37話。決戦。モブ皇子はゲーム知識で無双する
「もう一度言うぞ。降伏して俺に従え!」
「お、おのれ……!」
俺は【黒雷刃】の切っ先をヴィンセントに向けて勧告した。
「お前たちが、このまま帝国に根絶やしにされるような事態は避けたい。母さんもそんなことは望んでいないだろうからな」
「き、貴様がルーナ様のご意思を語るか!? 皇帝アルヴァイスの息子めが!」
「……母さんはダークエルフが滅ぼされたことを嘆いていた。お前はもう一度、母さんに絶望を味あわせるつもりか? もう矛を納めろ。あとは俺がなんとかしてやる!」
ヴィンセントは【闇刃】を出現させて構えた。
「……良いだろう! 貴様が我らの王になるというなら、この私を一騎打ちで倒してみせろ! 我らは誇り高き戦闘種族。弱者には決して従わぬ!」
ヴィンセントはゲームでは魔王ディアナの四天王の1人だった。
本来は主人公と仲間たちが数人がかりで倒すような相手だ。
今の俺より実力は上だと思うが、奴に勝てなければ俺の望みを叶えることはできない。
「その勝負、受けてやる。こちらもディアには手出しさせない!」
「……お兄様! わ、わかりました。ディアは、お兄様の勝利を信じて見守ります!」
「ルーク様、どうかご武運を……!」
ディアナとオリヴィアが俺にエールを送ってくれた。
「では、一つ賭けをしようではないか」
ヴィンセントが石版のような物を取り出した。
奴が石版の表面をタップすると、地下街全体が激しく揺れだす。
「ひゃあ!? 地震ですか?」
ディアナがバランスを崩してよろめいた。
「違いますディアナ様。この地下空洞が崩れ出しているのです。崩落まで、あと10分!」
俺は唖然とした。
「お前! 仲間を全滅させる気か!? ディアも死ぬことになるんだぞ!」
「だが、我らの悲願である帝国への復讐はなる! オリヴィア姫と、皇帝の腹心サン・ジェルマンが死ねばな!」
ヴィンセントは鬼のような形相になった。
「さすれば帝国とマケドニアは確実に戦争になる。あとは、その混乱に乗じて私がルーナ様をお救いすれば、我らの勝利! あのお方さえいれば、ダークエルフはいずれ蘇るッ!」
コイツは、この期に及んでも、まだ母さんを取り戻すことをあきらめていないのか。
だが、母さんを救いたいのは俺も同じだ。
コイツのやり方じゃ、母さんが死ぬことになるのは、ゲームシナリオが証明している。絶対に諦める訳にはいかない。
「……崩落を止めるには、その石版による操作が必要という訳か?」
「察しが良いな。その通りだ。もしディアナ様や他の者に加勢させれば、その瞬間、石版を破壊する。そうなれば、もはや崩落を止める手段は無い」
その時、遠くから戦闘音に混じって、いくつもの大きな悲鳴が聞こえてきた。
「帝国軍はオリハルコンゴーレムが足止めをしている。クハハハッ! これで奴らは確実に崩落に巻き込まれて全滅だな」
ヴィンセントは愉快そうに笑った。
「ディア、オリヴィアを連れて逃げてくれ。それとサン・ジェルマンに、ここが10分で崩壊すること。オリハルコンゴーレムの攻略法は、眉間に雷魔法をぶつけることだと伝えるんだ」
「……えっ、で、でも、お兄様!」
ディアナは俺が心配で離れたくないのか、嫌がる素振りを見せた。
「母さんを守るためだ、頼んだぞディア。オリヴィアが死んだら、母さんも奴らへの報復で殺される!」
「えっ……そ、そんなことが?」
俺はディアナの頭をポンポンと撫でてやった。
「俺は絶対に負けない。だから、母さんのところに先に帰って待っていてくれ」
「ディアナ様、参りましょう! ルーク様! わたくしはルーク様の勝利を信じております!」
ディアナは俺を見上げた。
「……わかりました。そうすれば、お兄様は心置き無く戦えるんですね?」
「その通りだ」
「なら、ディアはお兄様のお言いつけを守ります!」
ディアナは頷くと、オリヴィアを抱えて爆速でその場を離れた。
「……ふん、ディアナ様の俊足でも、今からの脱出は叶うまい」
「ディアを甘く見るな。あの娘の身体能力は、世界最高峰だぞ」
俺は【黒雷刃】を構えた。
「なにより、オリハルコンゴーレムのせいで帝国軍に犠牲が出過ぎたら、皇帝にダークエルフの降伏を認めさせるのが難しくなるからな。これで、お前らのことも守ってやれる」
「なに……? 我らを守るだと?」
ヴィンセントは驚愕に目を見開いた。
「バカな。もう私に勝ったつもりか……!」
「俺は運命を変えると誓ったからな。ダークエルフの王である俺が皇帝の座につく……それがお前たちにとっても、真の勝利だとは思わないか?」
「なっ、何だと!? ……い、いや、そんな筈は無い」
ヴィンセントは、一瞬、非常に驚いて声を上擦らせた。
なんだ? 今の俺の発言は、そこまでたまげるような内容だったか?
奴は頭を振って【闇刃】を構え直す。
「おもしろい! 貴様がそれだけの器だと証明して見せよ!」
ヴィンセントの姿が掻き消えた。
固有魔法【空間転移】を使ったのだ。
「ハリネズミモード!」
俺はその瞬間、背中から無数の【魔断剣】を出現させた。
「なにぃ!?」
背後に出現したヴィンセントが、驚嘆の声を上げる。
奴が振り下ろした【闇刃】が、【魔断剣】によって掻き消されたのだ。
逆に俺の【魔断剣】に刺された奴は、苦鳴と共に飛び退った。
「ゲームと同じだな。お前の攻撃パターンは知っている!」
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