ジェットコースター
…あと9分か
「はぁ・・・はぁ・・・」
今私はこれまでの人生の22年間の中で一番緊張をしている。決して誇張しているわけでも話を盛っているわけではない。
なぜか?それは単純だ。今私は大学の合格発表の確認をしている。それも日本一の大学だ。
・・・しかし、これで四度目となるが。
だが!今回は今までとは状況が違う!
一度目、二度目、三度目との違い、それは、母親の存在だ。
簡潔に言うと母親は自殺をした。受験が終わり帰宅すると首を吊っていた。
さすがに私も驚いてしまったよ。まさか私を残して逝くとはさすがに予想外だった。
別に自殺するのはいいが、保険に入るくらいしてほしいものだ。
p.m6:24
何故自殺したのかはいまだに分からないが、私が原因だと隣に住む50代の老害が言っていた。
思いっきり殴ってやろうかと思ったのだが、さすがにトラブルを起こしてしまうのはまずいと思いやめた。
そして私はあの老害に過去で一番低い点数を付けた。-84点。
容姿、態度、清潔感、コミュニケーション能力、社会性、協調性、資格能力――
偏見も多いが、私の偏見に間違いはない。
p.m6:27
母の話に戻そう。
死んだ後だな。
私は葬式などはしなかった。
というより私は葬式という行動には意味がないと思うのだ。
なぜ故人に金をかけるのか意味が私は理解できない。
死んだ者が生き返る訳でもないのに、本当に私には理解できない。
ではどうしたって?
私はカルト宗教に遺体を渡したんだ。
費用もかからず、燃やすだけだと聞いた。
それを聞いたら渡さずにはいられなかった。
なぜなら過程はこっちの方がメリットがあるからだ。
葬式にはお金、時間が食われる一方、カルト宗教は金もかからないし時間も短時間だ。
つまり何が言いたのかというと私は結果よりも過程を求める人間であるという事だ。
ピピピピピッ
この音はもう時間か!こんなことを考えている時間はない!
p.m6:30
来た!私の運命を決めるときが!
私はすぐさまスマホをとり大学のホームページを開いた。
20130だ。20130があればいい!
20113
20119
20122
20126
20127
20129
「何! 私の隣の奴が受かってだと! アイツは社会人だぞ! それにアイツは初めて見る顔だった…1年で合格したのか! 私は4年間も受験しているというのに!」
落ち着くんだ頼蔭。隣の奴が受かっただけだ。心配するようなことなんかない。
なぜなら私は今までの中で今年が一番手ごたえがあったからだ!
終わった後の自己採点ではベスト記録を更新し、SNSでは過去で一番難しかったという声もある中私は最高点だぞ!
よし、安心に浸った内にいくぞ。
重りのかかったような指で私はスマホに指を置いた。
「来い、20130だ! 来い!」
20127
20129
20130
20136
20138
「20130だ。あった…あったぞぉぉおおお!」
フ……フハ……フハハハハハハハハハやったぞ!
ついに! ついに! 私の努力が実になったのだ!!!
家族、友人、彼女、スポーツ全てを切り捨て私はこの国の頂点の大学に入ることの成功した!
これで私は500万いや700万の仕事に就ける事が確定したんだ!
ハハハなんていい日なんだ!今日を祝日にしてしまいたい気分だ!
今までの勉強は無意味ではなかった!
努力の意味を作るのは自分自身なのだ!
やはり努力は裏切らない!
ピンポーン
「・・・チッ」
なんだ!誰だ!!
私の優越感に浸る時間を邪魔する奴は!
・・・一応誰か確認しとくか。
所々ある白髪、手入れができていない顎髭、空いてるのか分からない程細い目、無駄に整っている鼻、
コイツは・・・
「あの、乾くんいるかい?」
あの老害か。若者である私の時間を奪うとは、さっさとあの世に行くべきだ。
ガシッ!
…ダメだぞ。頼蔭いつもの私に戻るんだ。
ドアノブをそんな強く握ってはだめだ。
優しい表情で紳士のような私に戻るんだ。
神父のように、子供を救う大人のように、子供ができたばかりの父親のように、部下の成長を喜ぶ上司のように、ファンにサインを書く漫画家のように、子供を救うヒーローのように。
・・・イメージ完了だ。
「今、開けますよ」
キーーーッ
「ごめんね、乾君」
ドスッ
「・・・え?」
ポツポツ
何だこれ?
何だこれはぁぁぁああああ!
痛い!痛い!痛い!痛い!
血が!私の血が!
「ギャァァアアア!」
まずい、本当にまずい!
「乾君・・・っごめんよ」
何泣いてるんだこのクズは!泣きたのはこっちの方なんだよ!
「…ッ!」
まずい、本当にこの出血量は死ぬ。確実に死んでしまう!
「は、早く救…急車を」
「これも・・・これも君のためなんだ!」
なんなんだコイツは!私のスマホは・・・クソ机の上だ!
「私は・・・ッガ・・・私は日本に必要な人間なんだ! こんな所で死ぬべき人間じゃないんだよ!」
「・・・」
「助けてくれぇえええ! 誰か!」
クソが、血が止まらない。意識が・・・朦朧と・・
「―――――ごめんね」
死ぬ・・・のか?私が?こんなクソ老害に?
「…私は―――――」
p.m6:32