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9話。モブ皇子、カミラ皇妃から母を助けて、ざまぁする

【ヴィクター皇子視点】


「まずいぃいいッ、なんだこのケーキは!? 俺様の好みの味も知らないのか!?」

「ひぃいい! お許しくださいヴィクター殿下!」


 俺様が熱い紅茶の入ったティーカップを叩きつけると、メイドは震え上がって平伏した。


 俺様はヴィクター、栄光あるセレスティア帝国の第4皇子だ。

 宮廷内では、俺様に誰もがかしずき、必死に機嫌を取ろうとする。そう、ちょうどこのメイドのようにだ。


 なのにルークとディアナは、下賤な生まれの分際で、この俺様に逆らいやがった。


 俺様は奴らに受けた屈辱の気晴らしに、中庭の薔薇園(ローズガーデン)でティーパーティーを行っていた。

 だが、贅を凝らしたお菓子と紅茶で舌を楽しませても、まるで気分が晴れなかった。

  

 なぜ正統な皇子である俺様より、下賤な魔族の血が入ったディアナの方が、お父様に目をかけられているんだ?


 ルークに至っては、またイジメてやろうと修行に呼び出したら、攻撃魔法がまったく当たらない上に、木剣でしこたま殴られた。


 どうやら、兵士たちに混じって剣術を齧りだしているらしい。動きが格段に良くなりつつあった。


 ……認めたくないが、もう【火炎驟雨】(ファイヤー・レイン)を使っても勝てないんじゃないか?

 そう思った瞬間、頭が怒りと屈辱に沸騰した。


「早く代わりを持って来い! 10秒以内だぁ!」

「きゃあ! そんなご無体な!?」


 脇に置いていた鞭で、メイドを打ち据える。メイドは大きな悲鳴を上げた。

 やっぱり弱い者イジメは、最高の娯楽だ。


「グズ、ノロマ! さっさとしろ!」


 俺様はメイドに、さらに鞭を振るった。


 そうしないと、あのルークとディアナの顔が浮かんできて、憎しみに身を焼かれそうになるのだ。


「この偉大な俺様をコケにしやがって!」


 ひとしきり八つ当たりすると、メイドは気絶してしまった。


「はっ? 俺様の命令を無視して気を失うとは、どういうつもりだ!? クビにしてやるぞ!」

「だいぶ、荒れているわねヴィクターちゃん。わかるわ、その気持ちはお母様も同じよ」


 お母様が俺様をやさしい声で慰めてくれた。


「でも、安心して頂戴。あいつらに復讐する良い手を思いついたわ」

「ホントですか、お母様! でもディアナはお父様に気に入られているのに、どうやって?」

「ふふっ、それはね……」

「何をなさっておいでなのですか!?」


 お母様が口を開こうとした時、凛とした美声が響いた。

 やって来たのは、あのルークとディアナの母であるルーナだった。


 子持ちでありながら、思わずこの俺様がハッと見惚れてしまうほど美しい女だ。それもその筈、ダークエルフは10代後半で老化が止まり、外見は永遠に少女のままだ。


 この前の一件で、ディアナの評価がまた上がったために、その母ルーナも宮廷を自由に歩く権利を与えられていた。

 なんでも、ディアナがねだったらしい。


 大人しく牢獄塔に引きこもっていれば良いのに、しゃしゃり出てくるとは……


 ルーナは気絶したメイドを助け起こすと、懐から【回復薬】(ポーション)を取り出した。


「さあ、これを飲んでください。私の作った【上位回復薬】(ハイ・ポーション)です」

「んっま! 何を勝手なことをしているのかしら、魔族風情が!」


 お母様が憤慨して立ち上がった。

 

「それは、私に仕えるメイドですわよ。下がりなさい!」


 しかしルーナは無視して、メイドの口に【上位回復薬】(ハイ・ポーション)を流し込む。


「こ、この私の命令が聞けないというの!?」


 お母様は俺様の手から鞭をひったくると、ルーナに向かって振り上げた。


 【魔法封じの首輪】をかけられているルーナに抵抗するすべは無い。俺様は大興奮した。

 

「あひゃ。魔族女ごときが調子に乗るから、痛い目に合うんだ!」

「思い知りなさい!」

「母さん!」


 だが、鞭が命中する寸前に、飛び込んできたルークがその先端を掴み取った。


「なんだと……ッ!?」


 俺様を含めたその場の全員が驚愕した。

 

 まさか残像が生まれるほどの速度の鞭を掴み取るなんて芸当をやってのけるとは思わなかった。

 こいつ……急激に強くなっているぞ。


「カミラ皇妃。皇帝陛下がお命じになられたことをお忘れですか?」

「ひぃ!?」


 ルークは7歳のガキとは思えない殺気を放った。

 俺様は思わず悲鳴を上げてあとずさってしまう。


「ルークの命を危険にさらしてはならない。それが陛下のご意向です。この場は、引いてください」 

「何を言うのこの出来損ないが! その女が、私のメイドに勝手なマネをしたよ……! ヴィクターちゃん、やっておしまいなさい!」

「えっ、俺様……!?」


 その瞬間、ルークはお母様の手から、鞭を力任せに奪い取った。


「わかりました。決闘という訳ですね。この距離ならヴィクター兄上の魔法より、私の鞭の方が速いと思いますが、試してみますか?」

「なっ、なななな!」


 思わぬ反撃に、お母様は口をパクパクさせる。

 俺様も、コイツとやり合うなんて、ごめんだぞ。まるで勝てる気がしない。


「おやめなさいルーク。すぐに、この人を宮廷魔導士のところに連れていって、本格的な治療を受けさせなくてはならないわ」

「わかったよ、母さん。じゃあ、すぐに行こうか」


 ルークは俺様たちに向けるのとは対照的な穏やかな表情になった。


「あ、ありがとうございます、ルーナ様!」


 【上位回復薬】(ハイ・ポーション)を飲んだメイドが目を覚まして、感激の声を上げる。


「な、なに……? 怪我が即効で治っているだと!?」


 【回復薬】(ポーション)による治療はあくまで応急処置でしかない筈だが、信じられないことに、メイドの傷はすっかり全快してしまっていた。


 噂には聞いていたが、これが作成した魔法薬の効果を3倍以上に高めるというルーナの固有魔法【魔の創造主】(デミウルゴス)の効果か。


 本格的な治療を受けさせるというのは、この場を離れるための方便だろう。

 

 ……悔しいが、そうしてもらった方が、俺様にとってもありがたい。


「……な、なんというお方なの!」


 他のメイドたちが、ルーナに感嘆の目を向けた。

 邪悪な魔族に対して、どういうつもりだと思うが……確かに、ルーナの力は、お父様が手元に置きたがるのも頷けるものだ。

 

 そのままルーナは俺様たちを一顧だにせずに、メイドに肩を貸して立ち去った。

 ルークが鞭を構えたまま底冷えするような目で、俺様たちを睨んでいたので、何もできなかった。


「お、おのれぇ。陛下をたぶらかす魔族女がぁ!」


 お母様はドス黒い憎悪のこもった目で、ルーナとルークを見送った。


 最近、お母様がお父様からまるで声がかかっていないのとは反対に、ルーナはお父様からの寵愛を勝ち取りつつあるようだった。


 女性としての魅力で、お母様がルーナに負けているのは、俺様から見ても一目瞭然だった。

 

 だが、ルーナたち親子が頭角を現しつつあるのが不愉快なのは、俺様も同じだ。


 栄光あるセレスティア帝国の正統なる皇子である俺様が、下賤な腹違いの弟妹に舐められるなど、あってはならないことだ。


「……お母様、奴らに復讐する方法とは?」


 ルーナたちがいなくなってから、俺様は切り出した。


「ふん、簡単よ。あの出来損ないのルークは身の程もわきまえず、剣術の師匠をつけて欲しいと皇帝陛下に願い出ているそうよ」

「剣術ですか……」


 アイツが本格的な剣術を身に着けたら、もはや手に負えなくなるんじゃないか?


「その剣術師範を買収して、ルークを殺させるのよ。実戦経験を積ませるなどと称して、魔物と戦わせでもすると良いわ。ふふふっ、息子を失ったあの女が吠え面をかくのが楽しみだわ!」

「なるほど、それは名案ですね! ディアナもきっと、絶望して泣き喚きますよ!」


 俺様はお母様と、笑い合った。

 ルークたち親子に最高の復讐ができると思うと、胸がすっとした。


 この時、俺様はこの策が裏目に出て、ルークが手が付けられないほど強力な剣士に成長してしまうなどとは、思ってもいなかった。


 さらに、これが俺様とお母様が破滅する原因となるなどとは、まったく想像だにしていなかった。

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