34話。モブ皇子はオリヴィア姫を救出する
【オリヴィア王女視点】
1ヶ月前──
「オリヴィアよ。セレスティア帝国との同盟は、我が国の未来のために重要なことなのだ。わかるな?」
マケドニア王であるお父様は、わたくしを呼び出し、苦渋の色を浮かべながら告げました。
「はい、お父様。かの帝国におもむき、皇子の誰かと婚約を結ばなくてはならないのですね?」
「……聡明な娘を持って、余はうれしい。実は皇帝アルヴァイスより、そなたと第3皇子アストリアとの婚約話が持ち込まれておる。お前には苦労をかけるが頼んだぞ」
「お待ち下さい陛下! 聞けばアストリア皇子は、気に入らない者を手討ちにされたこともある粗暴なお方とか……! そのようなお方に嫁げとは、姫様があまりにも不憫でございますぞ!」
わたくしの教育係の爺やが、猛反対しました。
「わかっておる。だが、帝国はいずれ、ガリア、トラキアとの戦争に勝利するであろう。なにしろ、帝国軍の新魔法【冥界落とし】は、あまりにも強力……ならば、帝国が覇権を取る前に手を結び、恩を売っておかねばならん。今、このタイミングこそ最良なのだ」
「わかりましたわ、お父様。そのお役目、見事、果たしてご覧に入れます」
「なんとっ、オリヴィア姫様!? くぅうう……!」
爺やは口惜しそうに唇を噛んでいました。
ですが、大勢の兵士たちが、我が国を守るために命を賭けているのに、王女であるわたくしが、安穏と暮らしている訳には参りません。
王国の未来のために、わたくしもできる限りのことをしなくては……
ほどなくして、わたくしはアストリア皇子との婚約話を進めるために、帝国にやって参りしまた。
アストリア皇子の悪い噂は聞いておりましたが……ご本人は想像以上に乱暴な方でした。
鳥に糞をかけられるや大激怒し、仕返しとばかりに【固有魔法】を放たれたのです。
強い力を持つ者は、それを正しく扱うための判断力と自制心を兼ね備えていなればならない。
というのが、お父様の教えでしたが、アストリア皇子はそのような高貴なる者の義務など、持ち合わせてはいなかったのです。
「お怪我はありませんか、オリヴィア王女!?」
しかし、ルーク様は違いました。
アストリア皇子の放った魔法によって塔が倒れ、危うく下敷きにされそうになった時、間一髪、助けて下さったのがルーク様でした。
しかも、帝位継承を争うアストリア皇子までお助けになって……
「あっ、ありがとうございます。ルーク様!」
邪悪な魔族の血を引く皇子。という肩書きとは正反対の高潔な精神を持つお方でした。
しかも、わたくしを助けてくださった際の人間離れした動きから、この方が噂通りの無能ではないとは一目瞭然でした。
その瞬間、わたくしはルーク様に、強く惹かれてしまったのです。
聞けば、お父様が恐れる新魔法【冥界落とし】をもたらしたのは、ルーク様だとか。
【冥界落とし】は、兵士の命を奪わずに戦争を早期に終わらせられる──人道的かつ革新的な魔法でした。
それだけの貢献を帝国にしておりながらも、庶子であるルーク様は、正式な皇子として認められておりませんでした。
ルーク様を婚約者に選んだとしても、マケドニアと帝国の同盟の拠り所とするには、足りません。
わたくしには、それを望むことは許されませんでしたが……
どうしてもルーク様にもう一度お会いしたく、思い切って彼を夜会に招待いたしました。
わたくしが望んだのは、ルーク様とダンスを踊る一夜の夢。
しかし、アストリア皇子が、わたくしに執着してきたため、危うくルーク様と一触即発となってしまいました。
その時、ルーク様は、終始わたくしを守ろうとしてくださいました。
ご自分より、はるかに強いアストリア皇子に立ち向かってくださったのです。
あの夜、ルーク様と踊ったダンスは、一生忘れられない思い出となりました。
その後、ルーク様が皇帝陛下より、次に何か大きな手柄を立てたら、正式な皇子として認め、帝位継承権を与えると約束されていることを知りました。
でしたら、わたくしがルーク様と婚約して帝国とマケドニアとの同盟が成立したら、それはルーク様の手柄となり、ルーク様は正式な皇子と認めてもらえるのでは?
それなら、お父様もルーク様との婚約をお許しになってくださる筈。
そう考えたわたくしは、思い切ってルーク様を深夜の薔薇園に呼び出して、告白をすることにしました。
この方は、今まで出会ってきた男性とは、まったく異なる。
きっと、後の世に英雄と称えられる方となると、わたくしは確信していたのです。
ルーク様はわたくしの思いを受け入れてくださり、わたくしは天にも昇る気持ちになりました。
ですが、その後、わたくしは嫉妬の鬼と化したアストリア皇子に乱暴されそうになったところをダークエルフに襲撃され、囚われの身となりました。
わたくしは絶望に打ちのめされ、恐怖に震えました。
しかし、なんとそこに、ルーク様がやってこられたのです。
「もちろんだ、オリヴィア。ここから、君を無事に助け出すために俺は来たんだ」
「だから、どうか安心して眠って待っていてくれないか? 必ず無事にお父上の元に帰れるようにするから」
ルーク様は自信に満ちた態度で、こうおっしゃいました。
まるでおとぎ話から抜け出してきた英雄のようでした。わたくしの胸は、感動でいっぱいになりました。
「は、はい!」
きっと、ダークエルフに寝返ったと見せかけて、わたくしを助けに来てくださったのでしょう。
わたくしはルーク様の言いつけ通り、十分な睡眠と食事を取って、備えました。
今までまったく食欲がわかなかったのに、愛する人が助けに来てくれるとわかったら、食が進みました。
次の日──
大きな悲鳴と物音が立て続けに響きました。
何事かと思って息を潜めていると……
「【魔断剣】!」
闇の刃を手にしたルーク様が、わたくしの牢獄の鉄格子を寸断したのです。
「オリヴィア、約束通り助けに来たぞ!」
「ルーク様!?」
ここは厳重に警備されていた筈なのに、どうやって? まさか、警備兵をすべて倒してしまわれた?
「ダメです。わたくしに触れると魔法罠が……!」
ルーク様の伸ばした手を掴みかけて、わたくしは慌てて仰け反りました。
誰かが、わたくしに触れた瞬間、爆発が起きるとヴィンセントから警告を受けていたからです。わたくしの軽率な行動で、ルーク様のお命を危険に晒す訳には参りません。
「大丈夫だ。前にも見せただろう? これは魔法を無効化する魔剣だ」
「えっ!?」
以前、ディアナ様にも使っておられましたが、これは魔法使いに対して、ほぼ無敵とも言える武器では?
ルーク様が魔剣を振るうと、わたくしの身を縛っていた無数の魔法罠が、弾け飛んで消滅しました。
しかも、ルーク様の持つ魔剣は、息を飲むほど美しかったのです。
魔法には使用する者の想いが込められています。
魔法とは、心を映す鏡。
ルーク様の魔剣に込められた願いは、きっと誰よりも純粋なのでしょう。
ああっ、やはりこの方は、他の方とはまるで違うのだと感じました。
「さあ、逃げるぞ。この牢に仕掛けられた魔法罠はすべて消滅させた!」
「は、はい、喜んで!」
わたくしはルーク様が差し出した手を取りました。
感激に、これ以上無いほど胸が高鳴りました。
「待て! 貴様……裏切っただけでなく、これほど多くの同胞を!」
すると、そこに殺気立ったダークエルフたちが押し寄せてきました。
見れば、数人のダークエルフが廊下に転がっていました。
「俺はダークエルフを一人も殺してはいないが? 【ヒュプノスの魔剣】で眠らせただけだ」
そう言って、ルーク様はまた別の青みがかった魔剣を出現させました。
「お前らは仮にも、ルーナ母さんの同胞だからな。母さんのために殺さないでおいてやる」
わたくしはこの日、ルーク様の真の力を目の当たりにすることになりました。
ソレはまさに、神話の英雄とも言うべき圧倒的な力だったのです。
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