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8話。モブ皇子、逆恨みで仕返しをしてきた第4皇子にざまぁする

「……で、ヴィクターとカミラは一命を取り留めたのか?」


 謁見の間にやってきた皇帝アルヴァイスは、煩わしそうに王座に腰掛けながら告げた。

 まるでゴミを見るような冷めきった目で、ヴィクターとカミラ皇妃を見下ろす。


「そうでございますわ陛下! この下賤な魔族の娘が、私のヴィクターちゃんを殺そうとしたのです!」


 カミラ皇妃が、耳障りな声を上げて皇帝に訴えた。


 壁にめり込んだヴィクターとカミラ皇妃は、サン・ジェルマン伯爵が団長を務める宮廷魔導士団に救出されて、手厚い治療を受けた。


 ふたりとも、重傷を負ったとは思えぬほど元気になり、次の日、さっそく皇帝に俺たち兄妹の処分を願い出たのだ。


 カミラ皇妃の意向により、この場に俺たちを庇ってくれる母さんは招かれていなかった。

 これから始まるのは、いわば弁護士なしの裁判だ。


「お父様、この化け物女を処刑してください!」

「その小娘のみならず、その兄と母親の監督責任も問うべきです。今も各地で抵抗を続けるダークエルフどもの王族など、この期に皆殺しにするべきですわ!」


 ヴィクターとカミラ皇妃が、俺たち兄妹を憎々しげに睨みつける。


 まったく、先に俺を殺そうとしておきながら、好き勝手なことを言ってくれるな。


 現段階で皇帝がディアナを手に掛けることなどあり得ないが、鞭打ちの刑くらいは平然と下される可能性がある。それに、母さんにとばっちりが行くのも阻止しなければならない。


「ディアは悪くありません! ルークお兄様をイジメる人は、ディアが成敗します!」


 ディアナは憤然と、頬を膨らませた。


「おい、ディア」


 俺は慌てて、ディアナの服の袖を引っ張った。気持ちはありがたいが、下手なことを言って、妹が皇帝の怒りを買うのはマズイ。


「ここは俺に任せて、余計なことは言わないでくれないか?」

「は、はい……お兄様」


 耳元で囁くと、ディアナは殊勝に頷いた。


「ヴィクター兄上より、実戦形式の魔法の修行を申し込まれ、少々、熱が入ってしまったのでございます、陛下」


 俺は端的に事情を説明した。


「さすがヴィクター兄上は、武を尊ぶセレスティア帝国の皇族でございます。であれば、怪我をすることは覚悟の上だったと存じますが、いかがでありましょうか?」

「ふん、まさにその通り」

「なっ……!」


 俺の弁舌に、まさか皇帝が同意するとは思わなかったのだろう。カミラ皇妃はあ然とした。


「余の息子に、惰弱な者は必要ない。自分の弱さを恥じるが良い、ヴィクター!」

「ひっ……!」


 雷のような皇帝の怒気を浴びせられ、ヴィクターは身を硬直させた。


「な、何をおっしゃいますか、陛下! ヴィクターちゃんが勝負を挑んだのは、ルークですわ。その娘は乱入してきて、ヴィクターちゃんはおろか、この私まで殺そうとしたのですよ!」

「いえ、違います。ヴィクター兄上は効果範囲の広い【火炎驟雨】(ファイヤー・レイン)を使ったため、近くにいたディアナも巻き添えになったのです。カミラ皇妃は、無関係な者を巻き込むこの魔法の危険性を知りながら、使用を兄上に勧めました。よって、非はカミラ皇妃に有り、ディアナの行いは正当防衛です」


 さらに俺は畳み掛けた。


「そもそも、今回の不幸な事故の原因は、ディアナの【魔法封じの首輪】が壊れていたことにあります。ならば責めを負うべきは、首輪の製作とメンテナンスを担当していた宮廷魔導士団の長、サン・ジェルマン伯爵ではございませんか?」

「……なっ!?」


 カミラ皇妃は俺の反論に、目を見張る。


「お、お前、母親に入れ知恵されたの!?」


 子供が相手なら自分たちの非を隠し、どうとでも俺たちを処分できると考えていたのだろう。


 だが、幸いなことに【魔法封じの首輪】が壊れていたと、あの場にいた者たちは勘違いしていた。


 首輪は俺がディアナに頼んで、原型を留めぬほど破壊させたので、実際はどうだったのか、もはや確認のしようがない。


 そこで論点のすり替えを行い、サン・ジェルマンの責任を問うたのだ。


 皇帝とその懐刀サン・ジェルマンの間に不和の種を蒔くことは、皇帝の力を削ぐことになるので、俺にとっては利点しかなかった。

 もしかすると、母さんの暗殺を請け負うのは、サン・ジェルマンかも知れないしな……


 サン・ジェルマンには悪いが、これも母さんとディアナを守るためだ。


「私が製作した首輪に不具合が起きていてとは……」


 皇帝の背後に控えたサン・ジェルマンが、苦虫を噛み潰したような顔をする。


「誠に申し訳ありませぬ、陛下」

「……ふむ。念の為、確認だが、ディアナが自力で【魔法封じの首輪】を壊した。あるいは、別の何者かが破壊したということは、あり得るか?」


「前者の可能性はゼロ。後者の可能性も、まず考えられぬことかと。首輪はダマスカス鋼で造られております。物理的な手段で破壊することは至難です。魔法での破壊は、首輪に魔法が触れた瞬間、魔法を無効化する【解呪】(ディスペル)が自動発動しますので、まず不可能だと断言できます」


 その通り。【魔法封じの首輪】はサン・ジェルマンが創り出した、実に厄介な魔導具だった。


 しかし、毒をもって毒を制す。

 自動発動する【解呪】(ディスペル)を無効化できれば、攻撃力を極限まで高めた【闇刃】(ダークエッジ)で首輪を破壊できると考えたのだ。


 その結果生まれたのが、魔法を消滅することに特化した【魔断剣】(ディスペル・ソード)だ。


 結果は大成功だった。

 あとはこの窮地さえ乗り越えることができれば……


「もし、首輪を破壊できる者がいたとしたら、それは大陸でも五本の指に入る戦士でしょう。あるいは相当強力な武器を使ったか……」

「そうか。ならば首輪のメンテナンスはこれからは、より念入りに行え」

「はっ!」


 固唾を飲んで成り行きを見守っていた俺は、ほっと胸を撫で下ろした。

 うまく皇帝を騙せた上に、サン・ジェルマンの責任にすることができた。

 

 しかし、このふたりを仲違いさせるというのは、現実的ではなさそうだな。


 ゲーム本編では、このふたりは回想シーンにしか登場しなかったのでわからなかったが……皇帝はサン・ジェルマンを完全に信頼しきっているようだった。


 なにか、特別な理由でもあるのか?


「ところで、ディアナは闇魔法で、【火炎驟雨】(ファイヤー・レイン)を完全に防ぎきったそうだな。実に見事だ」


 皇帝が相好を崩して、ディアナを見た。


「えっ? 違いま……」


 ディアナは返事をしかけたが、俺の言いつけを思い出したのか、慌てて口をつぐんだ。

 代わりにサン・ジェルマンが答える。


「はっ、魔力の残滓を調べましたところ、Sランク級の闇魔法が使われたことが判明しました。さすがは、ディアナ皇女でございます」

「ほう|【天を飲み込む黒い月】《ギンヌンガガプ》だけでなく、たった6歳にして他にもそのような強大な魔法が使えるとは。やはり、すばらしい才能であるな」

「まさに。ディアナ皇女がこのまま成長されれば、いずれこの私を上回る魔法の使い手となるでしょう」

「貴様に、そこまで言わせるか。これは、ますます楽しみだ」


 皇帝とサン・ジェルマンは、ディアナの将来に想いをはせて、実に気分が良さそうだった。


「……本当にすごいのは、お兄様なのに」


 ディアナは不満そうに小さく呟いた。

 思わずギクリとしてしまう。


 俺の実力を隠し通すことは、母さんとディアナにも協力してもらっている。


 母さんは俺が【魔法封じの首輪】で、皇帝の犬にされるような事態になることは避けたいと考えていたが、ディアナは俺が評価されずに貶められることが感情的に納得できないらしい。


「陛下! では、まさかその娘はお咎めなしとでもおっしゃるのですか!?」


 カミラ皇妃が皇帝に喰ってかかった。


「皇族の殺人未遂は何よりも重い罪ですわよ!」

「ディア、納得できないかも知れないけど、反省を口にするんだ」


 俺はディアナだけ聞こえるようにそっと囁く。


「……ぐぅっ、お兄様がそうおっしゃるなら」


 ディアナは不承不承といった様子で従った。


「ヴィクター皇子とカミラ皇妃が、ルークお兄様をイジメなければ、ディアも暴力は振るったりはいたしません、お父様」


 いや、なんだソレは……

 反省の弁というより、カミラ皇妃らへの半ば脅しだな。


「ハハハハッ! そんなに兄が大事であるかディアナよ。良い、わかった」


 皇帝は、さも愉快といった調子で大笑いした。


「これで兄が魔法をまともに使えぬ無能とは、実に都合が良い話ではないか、サン・ジェルマン?」

「はい。まさにその通りでございます陛下」

 

 ゲームシナリオを知っている俺は、皇帝の意図に気付いた。

 俺を人質に使って、ディアナを戦争の道具にする魂胆か?

 

 手段は違えど、ディアナを使い潰そうとしているのは、ゲームと同じだな。


 だけど甘いな。

 俺を利用できるなどと思ったら、大間違いだということを、もっと強くなって思い知らせてやる。


「カミラよ、聞いての通りだ。今回の非は、ルークの言う通り、無関係な者を巻き込む恐れのある魔法を使ったヴィクターにある。首輪が壊れていたのは、サン・ジェルマンの責任だ。よってディアナの罪は不問とする。それとディアナの要求通り、今後、ルークの命を危険にさらすようなマネはするな。出来損ないにも使い道があるのでな」


 やった。これは俺の想定以上の結果だぞ。

 隣のディアナを見ると、妹はにっこり笑った。


「これで、ルークお兄様がイジメられることはありませんね。良かったです!」


 あれ、ディアナを守ったつもりが、守られてしまったか?

 ディアナは本当にやさしい良い娘だな。


 では、これに乗じて、ダメ押しといこうか。


「ヴィクター兄上、他人を巻き込む危険な魔法を使うのでなければ、実戦形式の修行はいつでも歓迎です。また、ぜひお誘いください」

「お、お前……!」


 表面上は和解の申し出だが、ヴィクターは侮られたと受け取ったのか、目つきが険しくなった。


「良きことであるな。ヴィクターよ、励め」


 だが、皇帝からこう命じられては、断ることはできない。

 となれば、ヴィクターは俺にとって、かっこうの修行相手という訳だ。


 ディアナや母さんが相手だと、お互いに手心を加えてしまって、実戦形式の修行などはできないからな。

 うん。せいぜい、俺の役に立ってもらうとしよう。


 だが、カミラ皇妃は納得できずに激高した。


「陛下! 私とヴィクターちゃんは大怪我をしたのですよ!? せめて、その小僧と小娘が宮廷を自由に出歩く権利は、取り上げるべきでは!? 魔族どもに、このまま大きな顔をされては、栄光ある帝国の名誉に傷がつきます!」

「そうです、お父様! この女は、牢獄塔にずっと閉じ込めておくべきです!」


 すかさず、ヴィクターも賛同する。


 母さんが長年、皇帝に従順に振る舞い、ディアナが皇帝に気に入られたこともあり、ディアナは【魔法封じの首輪】を嵌めるという条件付きではあるが、牢獄塔の外に出ることを許されていた。俺もそのおこぼれで、宮廷内を出歩くことを許可されている。


 それが、ヴィクターとカミラ皇妃は気に入らないらしい。その権利だけでも奪おうとがなり立てた。


「くどい! 余は判決を下した。わかったら、とっとと消え失せい!」


 だが、それは皇帝の怒りに触れるだけに終わった。

 

「ひぃっ!」


 カミラ皇妃は短い悲鳴を上げて、後退りする。


「……ち、ちくしょう、この屈辱は、絶対に忘れないからな! 覚えていろよ!」


 ヴィクターは、退出する際に負け惜しみの捨て台詞を吐いた。

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