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32話。モブ皇子は、ダークエルフたちを罠に嵌める

その日の深夜──

 

「ここから出せ! 俺はルーナ母さんを助けるんだ!」

「だ、黙らぬか! 邪悪な魔族の血を引く子めが!」


 俺はディアナと囚人護送用の馬車に入れられて、森の奥深くに運ばれていた。荷台が鉄格子の牢屋になっている馬車だ。

 俺たちの両手には、手錠が嵌められている。


「そうとも、俺はダークエルフの王族だ! 俺たちを虐げた傲慢な帝国に天罰が下る時が来たんだ!」


 監視しているであろうダークエルフに聞こえるように、わざと大声で喚き散らす。


 周囲の兵たちには、俺の考えた策は教えていなかった。

 敵を欺くにはまず味方からというヤツだ。


「今まで育ててもらった恩を忘れおって!」

「俺たち親子を処刑しようなんて皇帝に、誰が恩義を感じるか!? バカも休み休みに言え!」


 ディアナも同行するにあたって策を練り直し、皇帝は俺たち親子を処刑する決断を下したことにした。

 母さんを奪い返したいであろうダークエルフを誘い出すには、こちらの方が有効だ。


「……さすがはお兄様。迫真の演技ですね」


 隣のディアナがコソッと俺に耳打ちする。

 迫真の演技も何も、皇帝への敵意は隠してきた俺の本音だ。母さんを殴るような奴を、俺は父親とは認めない。


「これくらい派手にやらないと、ダークエルフを誘い寄せることはできないだろう? ディアもがんばってくれ」

「はい、では……」


 ディアナはすぅ~と息を吸って、耳をつんざくような大声を出した。


「そうです! ここから出しなさい! ディアは、お兄様と結婚するまで死ねません!」

「……はぁっ?」


 この作戦が成功したら、俺はオリヴィアと婚約するんだが……


「出せぇ! 出しなさいです!」


 両手を拘束されたディアナは、鉄格子をガシガシ蹴った。

 とりあえず、俺も暴れるとしよう。


「俺たち親子の首を差し出してもマケドニアは怒りを鎮めないぞ! きっと戦争になる。帝国はおしまいだ!」

「きっ、貴様ぁ!」


 たまりかねた兵が、槍の石突で俺を殴った。


「ルークお兄様!? よ、よくもやりましたね、あなた!」


 ディアナが大激怒し、その身から紫電が飛び散った。

 【魔法封じの首飾り】によってディアナの魔法は封じられているものの、抑えきれなかった強大な魔力が漏れ出したのだ。


「ひ……っ!」


 怯えた兵たちが、護送車から距離を取る。

 最近、ディアナの魔力はドンドン強大になっていっていた。ふつうの人間は、ビビるだろうな。


「やはり悪魔の子たちだ……!」

「だ、だが、直接手を下す必要はない。このまま森に置き去りにすればいいんだからな」

「そうだ。せいぜい、喚いていろ! お前らの母親もいずれは公開処刑だ!」


 兵たちは冷や汗をかきながらも、ニヤリと笑った。

 

 やがて、俺たちを載せた馬車は、森の中心地点で止まった。ここは魔物の跋扈する危険領域だ。

 兵たちは、我先へと逃げるように立ち去った。


 罪人を逃げられないように拘束した上で魔物に食わせる処刑方法は、古来より帝国で行われてきた伝統的なモノだ。

 おそらく、不自然では無いだろう。


 さぁ、うまくダークエルフどもが来てくれるかな……


 ギシャアアア!


 すると、大蛇の魔物が現れ、俺たちを丸呑みにしようとしてきた。

 

「お兄様、ディアは怖いです!」


 ディアナがなにやらうれしそうに、俺にしなだれかかってくる。

 俺たちは鉄格子でできた牢屋にいるので、大蛇の牙は届かない。


「大丈夫だディア。俺が付いている!」

「あん! うれしいです!」

「……いや、うれしそうにしていたらダメだろう?」


 この森を支配しているのは、俺がテイムした魔獣クロだ。

 クロに命じて、この鉄格子をギリギリ壊せないレベルの魔物をここに送ったのだ。


 これで魔物に襲われている哀れな子供をうまく演出できる。


「ルークお兄様、死ぬ時は一緒です!」

「だめだディア、最後まであきらめるな!」

「最後にお兄様の本心をお聞かせください。オリヴィア姫よりも、ディアのことを愛していますよね!?」

「……な、何を言っているんだ、お前は?」


 俺はディアナを愛しているが、それは妹としてだし、今ここで話すようなことじゃないと思うんだが……

 そもそも、妹へのLikeと恋人へのLoveは別物だろう?

 

 しかし、ダークエルフを欺くためには、俺とオリヴィアの仲が良いなどとは、思われない方が良い。

 俺は妹のミスをフォローすべく、あえて周囲に響き渡るような大声で叫んだ。


「もちろんだディア。あんな人間の小娘より、ディアの方が何百倍もかわいい!」

「やりましたぁあああッ! うれしぃいい!」


 ズドンッ!


「「えっ」」


 すると、突然、大蛇が地に伏した。

 闇色の刃で、その頭部を上から貫らぬかれたのだ。


「……なるほど、そういうことか」


 大蛇の頭の上に、フードを被った黒尽くめの男が立っていた。

 俺は内心、ガッツポーズを決めた。


 ダークエルフはエルフ同様、長く尖った耳が特徴だ。それを隠すためにフードを被っていると思われた。


 それにしても、こいつが持っている武器は……【闇刃】(ダークエッジ)か?

 ずいぶんとマニアックな魔法を使うな。


 闇の中なら、刀身が見えにくい【闇刃】(ダークエッジ)が有利ということか?


「その護送車には、強力な魔法爆弾が仕掛けられているな。我らが不用意に近づけば、ここら一帯が火の海という訳か?」

「なに……?」


 俺はあえて、男の素性や言っている意味がわからないフリをした。


 この護送車の鉄格子内に足を踏み入れると、広範囲に火炎が撒き散らされる焼夷型の魔法爆弾が仕掛けられていた。


 森を火事にして、俺たちごとダークエルフを全滅させようという悪意を感じさせる罠……

 無論、これは本当の罠を悟らせないためのブラフだ。


 この男は罠を指摘して、こちらの反応をうかがうことで、俺が罠の存在を知っているか否か、見極めようとしているのだろう。慎重なことだ。


「お前は何者だ!? いや、それよりも、ここから出してくれ! 礼ならする! 俺は帝国の──いや、ダークエルフの王子ルークだ!」

「私はディアナです! ルークお兄様の最愛の妹です!」

「ディアナ様……! おおっ、そ、そのお顔は、まさに幼き頃のルーナ様に瓜二つ!」


 男は感銘を受けた様子で、フードを取った。


 褐色の肌に長い耳、整い過ぎた美しい顔。やはりダークエルフだ。

 しかも、コイツは……ゲーム後半で戦う魔王ディアナの四天王の1人ヴィンセントじゃないか?

 

 オルレアン騎士団が警備する中、オリヴィアをさらったと聞いて、もしやと思っていたが……

 厄介な奴が敵として出てきたな。


「はい……?」


 いきなり見知らぬ男から崇拝の目を向けられて、ディアナは困惑していた。

 さらにヴィンセントの背後からも、次々とダークエルフたちが姿を見せた。


「失礼いたしました。私は現在、ルーナ様に代わってダークエルフを統率しておりますヴィンセントと申します。すぐにお助けしたいところですが、どうやら我らを誘い出して、ディアナ様ごと抹殺する魔法罠(スペルトラップ)が仕掛けられているようです」

「なんだと……?」


 俺はすっとぼけたが、サン・ジェルマンが仕掛けた罠をすぐに見破るとは、さすがにやるな。

 もっともそうしてくれないと、こちらも困った訳だが。


「ディアナ様、しばしお待ちを。総力を上げて、早急に魔法爆弾を解除いたします」

「ええっと……はぁ、ありがとうございます」


 さっきからコイツ、ディアナにばかり話しかけて、俺を無視しているが……なぜだ?

 まさかとは思うが、ロリコンか……?

 

 ダークエルフたちは、慎重に魔法爆弾の解除作業を行った。


「お待たせしました、ディアナ様。さあ、こちらへ」


 ヴィンセントが鉄格子を【闇刃】(ダークエッジ)で斬り裂く。


 この斬撃の鋭さと正確さ……剣の腕前は、ガイン師匠並だな。


 ヴィンセントは武器として【闇刃】(ダークエッジ)を愛用する魔法剣士だ。闇魔法の熟練度が高く、魔力も強ければ、名剣より【闇刃】(ダークエッジ)の方が攻撃力が高くなる。


 いわゆる剣も魔法を使える万能型キャラクターであり、奥の手の固有魔法も持っていた。


 ヴィンセントは物理的な剣に持ち替えてディアナの【魔法封じの首輪】を破壊した。【魔法封じの首輪】は魔法を無効化してしまうためだ。


「助かった。礼を言うヴィンセント。俺の手錠も壊してくれないか?」

「……貴様は魔法もまともに使えぬ出来損ないだろう? 王子面をするな」


 ヴィンセントが俺に対して、心底見下したような目を向けてきた。

 あっ、そう言えば、ダークエルフは強さこそすべての戦闘民族だったな。王族が敬われるのは、王族が最強格の戦士だからだ。


「むっ! あなた、なんてことを言うんですか、偉大なルークお兄様に向かって!」


 ディアナが激高し、自力で手錠を破壊し、さらには俺の手錠を引き千切った。


「おおっ! な、なんというお力!」


 身体能力強化魔法を使ったディアナの圧倒的パワーに、ダークエルフたちから感嘆が漏れる。


「ディアより、ルークお兄様の方が何倍もつよ……!」

「ディア!」


 俺はディアを小突いて、言葉を止めた。ダークエルフたちが俺を弱者だと侮ってくれた方が、オリヴィアの救出はやりやすくなる。


「ディアナ様のお噂はかねがね聞き及んでおりましたが、噂以上のお力! お会いできて光栄です」


 ヴィンセントが、ディアナの前にうやうやしく跪いた。


「さあ共にお母上、ルーナ様の救出を成し遂げようではありませんか?」


 母さんを救出したいか。お前たちの行動が、母さんの命を奪うことになるとも知らずにな……

 俺は密かにため息を吐いた。


「わかりました。よきにはからえです。ですが、その前に……」


 ディアナは、ボキボキと拳を鳴らした。威圧的な魔力の波動が、その身から溢れ出す。


「ルークお兄様にひれふしなさい!」

「うごぉッ!?」


 ディアナは飛び上がって、ヴィンセントの頭を掴んで無理やり土下座させた。

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