天使のような怪獣のいる幸せ
「ただいまー!」
ガチャッ!
俺が天使な家族達が待つマイホームに帰宅すると……。
「お、お帰りなさい……。」
「ニャ、ニャー……。」
「さ、さくら、あんず、ど、どうした??」
銀髪青い目の北欧系美女で思いやり深い天使のような妻のさくらと、おでこのトラの模様がチャームポイントの空気を読む天使のような三毛猫のあんずが、双方やつれた様子でヨロヨロと玄関にやって来たので、俺は目を丸くした。
「きょ、今日は、菫ちゃんのご機嫌があんまりよくなくて……。一日泣き通しでして……。
さっき、ようやく寝付いてくれたんです…。今、寝室で寝ています。」
「ニャニャ、ニャニャ〜……。」
「そ、そうか…。た、大変だったんだな……」
さくらとあんずに同時に説明を受け、今日の石藤家の小さな天使兼怪獣が荒れに荒れていた事を知った。
「えっと、あんまり大変な時は家事無理しなくていいぞ?ご飯も適当に食ってくるし……」
「いえいえ、それはダメですぅ! 良二さんと過ごす時間減っちゃいますし!
帰ってから、私が家事をしている間、旦那様にスミレちゃんを見ててもらう方が有難いですぅ!」
必死の形相で、そう迫られ、俺はタジタジになりながらコクコクと頷いた。
「そ、そうなのか…? じゃ、じゃあ、俺、スミレの側についているよ…。」
「はいっ。お願いしますっ! じゃあ、私、ご飯の用意出来たら呼びますね?」
安心して、少し元気を取り戻した様子のさくらは、るんるんとキッチンへ向かって行った。
ふうっ。どうやら、それで正解だったらしい。
俺は汗を拭うと、寝室へ向かった。
「チュパッ。すー……。すこー……。」
ベッドの上には、小さな体を横たえ、親指をしゃぶりながら健やかに眠っている天使がいた。
その天使は、去年の5月にさくらが産んでくれた俺達の大切な長女、石藤菫だった。
「可愛いなぁ……。」
サラッ……。
母親譲りの柔らかな銀髪の髪を撫でながら、仕事の疲れが吹っ飛ぶような気がしていると……。
「ニャー……。」
「あんず……。」
いつの間にかあんずが側に来ており、「寝ている今は天使だけど、起きている時は大変だったんだぜ?」というように一鳴きした。
スミレが赤ちゃんの間は、初めて見る小さな生き物にビビっていたらしく、あまり近付かなかったあんずだが、1歳と数ヶ月経った今、つかまり歩きで部屋中を動き回るようになったスミレを妹分だと認識するようになったのか、あんずは大分遊んでくれるようになっていた。
「分かってるよ。あんずも大変だったんだよな?いつもありがとうな?」
「ニャー……! ニャ……。」
労をねぎらうように、撫でてやると、あんずは気持ちよさそうな声を上げ、疲れていたのか、彼女もその場で、丸くなってスヤスヤ寝てしまった。
カチャ……。
そこへ、そっとドアを開けたさくらが顔を出した。
「(あら、あんずちゃんも寝ちゃって……。良二さ〜ん。ご飯の用意出来ましたよ〜?)」
「(ああ……。ありがとう。)」
スミレが起きないようにささやき声で声をかけてくるさくらにささやき声で返すと、その場を離れたのだった。
✻
「スミレちゃん、最近は特に理由なく長泣きする事が多くって……。泣く理由も分かってあげられない自分は母親失格なんじゃないかと落ち込んでしまって。
今日、菫ちゃんを連れて、保健センターに育児相談をして来たんですが、
「この時期の子は何か思い通りにならない事があると、泣けてしまって、大変だけど、親御さんも、ストレス解消したりしながら、乗り切って行ってね〜」
って、保健師さんが優しく声をかけて下さって、私の方が号泣しちゃいました」
「そうなんだ。どこか悪いところがあるとかじゃないなら安心だけど、菫、もう反抗期のような時期に入っているんだな。菫の事、いつもありがとうな……。さくらは本当にいい嫁、いい母親だよ」
「うえ〜ん。良二さん〜……!」
夕食後、話を聞いて、まだ泣いた跡が残っているさくらを抱きしめると、彼女は再び号泣し出した。
「えぐえぐっ。良二さんも次長になってお仕事忙しいのに、いっぱいいっぱいになっちゃっててすみません。
辛い事とか変わった事とかないですか?」
「いやぁ、そりゃ、次長になって、プレッシャーはあるけど、仕事自体は、順調だし、一緒に仕事をしている小坂さんは豪快だけど、いい人だし、こっちは特に問題は……」
と言いかけて、ふいに新しい派遣社員の女性が化け物でも見るような目で俺を見ていた事を思い出した。
あれ、結局何だったんだろう?
かすかにどこかで見覚えがあるような気もするんだよな?
名前、何と言ったっけ……? 確か、やが…矢貝? 谷賀? なんだっけ?
俺が考えていると……。
「あぎゃ〜っっ!!」
「「!!」」
大きな泣き声が聞こえて来て、俺とさくらは寝室に飛んで行った。
ガチャッ!
「マーッ! マーッ!!」
ドアを開けるなり、スミレは、黒い瞳から大粒の涙を流しながら、さくらのスカートに飛び込んで来た。
「よしよし、スミレちゃん、ママだよ。おっきして誰もいなくて寂しかったね〜?」
「マーッ!」
母親失格と自分を責めていたというさくらだが、スミレを抱きしめる彼女は、もう、すっかり母親の顔をしていて、その姿をとても尊いものに思えた。
「あ!」
さくらに宥められ、ようやく泣き止んだスミレは、ようやく俺の姿に気付いたらしく、大きな目をパチクリさせていたが、ゆっくりと笑顔になっていった。
「ッパー?」
…!!!
「そうだよ。スミレちゃん。パパ、お家に帰って来たんだよ?って、良二さんっ?!」
「ううっ…!! スミレッ…!!」
さくらに驚かれる中、俺は号泣しながらその場に崩れ落ちたのだった。
娘、可愛過ぎ…!!!
*あとがき*
読んで下さり本当にありがとうございますm(_ _)m
今後ともどうかよろしくお願いします。