38話。ディアナ、うっかり兄が最強であることを漏らしてしまう
【ディアナ視点】
洞窟の天井の一部が崩れてきて、大きな瓦礫が近くに落下しました。
ドォオオオオン!
私は飛び散った破片を、魔法障壁を展開して防ぎます。
「ディ、ディアナ様……!?」
「しゃべると舌を噛みますよ!」
オリヴィア姫を抱きかかえて、私は脇目も振らずに出口を目指します。
地面が激しく振動し、地下街の建物も崩れ出していました。
オリヴィア姫はルークお兄様のことが好きで、こともあろうに婚約までしようというトンデモナイ娘ですが。
彼女を無事に帰さなければ、お母様の命が危ないというなら……
なにより、ルークお兄様と約束した以上は、私は必ずオリヴィア姫の救出を成し遂げてみせます!
大丈夫。お兄様とディアは運命の赤い糸で結ばれた者同士。
半分、ダークエルフの血が入った私たちが長寿なのは間違いないので、オリヴィア姫が寿命で亡くなった後で、お兄様と結婚すればミラクル逆転ハッピーエンドなのです!
「まさか、ディアナ皇女にオリヴィア姫ですか!?」
甘美な妄想に浸っていると、オリハルコンゴーレムに苦戦しているサン・ジェルマン伯爵と宮廷魔導師団が見えました。
「そのゴーレムの弱点は、眉間です! 眉間に雷をぶち込んでください!」
私はサン・ジェルマンの隣を横切りながら叫びました。
お兄様によると、この男は肉体を錬金術で古竜と融合させているらしいですが……はて? ここではその力を披露しないつもりでしょうか。
「それと、この地下街はあと7分かそこらで、崩落します! だけど、きっとお兄様が阻止します!」
「……な、なんですとッ!?」
サン・ジェルマンは唖然としました。
「ディアはオリヴィア姫を連れて脱出します! 話は以上です!」
「まさか我々を誘い込んで全滅させる罠ですか!? 撤退! 全軍、撤退です!」
サン・ジェルマンはすぐに全軍に号令を下し、帝国軍は浮き足立ちました。
「宮廷魔導師団は殿です! あのゴーレムの眉間を雷撃で狙いなさい!」
「はっ!」
「馬鹿め。逃がすと思うか!?」
迎撃に出ていたダークエルフ部隊の指揮官が怒声を上げました。
地下空洞が崩落しつつあるというのに、彼らに動揺した素振りはありません。帝国への強い憎しみに突き動かされているようです。
「今こそ、我らの積年の恨みを思い知れ!」
指揮官の合図と共に、地面に設置された魔法罠が一斉に起動し、帝国軍の足元に電撃を浴びせました。
痺れた兵たちの足が止まります。
「こ、これでは、撤退できない!?」
私にとっても、これは邪魔ですね。ちょっと足が、ビリッとします。
「そんな足止めは無意味です。固有魔法|【天を飲み込む黒い月】《ギンヌンガガプ》!」
私は奥の手の固有魔法を放ちました。
宙空に生み出した黒い穴が、魔法罠の魔力をすべて吸い込んで、ことごとく無効化します。
「お、おおおおおっ! これがディアナ皇女の固有魔法か!?」
「なんとディアナ皇女が、オリヴィア姫を救出されたぞ!」
帝国軍から大歓声が上がりました。
「勘違いしないでください! オリヴィア姫を助け出したのはお兄様です!」
私が駆けると、宙に浮かぶ|【天を飲み込む黒い月】《ギンヌンガガプ》の黒穴も、私の後を追って移動します。
ダークエルフたちが、天井近くに作った横穴から、帝国軍に攻撃魔法を浴びせていましたが、それらもすべて吸収します。
「デ、ディアナ皇女、ばんざーい!」
「帝国の新たなる英雄だ!」
苦戦を強いられていた兵士たちの士気が爆発しました。
「くそぉ! なぜダークエルフの姫が、帝国軍に味方するんだ!?」
「やはり、皇帝の犬だったのか……!?」
対照的にダークエルフたちは、意気消沈しています。
「ディアナ皇女、兄君はどうされたのですか!? ルーク皇子が崩落を阻止するとは、一体どういうことですか!?」
サン・ジェルマンが魔法で空中を飛んで、私に並走してきました。
状況が掴めずに困惑しているようです。
「お兄様は、戦って……!」
「ディアナ様、ダメです!」
私が口を開くと、オリヴィア姫が私の首に回した手に力を込めました。
「むぐっ!」
一瞬、息が詰まり、何をするのかと憤りかけましたが……
お兄様の真の力は、隠さなくてならない。
それがお兄様のご意思であり、余計なことはしゃべってならないということでしょう。
もちろんソレはわかりますが、お兄様が受け取るべき賞賛が私に浴びせられ、お兄様が無能扱いされるのは……もう我慢ができないです!
お兄様はオリヴィア姫救出の手柄で、正統な皇子として認められる身。もう実力がバレたところで、【魔法封じの首輪】で力を封じられるなんて理不尽な扱いを受けたりはしない筈です。
「お兄様は敵の首領と戦っています。そして、必ずや勝利して、ディアの元に帰ってきてくれます!」
「ディアナ様、この方に、それ以上は……!」
「ま、誠ですか……!?」
サン・ジェルマンは驚愕しました。
「誠です!」
「で、では、ディアナ皇女はオリヴィア姫を頼みます。私はルーク皇子の元へ!」
サン・ジェルマンは慌てて飛んで行きました。
思えば、あの男の鑑定魔法のせいで、お兄様は無能の烙印を押されました。
それが間違いだったと、ついに思い知る日がやってきたのです。
「ふふん、ルークお兄様のお力を目の当たりすれば、その偉大さにサン・ジェルマンも腰を抜かすでしょう!」
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