6話。モブ皇子は、皇帝を倒すためにゲーム知識で最強を目指す
「御意にございます」
サン・ジェルマンは深々と腰を折った。
「ではルーク皇子の才能を調べさせていただきましょう【鑑定】」
サン・ジェルマンが俺に手をかざして鑑定魔法を発動させる。
熱い魔力が、俺の体内に流れ込んできた。
や、やばい。このままでは、俺のステータスが皇帝にバレてしまうぞ……!
鑑定魔法を使うと、ゲームでは対象のステータスが表示された。
各能力値がF〜Sの値で表示されるだけでなく、【魔法適性】と【固有魔法】もわかるようになっていた。
「ま、魔力は0? 【魔法適性】は【闇刃】がSSSランク。それ以外はオールF……? 【固有魔法】も【闇刃】ですと?」
サン・ジェルマンは、唖然として目を瞬いた。
「【固有魔法】が【闇刃】?」
俺は思わず聞き返してしまう。
【固有魔法】が誰もが使える基本魔法と同じなんてことは有り得ないぞ。
【固有魔法】とは、この世界でたった1人しか使うことを許されない神からの特別なギフトだ。
魔王ディアナの固有魔法|【天を飲み込む黒い月】《ギンヌンガガプ》が良い例だ。そのキャラクターを象徴するような強大かつユニークな魔法。まさに切り札だ。
【固有魔法】を持って生まれた者は、通称|【神に愛された者】と呼ばれて、この世界では恐れ敬われる対象だった。
「なんだ、どういうことだサン・ジェルマン。詳しく説明せよ」
皇帝アルヴァイスが苛立ったような声を上げた。
「はっ。ルーク皇子からは、魔力が全く感じ取れません。しかも、この極端な【魔法適性】の偏りは……最下級魔法である【闇刃】については、最高のパフォーマンスを発揮するようですが、それ以外の魔法はまったく使えません」
はっ?
おいおい、なんだ、それは……?
さすがに俺も驚きだった。
「だが、【固有魔法】を持っているのだろう? それはいかなる効果、性能なのだ?」
「ルーク皇子の固有魔法【闇刃】は、どうやら最下級魔法【闇刃】と全く同じモノのようです」
「バカな……そんなモノが神からのギフト【固有魔法】と言えるのか!?」
「はっ。私にも解せぬことです。このような鑑定結果は、1000年間で初めてのことであり、まったくもって不可解でございます」
サン・ジェルマン伯爵は困惑した顔になった。
俺のゲーム知識に照らしても、意味不明だった。
ここまで単一の魔法にのみ特化しているキャラというのは、他に例がない。
なによりマズイのは【闇刃】は、闇属性の刃を具現化する魔法──例外的に存在する接近戦専用の魔法ということだ。
つまり、魔法最大の利点である、遠距離攻撃ができない。
「もう良い、つまりコイツは無能ということか!?」
俺の考察は、皇帝の怒声によってさえぎられた。
「接近戦しかできぬ魔法使いなど、笑い話にもならぬではないか!」
「お、お待ちください陛下。ルークは、魔力暴走を何度も繰り返すほど、生まれ持った魔力が膨大なのです」
俺を庇うべく、母さんが前に出た。
「きっと歴史上の誰よりも優れた【闇刃】の使い手になるという神の思し召しでは、ございませんか?」
「しかし、【鑑定】では魔力0と出ております。魔力量が元々多い者でしたら、これはまず有り得ぬことです」
さっきも聞いたが、俺の魔力が0だって……?
それは、いくらなんでもおかしい。
もしかすると、【巨人の大剣】を使うために、かなり無茶をして身体中の魔力を絞り尽くしたせいかも知れないな。
身体が異常にだるいのも、その影響か……
「何がもっとも優れた【闇刃】の使い手だ! そんな者に何の価値がある!?」
皇帝が激怒して、俺に向かって拳を振り上げた。
とっさのことに、俺はまったく反応できなかった。
「おのれクズが、余をぬか喜びさせおって!」
「おやめください!」
「母さん!」
ルーナ母さんが俺をかばって抱きしめ、背中に皇帝の拳を受けた。メキッと母さんの背骨が軋む嫌な音が響く。
俺の全身が怒りにカッと熱くなった。
前世で、俺と母さんに暴力を振るっていた父親と、皇帝アルヴァイスが重なって見えた。
コイツだけは、絶対に許せない。
もし、わずかでも魔力が残っていたら、【闇刃】で、皇帝を貫こうとしていたところだ。
「お父様に逆らっては駄目よ。殺されてしまうわ」
母さんが皇帝には聞こえないように、そっと囁いた。
それでギリギリ、怒りを堪えることができた。
下手なことをすれば、俺だけじゃなくて、母さんとディアナにも累が及ぶ。
「お前のような穢れた魔女を抱いてやったというのに、生まれてきた息子が出来損ないとはな!」
「……申し訳ございません」
理不尽に罵倒されながらも、母さんは平伏した。
「で、ですが、この子に罪はありません。どうかお許しください」
「ふん!」
これでハッキリした。
皇帝アルヴァイスは、やはり俺にもルーナ母さんにも、毛ほどの愛情も抱いていないのだ。
「で、娘の方は……?」
「お兄しゃまと、お母しゃまをイジメないで!」
ディアナが、皇帝の足に小さな拳をポコポコ、叩きつけた。母さんが顔色を失う。
「ディアナ、おやめなさい!」
「これは元気な姫君でありますな【鑑定】」
鑑定魔法を使ったサン・ジェルマンの目が、驚きに大きく見開かれた。
「な、なんと……魔力量はA級! 【魔法適性】は、闇属性魔法がSS。それ以外は光を除いて全属性がオールS。しかも【固有魔法】まで!」
「なにッ!? それは本当か!?」
皇帝アルヴァイスは、興奮に身を震わせた。
「はっ、陛下。ディアナ皇女は、紛れも無く神に愛された者です。固有魔法|【天を飲み込む黒い月】《ギンヌンガガプ》は、敵対する者の魔法をすべて吸収して、自分の魔力に変換してしまうようです。おそらく、これでアークデーモンを消滅させたのでございましょう」
「違うもん。ルーク兄しゃまが、【闇刃】で、やっつけたんだもん!」
「ハハハハッ! なんとも素晴らしい娘ではないか!?」
皇帝アルヴァイスが、ディアナをひょいと抱き上げた。
しかし、そこには娘への愛情など微塵もない。この男にあるのは、乱世の覇者となる強烈な野心だけだ。
「ディアナよ。この皇帝アルヴァイスの大陸制覇に力を貸すのだ。ソレこそが、お前の生まれてきた意味であり、存在価値なのだ」
「……ソ、ソレをしたら、お兄しゃまとお母しゃまをイジメないでいてくれるの?」
皇帝の迫力に圧倒されつつも、ディアナが問うた。
「無論だ。余の役に立つなら、無能な兄と母親は生かしておいてやる。それから、お前の欲しいモノは、なんでも与えてやろうではないか? 何か欲しいものがあれば言ってみるが良い」
「なら、魔導書!」
「なに……?」
4歳の幼女からの意外なリクエストに、皇帝は呆気に取られた。
「たくさんの魔導書が欲しい! そうでしょ、ルーク兄しゃま!」
あっ、ディアナは俺がもっといろんな魔法を使えるようになりたいと思って、魔導書を欲しがっていたのを覚えていてくれたのか。
「……ありがとう、ディア」
俺は【闇刃】にしか適性が無いようだが、全く悲観はしてはいなかった。
【クリスナイツ】には、ふたつ以上の魔法を融合させる【合成魔法】という要素がある。
ゲーム後半になってから解放される要素で、闇属性魔法の熟練度が高ければ、同じ闇属性魔法同士を融合させることができるんだ。この4年間の俺の努力は決して無駄じゃない。
今はまだ、具現化した刃の大型化と硬化しかできないが、これに成功すればもっと特殊な効果を【闇刃】に付与できるようになるだろう。
なにより、【巨人の大剣】を使ってアークデーモンを斬った時、何か、言いようのない手応えを感じたんだ。
俺の【闇刃】はゲームの仕様とは違い過ぎる。きっと、ふつうとは違う何かがあるんだ。
そう思うと、心が沸き立った。
「なんと才が無くとも、魔法を学びたいとおっしゃるのですか、ルーク皇子?」
サン・ジェルマン伯爵が感心した様子で俺を見つめた。
「私に才が無くとも、魔法について学べばディアナの助けとなりましょう。父上、どうかディアナと私に読み切れないほどの魔導書を与えてください。必ずや父上のお役に立ってご覧に入れます」
俺は本心を隠して、皇帝アルヴァイスに跪いた。
……考えてみれば、魔法が満足に使えない出来損ないという立場は、実に都合が良いじゃないか?
これで俺への警戒はゼロになる。皇帝は拘束具を使って、俺の魔法をわざわざ封じようとはしないだろう。
なにより、母さんを暗殺者から守るには、無能と思われていた方が、やりやすい。
「ふん、良かろう。好きにするが良い」
皇帝は、俺をつまらなそうに一瞥した。
「だが、余を今後、父などと呼ぶことは許さん。出来損ないに、余の息子たる資格はない。余が愛するのは、真の強者のみと知れ!」
「はっ!」
決して、お前の思い通りにはさせないぞ、皇帝アルヴァイス……!
そう決意をみなぎらせて、俺は父を見上げた。
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