35話。モブ皇子の作戦が完全に決まる
「こやつらを殺してはいないだと?」
「バカな……貴様、これ程の実力を隠していたのか?」
ダークエルフたちが、驚きに目を見張った。
「そうだ。それに、もうすぐここに帝国軍が押し寄せてくる。降伏すれば、命だけは助かるように取り計らってやるぞ」
「な、なにぃ……!? 皇帝アルヴァイスの血を引く忌み子めが。誰が貴様になど屈するものか!」
できれば俺は、ダークエルフを全滅させたくはなかったのだが……
奴らは降伏の意思を示すどころか、俺を憎悪のこもった目で睨みつけた。
この2日ほど、ダークエルフたちと過ごして分かったが、俺とディアナは宿敵の血を引くことから、大半のダークエルフたちから敵視されていた。
正統なダークエルフの王族であるルーナ母さんを帝国より取り戻し、女王として統治してもらいたいというのが、彼らの願いだ。
ヴィンセントはディアナを母さんの奪還作戦に参加させようとしたが、他の者たちからの反発が強く、却下された。
ディアナが皇帝の回し者である疑いが晴れないからだ。
「我らを手の平の上で踊らせたつもりだろうが……我らはルーナ様をなんとしてもお助けせねばならぬのだ。その切り札たる王女は返してもらうぞ」
「ルーク様……!」
背後に庇ったオリヴィアが、緊張に身を強張らせた。
「そのせいで、ルーナ母さんが死ぬことになってもか? 悪いが、全力で阻止させてもらうぞ」
「はっ! その剣でか!?」
ダークエルフたちは距離を取り、手から一斉に黒い稲妻を放った。敵を追尾する性能を備えた中級の闇魔法【黒雷】だ。
俺の本質が剣士であり、遠距離攻撃が苦手なことを、瞬時に見抜いたようだ。
「死ね、皇帝の犬め!」
「心外だな」
俺は敵に向かって駆けながら左手に【魔断剣】出現させて、【黒雷】を斬り裂く。
「魔法を斬った!?」
奴らは驚愕の声を上げる。
「俺は母さんとディアナを守るために戦っている!」
俺は【ヒュプノスの魔剣】で、ダークエルフたちの胴を次々に凪いだ。
右手に【ヒュプノスの魔剣】、左手に【魔断剣】の二刀流だ。
バタバタと、彼らは深い眠りに落ちる。
「それには、これが最善の道だと考えただけだ。皇帝の犬になったつもりは無い」
「すごいですルーク様! これだけの敵を一瞬で!」
オリヴィアが目を丸くしていた。
「ど、どうして、これ程のお力を隠されているのですか!? この力を披露されれば、もう誰もルーク様を出来損ないなどとは呼ばない……帝位継承争いで、断然有利になれると思いますが?」
「……話して無かったけど。俺の父親、皇帝アルヴァイスから母さんを守るためだ」
「えっ……?」
俺はオリヴィアに真実を話すことにした。
サン・ジェルマン率いる帝国軍と合流する前に、俺の目的について理解してもらって、オリヴィアに口止めをするためだ。
「実は、俺はこの世界でこれから起きる出来事を生まれながらに知っているんだ。皇帝は、未来において母さんを暗殺し、そのせいでディアナは約10年後に魔王となって、世界を滅ぼす」
あまりに突拍子も無い話に、オリヴィアは衝撃を受けた様子だった。
この話は、母さんにもディアナにもしていなかった。二人にとって衝撃が強過ぎるし、宮廷内で話して、万が一にも誰かに盗み聞きされたら、一大事だからだ。
「な、なぜ、そのような……? どのような理由があって、皇帝陛下はルーナ皇妃を殺めるのですか?」
「おそらく、今回の事件が原因だったと思う。オリヴィアの救出に成功すれば、マケドニア王の怒りを鎮めるために母さんを暗殺する必要も消えて、未来は変わる筈だ。だけど……」
今後、母さんが暗殺される心配が完全に無くなると、俺は楽観視はしていなかった。
皇帝は必要とあれば、身内を切り捨てることに躊躇いが無いからだ。
「いずれ不老不死の怪物サン・ジェルマンと刃を交える可能性を考慮して、俺の実力は隠しておきたいんだ。おそらく、母さんを殺すのは奴だから」
「帝国の忠臣であるサン・ジェルマン伯爵が……?」
オリヴィアは声を詰まらせた。
「わ、わかりましたわ。今お聞きしたこと、ルーク様のお力については、胸にしまって誰にもお話しません!」
「ありがとう。脱出に際して、敵を倒したのはディアナということで、口裏を合わせてもらえれば大丈夫だから」
「は、はい!」
「じゃあ、行こうか」
俺はオリヴィアの手を引いて、ディアナとの合流ポイントに向かう。
ディアナには敵の注意を引きつけるために、別の場所で暴れてもらっていた。
敵を殺さないように言いつけてあるが、地下街のあちこちから噴煙が上がっている。
ダークエルフたちは大混乱だ。
「ルークお兄様ぁああッ!」
そこにディアナが、砂埃を上げて爆走してきた。
「作戦通り、【睡眠】の魔法で、引っ掻き回して来ましたよ! って、な、なぜ良い雰囲気になっているんですかぁ!?」
「よくやったぞ、ディア!」
俺はディアナを抱きしめて、頭を撫でてやる。
ちょっと心配だったが、ちゃんとひとりで任務を達成できたようだ。
「あっ、ふふん! ごらんなさいオリヴィア王女! ルークお兄様と婚約するからといって、いい気にならないでください! しょせんは政略結婚! お兄様が一番好きなのは、このディアなんですからね!」
ディアナがオリヴィアに指をビシッと突きつけて、何やら勝ち誇った。
「は、はぁ?」
オリヴィアが目をパチクリさせる。
ま、まぁ、ディアナのブラコンぶりは、尋常じゃないからな。
「ディアナ様も、わたくしを助けるために、ご尽力くださったのですね。深く感謝いたします」
オリヴィアは、おしとやかにお辞儀した。さすが、王女としての教育を受けているだけある。
「むっ。そ、そう言われると、毒気が抜かれますが……ディアとお兄様は、真実の愛によって結ばれているということを忘れないでください!」
そこに遠雷のような鬨の声と、武器をぶつけ合う音が響いてきた。
「よし。作戦通り、サン・ジェルマン率いる帝国軍が突入してきたようだな」
「少々、予定よりタイミングが遅かったですが。ヴィンセントはお母様の処刑の阻止に出ましたし……お兄様の作戦通りですね!」
ディアナが得意気に頷いた。
「えっ、ど、どういうことですか?」
「ふふん! 今回のオリヴィア王女奪還作戦は、ほぼお兄様が1人で考案されたものなのです。敵の主力を外に誘い出してから、大軍で本拠地を襲撃。その混乱に乗じて、脱出します」
「ま、まさか……! ルーク様は8歳にしてそれほどの知謀を!?」
オリヴィアが尊敬に瞳を輝かせた。
前世の年齢も合わせれば37歳なので、そんなに持ち上げないで欲しい。
「皇帝であるお父様も、お兄様の知謀にいたく感心されていました。エヘン! ディアは鼻が高いです。ディアのお兄様は世界一なのです!」
ディアナは我がことのように誇らしげに胸を張った。
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