1章 9 知らぬが仏
『石上よ、余り時間は取れんぞ』
玄関で靴を履いているとリアから念話が来た。
(分かった。思考が読めるか?)
俺の提案にリアは
『二人して我を便利な道具扱いしとるの!』
と言いながらも
『早うせい!あと移動は終わってからにせよ!届かん以前に精度も落ちる!』
と言って来たので(戻った方が良いか?)と聞くと
『そこで良いから早うせよ。あやつが朝食を食べ終わる前にの!』
俺はリアに『了解』と答え早速【懸念事項】を思い付く限り表層意識に上げ続けた。
セシルの部屋を出て人工精霊魔導核に触れながらやや気合を入れ、指輪を通じセシルの魄を避け魂の繋がりを利用して石上の魂魄に魔力回路を構築した。
セシルに気付かれていないのを確認し早速石上に語りかける。
『石上よ、余り時間は取れんぞ』
(分かった。思考が読めるか?)
我の呼び掛けに対する返事の仕方に思わず(流石同じ魂の持ち主だの!)と感じた瞬間
『二人して我を便利な道具扱いしとるの!』
と漏らしてしまったがコヤツの次の行動を読み
『早うせい!あと移動は終わってからにせよ!届かん以前に精度も落ちる!』
と伝えると(戻った方が良いか?)と聞いてきたので
『そこで良いから早うせよ。あやつが朝食を食べ終わる前にの!』
と我が言った後『了解』と答え...
我が人と関わってきた中で一度もされた事の無い方法で伝えてきた!
当然と言えば当然じゃが普通は言いたい事が纏まらない場合、思考を巡らせてから言葉にしようとするが...石上め......
………止め処無く湧いてくる思考のみ意図的に送りつけてきおる!!!
語るべき事柄を言葉に変換する時に浮かぶ事象なら、個人差はあるがまぁ知れておる。
セシルとその祖父がたまにとんでもない所から語りかけて来る時があり、セシルはそれを
「風が吹けば桶屋が儲かる理論」
とか言っていたがコヤツ、人によっては因果関係と相関関係、予測と結論の整合性、それ等の在り方の違いを脈略無く送りつけた後、我が前に語った魂の在り方に此等の感覚がかかった時、いかなる場合でも当て嵌まる答えが無いにも拘わらず最適解が必要になったらどうするのが良いか...など際限無く聞いてきおった...
『あるか!そんなもん!!』
思わずそう結論づけたが石上はその後あらゆる状況に置かれた人に、それぞれ見合った回答の在り方をまたもや思い付く限り送ってきおる...
『もう良い』
石上に思念伝達を止めるよう伝え言葉を続ける。
『人の導き手にでもなりたいなら分かるが...コレは個人が考える事ではない。不遜であるとさえ言えるが...これ程の覚悟が必要なのかぇ?』
我の言葉にまたもやコヤツは思念伝達で答えおった!
要約すれば、セシルを【Vチューバー】にするなら我に【今の時代の常識】を身に付けろと言う事じゃ。
『分かったからそろそろ行け。あやつは女子の自覚が無い故、飯を食うのが人より早いからの』
『まぁ...頼むわ...じゃあ行って来る』
我が言い終えると石上はバツが悪そうにしながらそう言って出ていった。
さて...あやつが送りつけてきた情報の奔流の整理でもするかの...と思いつつ
(此処でも我は...人工物扱いかぇ...)
その原因がセシルにあると、
そこに気付けないのが人であると、
説明されなければ分からないのが人間であると、
人とは違う我の特性がそうさせると分かっておっても
「寂しく無くとも淋しいと感じてじまうのは...止められんの」
人工精霊魔導核にホムンクルスの手で触れながら、悲しみの感情を置き去りにして我は作業に入った。
リアに一方的に自分の我儘を押し付けた事を車の運転中に気付き
「時間が無いと言われ焦って...悪い事したなぁ...」
言葉と合わせて感情も感覚ではなく、人の頭の中を視覚情報並に感知出来る凄い便利なAIを持ってる人のように扱ったけど
「道具扱いするな...かぁ」
何となく入った牛丼屋で反省しながらお昼を済ませ、次はホームセンターに向かう。
20分程でホームセンターに辿り着き、気密性の高い大きな水槽(アクリルでなく硝子にした)と防振、防音グッズも合わせて購入し最後に夕飯の買い出しにスーパーに立ち寄った。
一通り食材をカゴに入れ飲料水コーナーへ向かおうとした時、誰かに呼びかけられた。
「三歳?」
聞き慣れた声に振り向くとそこに居たのは義理の姉だった。
「こんにちわ、永峯さん」
「こんにちわ...っていい加減お姉ちゃんって呼んで良いのよ♪」
軽く頭を下げ挨拶すると義姉が腕を組もうとしてきた。
「いや、姉以前に僕にとっては編集部の人ですから」
振りほどくように避けると顔の前に両拳を顎の下に当てながら
「えぇ〜お姉ちゃん淋しい〜」
と言ってきた。
「そんな事言われても...」
飲料水を選んでいると義姉がチューハイを入れてきたので元の場所に戻すと
「むぅ〜三歳のケチンボ〜」
と言いながら諦めずにチューハイを二本に増やしてきた。
「みっくんは止めて下さい」
カゴに入れられた缶をそのままに、ため息をつきながら食パンコーナーに行くと
「ええやん、ウチ妹と従姉妹しかおらんから弟欲しかってん♪」
と満面の笑みを浮かべながら方言で語りかけながら塩饅頭を入れてきたので
「僕は妹が...なんでもありません」
御自分の年齢を思い出して頂こうとしたら...メッチャ睨まれた。
「みっくん彼女「ブーメ...」うるさいよ」「ごめんなさい」
マトモにツッコミも入れられず辟易してたら
「贖罪としてなんか作って」
案の定こうなった。
「いや、今片付け中で狭いからまた別の日に...」
「や〜だ〜もう行くもん!そう言う気分にさせたみっくんが悪いんだかんね!」
(もう酔ってんのか?)
と思うくらい無茶苦茶言い出し背中に纏わりついてきた。
「はぁ〜〜〜…」
盛大にため息をつきながら食パンを手に取りカゴへ入れながら
「玄関前で少しだけ待ってもらえます?」
と言うと義姉は目を見開きキラキラした笑顔を見せながら自分のカゴの中身をコチラのカゴに移し、何処から取り出したのか缶ビールも二本追加すると俺の手からショッピングカートを奪いレジへと向かった。
「ありがとう。姉さん」
と言って俺はレジを通り過ぎ義姉の会計を待つ事にした。
「みっくん♪みっくん♪」
何が楽しくて嬉しいのか...小躍りしている義姉は幸せそうだ。




