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さとり様シリーズ  作者: さとりたい
シーズン2『さとり様、恋は全部バグですから!』
9/9

『さとり様、恋は全部バグですから!』 第1話「この感情、予定外です!」

『さとり様、恋は全部バグですから!』 第1話「この感情、予定外です!」



感情制御値:今日も安定。 心拍64。呼吸浅め。視線制御完了。


わたしは完璧。揺れない。揺れるはずがない。


――と思っていた。


「今日からこのクラスに来ました。カケルっていいます。よろしくお願いします」


視覚データ照合中……未登録。 初期同期なし。転校生、確定。


「……わたしは感情制御委員。アマネ。あなたのログ管理は、こっちの管轄」 「アマネさん。よろしくお願いします」カケルは微笑んだ。


……ちょっと待って。 名乗ったっけ? あ、名乗ったわ。でも即座に呼ぶ? 距離感おかしくない?


《KANON:記録“アマネさん”を保存しました》 《KANON:心拍数が3上昇しました。備考:たぶん、気温のせいです》 「……KANON、黙ってて」


「呼称は自由。でも、記録には残らないから」 「残らなくても、印象には残ると思います」カケルは自然に言った。


……そういうこと、堂々と言うタイプ? やばいタイプかもしれない。


「アマネさんって、いつも背筋が綺麗ですよね」 「姿勢制御は規律の基本。褒めるところじゃないわ」 「でも、そこに意志を感じるっていうか。背中がまっすぐな人って、素直だなって」


何それ。観察過剰。意味不明。


《KANON:記録“voice_log/002”を保存しました》 《KANON:再生を中止しました(保存のみ)》


お昼休み。わたしは人の少ない中庭の隅で、静かに咀嚼中。 そこへ、またもカケルが来た。


「隣、いいですか?」 「空いてるけど、話しかけると消化率が落ちるわ」 「じゃあ静かに食べます。……それ、おいしそうですね」


何? それも褒め? ログに記録する必要ある?


しばらく沈黙。わたしは視線を感じながら弁当を片づける。


「アマネさんって、誰かを守ってきた目をしてる気がします」 「は?」 「ずっと見守ってる人の目、というか……優しい人なんだなって」


急に何? 急に“目”とか“優しさ”とか言い出す?


《KANON:心拍数が6上昇しました。備考:たぶん紫外線のせいです》 「……KANON、それ以上喋ったら電源切るわよ」 《KANON:記録“見守る目”を自動保存しました》 「あとそれも保存しなくていいって言ってるのに」


「わたし、見られるのは苦手なの」 「でも、見られるのが苦手な人って、自分から人を見てることが多いんです。誰かのことを、ちゃんと気にしてるから」カケルは真顔で言った。


……ああもう。 反則。今の、反則。よくわからないけど。


《KANON:再生回数が2から3に増加しました》 《KANON:再生ログ“name_call_3rd”を保護モードで保存しました》 「KANON、再生履歴もバレるとか最悪」


放課後。非公式ログ整理中。


name_call.mp3 → 再生回数9 intro_voice.mp3 → 意味不明だけど消せない 見守る目.txt → なんで保存したの、私。


下校時。 カケルが声をかけてきた。


「委員長、今日の記録ってどうでした?」 「……異常なし。たぶん」 「たぶん?」 「気温変動、湿度変化、予定外の接触……そのあたり」 「接触って僕のことですか?」 「どうだか」 「でも、また“接触”してもいいですか? 明日も」


また、名前で呼ばれる。 また、保存される。 また、心拍がちょっとだけ上がる。


《KANON:記録“明日も来ていい?”を非公式ログとして保存しました》 「……KANON、もういいってば」


「……来てもいいけど、べ、別に許可したわけじゃ……ないから」


――記録、予定外。だけど、悪くない。


今日のログは、削除せずに残しておこう。 気温のせいでも、湿度のせいでもなく。


(おわり)



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