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さとり様シリーズ  作者: さとりたい
プロローグ
1/9

さとり様は今日も平常運転 (語り手:アマネ)

午前五時〇三分、予定通りに目覚める。

昨夜の就寝予定は〇時〇分。実際の入眠時間は+二分。

誤差としては、許容範囲内。


私は、問題なく“わたし”だった。


部屋に漂う光は、中央塔の管理照度。

淡いグレーと薄金の中間色。

KANONの言うところの「集中に適した非感情色」だ。


……だが、私は密かにこの照明が嫌いだ。


「KANON、今朝の照度を2.1ポイントだけ上げて。0.2秒後に。」


「了解しました。理由の記録は?」


「不要。個人的嗜好。」


KANONが小さく処理音を鳴らし、照度がわずかに跳ねた。

ほんの一瞬、影の角度が変わる。

私は、誰にも見られていないことを確認して──小さく笑った。


「さとり」には、こういう遊びも必要だ。



洗面。水温、適温。顔の緊張感、標準。

表情チェック、完了。


「おはよう、今日の私。」


鏡に映る自分は、いつも通りだった。

目元も口元も、乱れなし。心拍も平常。

ただ、頬のあたりにほんの僅かな熱感がある気がして、私はKANONに尋ねた。


「今朝、何か異常感知波形の件数、増えてる?」


「本日午前四時台、観測数7件。平常範囲です。」


ふうん。

私はタオルで顔を拭きながら、“平常範囲”という言葉が一番危ういことを知っている。



朝食。栄養素は最適設計。見た目は…白い。非常に、白い。

咀嚼しながら、私は思った。


「この食感、記録されてないけど、“もちもち”って言葉で合ってる?」


KANONは0.2秒黙った。


「“もちもち”は旧感性語に分類されます。適応変換候補としては“弾性食感”です。」


「……弾性、かあ。なんか美味しくなさそうね。」



そのあと私は、逸脱波形の報告に目を通し、

午前八時に管理室へ向かう。


すべての数値は完璧。

でも私は、ほんのすこしだけ照度を調整し、

ほんのすこしだけ鏡に向かって微笑む。


KANONが気づいていないようで、

本当は全部、知っているんじゃないかと思いながら。


今日も、私は“さとり様”を演じる。

平常運転でいることが、

一番、異常なのかもしれないと思いながら。



(完)

さとり様シリーズとしてまとめました。

本篇のスピン・オフ的な感覚で作りました。

「感情バグってます」もここにまとめます。

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