純玲は黙ってて!」「はいはい」
「精神年齢逆転してるわね」
私のツッコミに沙織が異を唱える。
「純玲の精神年齢がそこまで高いわけないやん!さっきもアンタの事『にぃに』って!」
「お・ね・え・ちゃ〜・ん?」
ドン!
「怒って...い〜い?」
「ハイ。お口チャックシマス」
純玲の怒気に当てられジェスチャー付きで沙織が硬直した。
一連の流れを見て思わず僕は
「いつの間にそんな遊び覚えたんだい?」
「耕にぃの3回忌くらい!」「にぃにの火葬場で...?...!」
笑っていると二人の答えが食い違い...
「シャボン玉!歌!覚えてないの?!」
純玲が腰に手を添え、かがみ込みながら沙織に顔を近づける。
「あれぇ〜?そうだったかなぁ〜?」
冷や汗を掻きながら沙織はそっぽを向き、惚けようと...
したら純玲に両頬を挟まれ、おでこが付きそうな距離で睨まれる。
(よく見たらあの距離でまだ目線を逸らしてるよ)
「火葬場の人に怒られて!『ゴン』お姉ちゃん謝らずに言い返して!『ゴン』その時からでしょ!『ゴニュ!』」
三回頭突きし...ゴニュ?
音の変化に気付いた僕は慌てて沙織に近寄り...
「ハラホレ◯レハレ〜」
コレを言うやつ居たのか...
ジャーーッ!キュッ!キュッ!
純玲が濡らした台拭きで沙織の額を冷やす。
知らない間に多才になった二人を見て僕は
「元気そうだね」
ちょっと呆れながら二人を眺めた。
台拭きでタンコブを押さえながらお茶を啜りつつ、沙織が
「ねぇ?恵子も呼んで良い?」
と私に聞いてきた。純玲の入れてくれたコーヒーを飲み...
「純玲、コーヒー入れるの上手だね♪美味しいよ」
僕は褒めながら純玲の頭を撫でてた。
「アンタほんとは何時でも耕にぃと代われるでしょ!?あと!」
まだ何か言いたそうな沙織をチラッと見ながら、もう一口コーヒーを飲み香りを楽しむ。
「ソレよ!ソレ!!アンタ私に嘘教えたわね!!」
「私じゃないでしょ」「屁理屈言わないで!!」
アホなやり取りを聞いていた純玲がため息をつきながら
「ソレをしたのはお兄ちゃんでしょ」
「「ねー♪」」二人して顔を合わせて頷き合っていると
「なんで!ねぇ?何でそうなるの?!」
流石に私でもちょっと可哀想になってきたので、沙織側の理由を教える事にした。
「アナタ、私の付き人にソックリなのよ」
「.........分から〜〜〜〜〜ん!!」
叫ぶ沙織に私は「同じ扱いして!...って意味よ」と言うと
「可哀想」「ぶっ!?」
沙織の台詞に純玲がウケた。沙織のこの感性...
「やっぱ似てるわ。因みにもう一人居るわよ」
私の一言に純玲が嫌そうな顔を私に向けながら、辛辣な一言を返した。
「こんなの三人も面倒見れない」
「ここには一人だから良いじゃない」
改めて思う。この三人は似ていると思った。
「そんな事より恵子さんだけど、今も付き合いあるの?」
私の問いに二人が答えてくれたが
「聞こえてたんならボケないで真面目に答えてよ!」
「お姉ちゃんと職場が同じですよ」
取り敢えず沙織は無視して純玲に答える。
「そうなんだ。でも何故呼びたいの?」
私の質問に純玲が言い淀むと沙織が真面目に答えた。
「それは恵子も、耕にぃの事が好きだったからよ」
僕は驚き純玲の方を見ながら
「まさか恵子ちゃんも独身なのか!?」
ドッ、バタン!「酷すぎるよ、耕にぃ...」
立ち上がりながら、椅子から落ちた沙織を見ていた僕に純玲は
「結婚して浩之も居るから安心して」
その一言に僕は安堵し座り直す。
「良かったぁ」「酷すぎるよ?耕にぃ?」
沙織の天丼の使い方がうまいなと感心して私は
「アナタ、他の二人よりボケの緩急上手よ♪」
「嬉しくないし!耕にぃのままで居てよ!」
そんな事より恵子さんだが、沙織と同じ職場と言う事は
「三歳の上司...だったりする?」
私の問いに純玲が首を振り、沙織を見ながら人差し指を向け
「アレの上司です」「純玲?!人に指差しちゃ駄目なんだよ!?」
このやり取りはもうお腹いっぱいなので話題を変える。
「恵子さんっていつも成績ギリギリじゃ無かった?どういう事?」
私の素朴な疑問に純玲が申し訳なさそうに沙織を見て
「お姉ちゃん、私が学校行けるようにって...働いてくれたんです」
いつの間にかキチンと腰掛け、沙織が優しい眼で純玲の方を向き
「気にしないでって言ったでしょ。お姉ちゃんは、やりたくてやったの」
二人の顔を見て僕は涙を堪えながら
「ごめんな」と謝った。さっきまでと違い、真剣な眼差しで沙織が聞いてきた。
「どうして健康診断...ううん...仕事変えたの?」
「...なんで」分かったのか聞こうとしたら
「分かるわよ。社会保険から国民健康保険になってたんやもん」
そうか...眼の前に居るのは子どもだった沙織じゃない。今は
「大人になって苦労したんだな」「耕にぃは二人!私は純玲だけ!大した事ない!」
溢れる涙を堪えもせず泣く沙織に歩み寄り、頭をそっと撫でると
「...うっ...うぅ...」
僕の腰に抱きつく沙織と、ずり足で近づいてきた純玲を抱き寄せながら
三人静かに呻きながら、声を殺して啜り泣いた。
作中に出てくる『天丼』とはお笑い用語で『繰り返し』という意味です...あと
次の話まで『涙活』続いてるかもしれない




