39話。モブ皇子、固有魔法【闇刃】の真の力に覚醒する
「【巨人の大剣】!」
俺はヴィンセントが怯んだ隙に、超巨大【闇刃】を出現させた。
固有魔法【空間転移】の【再発動必要時間】である20秒間が、ヴィンセントにダメージを与えられる攻撃チャンスだ。
「その巨剣は……!?」
「うぉおおおお──ッ!」
ヴィンセントは魔法障壁を展開しつつ後退するが、俺は構わず【巨人の大剣】叩きつける。
周囲の建物が、一斉に吹き飛んだ。まさに巨人の一撃だ。
ヴィンセントは直撃は避けたものの瓦礫の破片を叩きつけられて、呻く。
「今だ!」
俺は剣を【魔断剣】に切り替えて、ヴィンセントに突っ込んだ。
「なっ、舐めるなぁ!」
ヴィンセントが怒声を上げると、あたりの地面が一気に凍結した。
「【氷槍】!」
凍えた地面から、何十本もの氷の槍が俺に向かって伸びる。
「はぁあああッ!」
俺は【魔断剣】で、氷槍をことこどく打ち消す。
だが、地面が氷と化したため、ダッシュの勢いが殺された。地下空洞の揺れはドンドン強くなっており、足場が悪くてとても全力疾走できない。
「見たか、我が魔力! 踏み込みを殺されれば、剣士は力を発揮できまい!」
「……ッ!」
剣士である俺の弱点を突いてきたか。
【魔断剣】を地面に突き刺すと、その周囲だけ一時的に凍結を解除できたが、すぐに氷がすべてを覆った。
【魔断剣】では、奴の氷の魔法を破れない。
「私の勝ちだ!」
再び何十本もの氷槍が俺に殺到した。
それらの防御に集中した瞬間、ヴィンセントが【空間転移】で俺の頭上に転移して、【闇刃】を振りかざした。
「【冥火の魔剣】!」
俺は【闇刃】にディアナの得意魔法【冥火連弾】を合成した魔剣を出現させた。
刀身が、黒い呪いの炎になっている魔剣だ。
サン・ジェルマンに対抗するための切り札として習得した新技だった。
「なにぃいいッ!?」
【冥火の魔剣】から放射される呪いの熱波によって、【氷槍】がことごとく砕け散った。地面に張られた氷も一斉に溶け、足の踏ん張りがきくようになる。
「こ、これほどの魔剣とは……!」
ヴィンセントの【闇刃】は、【冥火の魔剣】とぶつかり合って焼滅する。
奴は苦悶を浮かべて、俺から離れようとした。
この魔剣の近くにいる敵は、熱と呪いによるスリップダメージを受けるのだ。
「逃がすかぁ!」
俺は【ヒュプノスの魔剣】に切り替えて、奴を叩き斬ろうとした。
母さんから教えてもらった不殺の剣。この一撃が決まれば、俺の勝ちだ。
だが、その時、天井の一部が崩れて、大岩が俺の真上に落下してきた。
「うぉッ!?」
大盾状の【闇刃壁】でガードするも、その隙にヴィンセントは大きく跳躍して距離を取った。
「見事、見事だ! しかし、運が無かったな!」
すぐさま追撃を仕掛けるも、奴は【空間転移】で、遠くの建物の屋根に瞬間移動する。
「もはや侮るまい。敬意を評し、徹底した遠距離攻撃で仕留めてやる!」
「ぐっ……!」
思わず歯噛みした。
俺の欠点は、接近戦しかできないことだ。
【巨人の大剣】を使えば、中距離までの戦闘は可能だが、遠距離攻撃に徹しられると、手が出せない。
だが、絶対にあきらめる訳にはいかない。この地下空洞には、ディアナもいるんだ。
幼い頃、母さんと交わした約束を思い出す。妹は俺が守る。
「ぉおおおおお──ッ!」
俺は猛然とヴィンセントに向かって突進した。
【闇刃】を足裏から出現させた反動で地面を蹴り、何度も大きく跳躍して距離を一気に詰める。
「【魔法の矢】!」
ヴィンセントが、魔法の矢を乱射してきた。
視界を埋め尽くす光矢を、俺は【魔断剣】の二刀流で、ことごとく打ち消す。
「【解呪】の魔剣……! 使えもしない魔法を合成できるのには驚いたが、これは防げまい!」
ヴィンセントが天井を撃ち、大量の土砂と瓦礫を俺の頭上に降らせた。
これは【魔断剣】で、防ぎようが無い。
「【闇刃壁】!」
俺は大盾形態の【闇刃】を展開して頭上に掲げて、強引に駆け抜ける。
だが、ヴィンセントの目と鼻の先まで近づいたというのに、奴は【空間転移】で、また別の場所に移動してしまった。
「……ッ!」
圧倒的な窮地。
俺と奴の固有魔法は、徹底的に相性が悪かった。
このままでは、時間切れで俺の負けだ。
だが、その時、ふと脳裏に閃くものがあった。
今のヴィンセントの言葉……
『使えもしない魔法を合成できる』だと?
俺の固有魔法は【闇刃】だが、大きさや形状を自由に変えられること以外は、通常の【闇刃】とさほど変わらなかった。
だが、固有魔法というからには、何か他には無い特性がある筈なんだ。
以前から、少し引っかかっていたことだった。
俺は使えもしない【冥火連弾】や【黒雷】を【闇刃】に合成できた。
【闇刃】しか使えないキャラなどゲーム中にいなかったのでわからなかったが、よく考えてみると、これは異常なことなんじゃないか?
以前、魔法を教えてくれた母さんが、『あなたの合成魔法は特殊過ぎる』と言って、驚いていたな。
どう特殊なのか質問しても、なぜか口を閉ざして教えてくれなかったが……
「……最後の賭けだ!」
固有魔法は、この世でたった1人しか使うことが許されない神からのギフト。だが俺なら、本来は使えない他人の固有魔法も【闇刃】に取り込めるじゃないか?
追い詰められた俺の脳裏に、そんな突拍子も無い発想が浮かんだ。
「【空間転移】×【闇刃】!」
その瞬間、何か頭の中で歯車がカチリと噛み合って、動き出すような不思議な感覚を覚えた。
固有魔法の詠唱は、魔法名を唱えるだけの簡単なものだ。
「届けぇえええッ!」
「ぐはぁああッ!?」
振りかざした俺の【闇刃】の刀身が、空間を飛び越えてヴィンセントの肩を斬り裂いた。
「な、なんだ今のは……!?」
膝をついたヴィンセントが愕然と目を見張った。
ヴィンセントは固有魔法【空間転移】で、さらに遠くに逃げようとする。
「逃がすかぁ!」
だが、それよりも一瞬早く、俺の──名付けるなら【空間転移剣】が再び決まった。
この剣には【再発動必要時間】など、必要無かった。
俺の手元から瞬間移動した刃が、ヴィンセントの腰を斬り裂く。
「私の【空間転移】を取り込んだ魔剣だと!?」
奴のウェストバッグが破れ、崩落制御用の石版が転がり落ちた。
俺は猛然と突っ込んでいて、それを拾い上げる。
ヴィンセントは、荒い息を吐きながら俺を見上げた。
「ヴィンセント、俺の勝ちだ」
「……なっ、なんということだ。そ、その力は、まさに、この世界の理を覆すもの……!」
石版をタップすると、地下街を襲っていた振動が収まった。
「これで、崩落は止まったのか?」
ヴィンセントは肩を震わせていたが、やがて俺に向かって恭しく平伏した。
「……しかりでございます。我らが偉大なる『予言の魔王』様」
お読みいただき、ありがとうございました!
少しでも面白い! 続きが読みたい! と思っていただけたら、
『ブックマーク』登録と、下にあるポイント評価欄【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にしていただけると幸いです!
評価ボタンは、モチベーションに繋がりますので、なにとぞ応援よろしくお願いします!
↓この下に【☆☆☆☆☆】欄があります↓