『さとり様、恋は全部バグですから!』 第0話「今度は、私が恋をする(予定)」
わたしは、輪廻した。
たぶん、そういうことだと思う。
記録には何も残っていない。
だけど、風に乗って届いた詩の断片と、あの声のぬくもりだけが、まだ胸に残っている。
誰かに恋をして、誰かに名前を呼ばれて――
それでも、わたしはずっと、言葉を返せなかった。
だから決めたのだ。
今度は、わたしが恋をする。
――予定ではある。
いや、ちゃんと覚悟はしたのだ。
輪廻する前に、あれほどの感情制御エラーを経験しておいて、同じ過ちを繰り返すわけにはいかない。
私は変わった。
理屈じゃないものに揺れる自分を、ちゃんと受け入れると、決意した。
名前を呼ばれるだけで心拍数が跳ねるなんて、もう驚かない。
視線が合っただけで、頬が熱を持つなんて、誤作動じゃない。
それは、きっと――恋だ。
「……だと思うんだけど?」
ちょっと不安になっただけである。
きっとこれは、初期調整中の一時的バグだ。うん、それだけ。
わたしは、前よりもちゃんとしてる。前向きだ。開かれている。恋に対して。
「今度こそ、ちゃんと恋をして、
ちゃんと、名前を呼ぶんだから……っ!」
ああもう、なんか照れる。
言ってから自分で恥ずかしくなるの、ほんとやめてほしい。
……誰に対して?
まあいい。
どうせまた始まるんだ、恋のバグが。
でも今度は、逃げない。
この感情に、わたしのほうから飛び込んでやる。
――輪廻、再開。
さとり様、恋は全部バグですから!