1章 11 発覚?!
「昨日電話で様子がおかしかったから見に来たけど、何ともなさそうね〜」
お米を計測してたら突然義姉がそんな事を言ってきた。
「ひょっとして風邪引いたとか思った?」
昨日電話で心配してたのでそう聞くと義姉は
「彼女の線もちょっとだけ疑ったかな?」
と言って笑った。俺は
「お酒買ったって事は泊まる気なんでしょ?シャワーで良かったら先に入って下さい!」
悪ふざけしようとしてる義姉にそう言いながらお米を研ぐ。
「お風呂ちゃんと入りたいからご飯のあとにする〜」
「だったら浴槽のお湯抜いて清掃してお湯張りお願いします」
「シャワー浴びてくる〜」
「………」
見た目はそこそこ可愛らしい方なのに独身なのは
(やっぱあの性格のせいなのかな?)
そんな事考えていいると魔力回路がきた!?
『女に入浴させるとは...お主は飲むなよ』
『...嘘でしょ!?そうなの?!』
「断じて違う!!」
二人のわざとらしい曲解を否定すると風呂場から
「何が違うの〜?」
と義姉が聞いてきたので「なんでもない」と誤魔化す。
『頼むから邪魔しないでくれ!気が散るし口と頭と心が訳分からんくなる!』
『マルチタスクとかで対応出来ないの?』
俺の懇願にセシルが無慈悲な事を言うとリアが仲介する。
『作戦行動で慣れておるお主には簡単でも、ソレを訓練しておらぬ石上に出来る訳なかろう』
『ふ〜ん...それもそうね』
何故かセシルが嬉しそうだが、俺はビーフシチューのルーを入れながらもう一度お願いする。
『...努力はするわ』『諦めよ』『分かった』
悪戯を止めない不良に躾が出来ない事を思い出し、俺は社畜時代に培った対処法で現実だけを観る事にした。
いきなり漆黒の壁?が現れた。
いや、これは違う...絶望に落ちた人の心に似ているが...
悲しみとか怒りの感情は全く無く辛うじて哀れみや蔑みの残滓のようなモノが視え...
(これはイカン!!)
我はセシルの元に急ぎ触れた!!!
いきなり五感が閉ざされた気がした。
『...?』
おかしい...身体は有るし鼓動も感じられるが...自分の身体じゃない気がする。
目は開いてるしクレアがそこに居るのも理解るのに分からない!!!
精神操作系の魔術でも効果の及ぶ感覚を知覚出来る為、即驚怖する事は無いが...
『怖い!恐い!!コワイ!!!』
この包まれる虚無感はなんだ!!!!初めて感じる操り人形を傀儡しているように感じるこの現象を私は知らない!!!!!
『セシルよ!!』『お嬢様!!』
身体を揺さぶられ耳元で声を掛けられる事で戻れた。
「はぁ...はぁ...はぁ...」
呼吸が乱れ息が上手く出来ない...
「コレを口に当てよ!」
リアが近くにあった袋を私の口元に当ててきた。過呼吸になっていたのかと理解し、意識して数回ゆっくり呼吸すると...
「クッサイわ!!!」
私が嘔吐きながら言うとクレアが別の袋を「クンクン」と嗅ぎ
「臭いですぅ〜」
袋をバタバタさせながら言うとリアが「ニオイを拡散させるでない!」
とクレアに言いながら袋を取りあげた。
渡された袋を良く見るとエアジェネレーターの詰め替え用の袋だった。
そんな事はどうでも良いと気を取り直し二人に礼を言った後、私はリアの方を向き改めて何があったのか聞いてみた。
「おそらくじゃが...石上が我等を拒絶したのじゃろうな。現にお主との魂の繋がりは途絶えておらんが、我との魔力回路は切れておる」
「な、何やったんですか!!二人共さっきお腹抱えて笑ってましたよね?まさか...普段私達にするような事を...」
青くなりながら言葉を失うクレアにセシルが顔を覆い項垂れ、それを見たクレアが頭を抱えながら天を仰ぐ。
「またやらかしてるぅーーー−−−…」
消え入りそうなクレアの絶叫を聞きながら、私はふと思った疑問を口にした。
「三歳は魔力の扱い方も知らないのに、どうやってこんな事が出来たの?」
「お主、石上と外で今の人々を見たんじゃろ?なら...理解るのではないかぇ?」
私の疑問に答えたリアの言葉に戦慄を覚える!ショックを受けた私を見てクレアがどういうことか聞くと
「石上め...我とセシルの魔力回路が繋がってる部分に虚無空間を作り出し、認知する事自体を止めたみたいじゃの」
「そんな事出来るんですか?!」
リアの回答に驚くクレア...
「魄を...部分的に閉ざしたのじゃろうな...器用じゃと思う反面、このような技能を普通に使える程にならねば生きて行けぬ日本だとは思わなんだわ」
「平和って...魔物に襲われる事すら無い世界だと、人間しか敵になり得ないから...心が貧しくなっていくのかしら...」
「ちょ、ちょ、ちょっと待って下さいよ!御二方共何を言ってるんですか?!この日本って安全で豊かな場所だって言ってませんでしたか?平和な所で人間が敵って意味が分からないんですけど!?」
リアの説明と解釈に私がこぼした解釈を聞いたクレアが取り乱す。
「スマンなクレアよ、我もセシルも石上を本気で怒らせた事に戸惑ってしまっただけじゃ。明日の朝にでも真剣に謝ればアヤツは許してくれるじゃろう」
「そうね。三歳は年齢の割には落ち着いてるし、人間が出来てるから多分大丈夫よ♪」
リアと私の言葉にクレアは肩を震わせ...
「...夫じゃない」
何って私が聞き返すとクレアは
「大丈夫じゃありませーーーーーーーーん!!!!!」
その場で絶叫するクレアに驚いて耳を塞いでいると、流石に騒ぎを聞きつけ何人かやって来る。
クレアはそんな事には目もくれずに、とんでもないことを言い放つ。
「石上様の怒りが収まり次第、此処に石上様を連れて来て下さい」
クレアの無茶に私が何か言おうとすると
「出来ますよねぇ?!日本で美味しいモノ、飲み食いしましたよねぇ!?」
「あっ、ハイ」勢いに押され思わず返事した私に尚も
「リア様ならいざ知らずどうしてお嬢様まで!分別位弁えてましたよね!?」
コッソリ逃げようとしたリアを睨み、クレアの説教は更に続く。
「と・に・か・く・声に出して石上様と伝達魔法なさって下さい!リア様も通訳してもらいますからね!」
クレアの勢いに「お、おぅ。分かったのじゃ...」いつもの切れ無くリアも返事させられた。
気付けばアヴェイルやカーウィン、ヨーマンも居て...完全に包囲されてしまった。
普段怒らない人間を怒らせてはいけません




