36話。モブ皇子は、敵の秘密兵器を一撃で倒す
「いや、まだ油断はできない。ヴィンセントは固有魔法【空間転移】を持っているからな」
その時、目の前の空間がグニャリと歪んだ。
そこから、ヴィンセントが命からがらといった様子で飛び出してきた。
「えっ……!?」
ディアナとオリヴィアは仰天する。
「……オリヴィア姫!? おっ、おのれ、貴様、謀ったな!?」
ヴィンセントは一目で状況を察したようだ。
怒りに血走った目を向けてくる。
「その様子だと、皇帝アルヴァイスに熱烈に歓迎されたみたいだな?」
「まさか、ルーナ様を餌に誘い出されるとは……こ、皇帝の犬め!」
「そう思われるのは、はなはだ不本意だ」
俺は鼻を鳴らして、ヴィンセントの言葉を否定した。
「いずれ俺は、皇帝アルヴァイスに取って代わるつもりだからな」
「な、なに……?」
ヴィンセントは面食らって、俺を見つめた。
「ルークお兄様。今のが【空間転移】ですか!? 何も無いところからあの男が現れた!?」
「そうだ。自分を半径1キロ以内の別の場所に瞬時に移動させることができるのが、固有魔法【空間転移】だ。といっても、【再発動必要時間】が約20秒必要なんだ。連続では使えないから、その間にラッシュを叩き込めば勝てる」
「なるほど……! 特性からして、ディアの|【天を飲み込む黒い月】《ギンヌンガガプ》では防げないタイプですね」
ディアナがヴィンセントを油断なく見つめた。
ヤツが、次の瞬間にはその場から消えて、攻撃してくる危険性に気付いたようだ。
ディアナの固有魔法|【天を飲み込む黒い月】《ギンヌンガガプ》は、敵の魔法を吸収できるが、魔法の発動そのものは阻止できないため、即効性のある魔法とは相性が悪かった。
「な、なぜ、私の固有魔法の詳細を知っている……? ルーナ様にも飛距離と【再発動必要時間】までは教えていない筈だ!?」
「……ここに、もうすぐ帝国軍が。真に恐ろしいサン・ジェルマン率いる宮廷魔導師団がやって来る。もうお前らに勝ち目は無い」
俺はヴィンセントの質問には答えず、降伏を勧告した。
「ヴィンセント、降伏しろ」
「なに……?」
「俺は今回の手柄で、帝国の正統なる皇子となり、やがて皇帝の座につくつもりだ。お前たちダークエルフは、俺に忠誠を誓えば生き延びられる。オリヴィア姫と婚約し、マケドニア王国の後ろ楯を得る俺のことは、皇帝も無下にはできない筈だ」
「……ッ! 本気で言っているのか?」
ヴィンセントは驚愕に目を見張った。
「当然だ。皇帝となり、敵をすべて支配下に入れてしまえば、ルーナ母さんとディアナを傷つける者はいなくなる。俺の目的は、母さんとディアナを幸せにすることだ」
「きゃああああッ! つまり、お兄様がこの世で一番に愛しているのは、ディアという訳ですね!」
ディアナが歓喜の声を上げた。
「お前たちのやり方じゃ、帝国には勝てないし、母さんを救うこともできない。ダークエルフの王子である俺に忠誠を誓え、ヴィンセント!」
「……初めて会った時から感じていたが。やはり、貴様はあの男に。皇帝アルヴァイスにそっくりだ」
ヴィンセントは静かな闘志の籠もった目で俺を見つめた。
「突然やって来て、すべてを奪い、すべてを自分の意に染めようとする……あの日、私は婚約者だったルーナ様を奪われた。その怒りと屈辱が、貴様に理解できるか!?」
「なに……?」
こいつ、母さんの婚約者だったのか。
「私はどんな手を使っても、愛するルーナ様を取り戻そうと誓ったのだ!」
ヴィンセントが右腕を高らかに掲げると、それが合図だったのか、地面が隆起し、無数のゴーレムが現れた。
身長3メートル近くもある金属でできた巨人の群れだ。
さすがに驚いた。
ダークエルフの戦力を把握するべく、俺は作戦会議に参加したが、こんな兵器のことは一切、話題に出なかったぞ。
味方にも秘匿していた戦力か。
「ガリア王国より提供された秘密兵器オリハルコンゴーレムだ! この力で帝国軍を返り討ちにしてくれる!」
「ま、まさか、ガリア王国が背後に……!?」
オリヴィアが悲鳴に近い声を上げた。
ガリア王国は、今まさに帝国と戦争をしている国家だ。錬金術が盛んで、人型兵器ゴーレムを前線に投入していた。
しかもオリハルコンゴーレムは、防御力が極めて高く、ゲームではAランクに分類される強敵だぞ。
「魔族が人間と手を結ぶとはな……!」
魔物が進化し、人間と同じ外見と知能を手に入れたのが、ダークエルフに代表される魔族だ。彼らは古来から人間とは相容れない存在だった。
「オリヴィア姫さえ手元にあれば、まだ逆転の目は残されている。そのために、私は魔族の誇りを捨てることさえ厭わん!」
「お前は、ガリア王国に利用されているだけだぞ!?」
ガリア王国の狙いは、帝国に恨みを持つヴィンセントを支援して、帝国とマケドニアの同盟をブチ壊しにすることだろう。
「だとしても一向に構わん! 仲間からの誹りも、甘んじて受け入れる! ルーナ様さえ、お救いできるならな! あの方は、私の……いや、人間に虐げられてきた魔族すべての希望なのだ!」
「なら、なおさら俺に従え!」
「蹴散らしてやります。【冥火連弾】!」
ディアナがオリハルコンゴーレムに黒い火球を雨あられと撃ち込んだ。
だが、奴らはなんのダメージも受けていない様子で、突っ込んでくる。
「えっ!? ディアの魔法が……!」
「無駄です。オリハルコンは魔法に高い抵抗を持つ聖なる金属。その装甲に覆われたオリハルコンゴーレムに、【冥火連弾】は通用いたしません」
ヴィンセントが高笑いした。
「ディアナ様、兄君を見限って私につくなら、命ばかりはお助けしましょう! あなた様は誉れ高きダークエルフの王女。次代の王を──『予言の魔王』を誕生させる崇高なる使命が……!」
「妹に変な勧誘をするな!」
俺は【闇刃】に、先ほど見た【黒雷】を合成した新たな魔剣の生成を試みた。
『予言の魔王』とは、なんのことだかわからなかったが、もしディアナを魔王にしようなんて企てなら、全力で阻止だ。
「【黒雷刃】!」
刀身が、バチバチと火花を散らす黒い雷となっている魔剣が、俺の手元に出現した。
【黒雷】は初見だったが、今までの経験から、即興で合成できると踏んでいた。
「雷の魔剣だと!?」
ヴィンセントが瞠目する。
「貴様は【闇刃】しか使えぬ無能では!?」
「俺の【闇刃】は、ちょっと特殊なんだ!」
俺が【黒雷刃】で、オリハルコンゴーレムを頭部を次々に斬ると、奴らは一撃で沈黙した。
拳を振り上げた状態のまま、ただの置き物のごとく動きを止める。
「な、なぜ……ッ!?」
「知らなかったのか? ゴーレムは雷属性が弱点なんだ」
「バカな!? その弱点を克服した無敵のオリハルコン装甲を持つのが、こやつらだぞ!」
その通りだが。
実はオリハルコンゴーレムは眉間の間に重要な制御用魔力回路があり、ここに雷魔法をピンポイントでヒットさせると一撃で停止させられた。
ゲームで散々苦戦させられた相手だったため、オリハルコンゴーレムの攻略法は、良く覚えていた。
「すごい! さすがはルークお兄様です!」
「こ、これがルーク様の真のお力!」
ディアナとオリヴィアが、大歓声を上げた。
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