31話。モブ皇子は皇帝から、帝国の未来を任せられる
「ありがたき幸せに存じます!」
皇帝の言質を取ることに成功した俺は、静かに語り始めた。
「では陛下、私がこの機に便乗して、母上の解放を強く要求したために。敵の回し者とみなし、手足を拘束して魔物の餌とするべく森に捨てたことにしてください。さすれば、ダークエルフは必ず私を仲間に加えようと、その場に現れる筈です」
「……なるほど。彼らの目的は、ルーナ様の奪還と帝国への復讐。さすれば、宮廷の内情や宮殿の構造に詳しいルーク様を仲間に引き入れようとするでしょうな。ルーク様はダークエルフの王族である訳ですし……」
サン・ジェルマン伯爵が、顎に手を当てて考え込んだ。
「そこに現れた奴らの足取りを追えば、オリヴィア姫の居場所が判明するという訳だな」
皇帝も唸る。
「はっ! 私は『魔法も満足に使えない出来損ない』という立場。分もわきまえず陛下に意見したことで、ご勘気に触れ、打ち捨てられたとしても、何の不思議もございません」
「……だが奴らとて、罠であることは警戒しよう。仮に狙い通り現れたとしても、警戒中の奴らを追跡するのは、手練の密偵を使っても困難であるぞ」
「ご心配には及びません。私がテイムした魔獣ヘルハウンドに追跡させます。ダークエルフどもは人間の追跡は警戒しても、魔獣にはそこまで気を配らぬ筈。嗅覚と聴覚に優れた犬型魔獣を使えば、距離が離れても私を見失う危険はありません」
「そうか。そのための魔獣であるか……!」
「ふむ、見事な策ですな」
2人の賞賛を得た俺は、さらに畳み掛けた。
「私はダークエルフの仲間になったフリをして、情報を収集します。陛下は兵を集め、2日経ったら奴らの根城に兵を突入させてください。その混乱に乗じて、私が姫を奪還します」
「……見事な知略。その覚悟やよし! と言いたいところだが。貴様1人では、たとえ、その魔獣の力を借りたとしても成功率はかなり低いぞ」
皇帝は厳しい目を向けてきた。
「おそらく貴様は殺されるだろう。それでも、決行する気か?」
「仮に私が失敗したとしても、帝国軍が奇襲に成功すれば姫を奪い返せる確率は、当初の案より飛躍的に上がります。なにより……」
俺は言葉を区切って、皇帝を見上げた。
「その程度のことができなくて、どうして獅子皇帝アルヴァイスの跡を継ぐことができると言えましょうか? 私は次代の覇者となるべく生まれてきた父上の子です!」
俺は堂々と言い放った。
皇帝アルヴァイスが、どのような男を後継者として望むか、ある程度、わかってきていた。
この男は自分と同じタイプの男を好む。野心家で力と自信を持ち、強運にも恵まれている、そんな男をこそ、アルヴァイスは後継者に望んでいるのだ。
ゲーム本編でディアナが、大陸平定後に皇帝から裏切られたのは、ディアナが兵器としては優秀でも、指導者の器では無かったからだ。
使い道が無くなった兵器の矛先は、下手をすれば自分に向けられる恐れがある。平和な時代においては処分するのが順当ということだろう。
「ハハハハッ! よい! よいぞ! 命を賭して、覇者たる道を歩むと申すか……気に入った! ルークよ、貴様は確かに余の血を引いておるな!」
「はっ!」
皇帝は目を輝かせ、喝采を上げた。
無論、俺は覇道になど興味は無い。
母さんを救い、ディアナの闇堕ちを防ぎ、オリヴィアを守り、愛する家族みんなで幸せに生きていくことこそ望みだ。
それを成せるなら、どんなことでもしてみせる。
今の俺には前世とは異なり、母さんを──みんなを守れる力があるんだからな。
「お父様、お待ちください! ディアも、お兄様と一緒に行きます!」
決死の顔をしたディアナが飛び込んで来た。どうやら、開け放たれた扉の外で聞き耳を立てていたらしい。
「ディア!?」
「ディアは修行して、すごくすごく強くなりました! ディアが一緒なら、絶対にオリヴィア姫を奪い返せます!」
「……それは確かに!」
サン・ジェルマン伯爵が息を飲む。
ディアナと一緒なら、成功率はかなり上がるだろう。
釣り餌が俺1人なら、ダークエルフが迎えに現れるか少々賭けになるが、強さに定評のあるディアナまでいるとなれば、奴らは警戒しつつも、必ず接触してくる筈だ。
だが、まだ7歳の妹を死地に連れて行くのには、いくらなんでも抵抗があった。
「いや、待てディア……!」
俺が口を開こうとすると、ディアナが猛烈な勢いで言葉を被せてきた。
「お兄様は、ザイラスとの戦いにディアを置いて行かれましたよね。もう置いてけぼりは嫌です! 後から聞いて、ディアがどれだけ心配したと思っているんですか!?」
ディアナは涙目になっていた。
「もし、今度もディアを置いてぼりにしてオリヴィア姫と結婚なんてしたらは、ディアは結婚式で暴れまくります!」
「うっ……それは困るな」
「お母様を助けたいのはディアも同じです! このままだとお母様がどうなるかくらい、ディアにも想像がつきます! お母様は今、牢獄塔の地下に閉じ込められて、会えなくなちゃっているんですよ!」
どうやら、俺は妹の気持ちを考えていなかったようだ。
ディアナだって、母さんを助けたいに決まっているんだ。
それに母さんが地下牢に繋がれたのなら、もはや暗殺のカウントダウンが始まっていると言っていい。
オリヴィアの奪還に失敗すれば、皇帝はゲームシナリオ通り、ダークエルフの乱を鎮めるために、母さんを殺すだろう。
運命を変えるには、ここで乾坤一擲の大勝負に出る必要がある。
「そうだな。その通りだ。俺と一緒に、母さんを助けようディア!」
「はい、お兄様!」
「……まだ未熟だが、ディアナの兵器としての使い道は、今、まさにここか……」
皇帝は考え込んでいた。
おそらく懸念点は、俺とディアナが帝国を裏切って、ダークエルフ側に付くことだろう。
俺もそれは多少考えたが、ダークエルフがオリヴィアを殺すことで、帝国と王国の戦争の引き金にしようとしているなら、決して奴らと相容れることはできない。
「陛下、ご報告が遅れましたが、私とオリヴィア王女は口付けを交わし、すでに恋人同士となっております。私はその際、オリヴィア王女に誓いました。何があっても必ず彼女を守ると! 故に、この私がダークエルフに寝返ることは決して有りません!」
「なんだと!? 貴様いつの間に」
皇帝はさすがに驚いていた。
「陛下。おそらく嘘ではないかと。オリヴィア姫は、夜会の後よりルーク皇子と非常に仲睦まじいご様子でした。ルーク皇子が姫の救出に成功すれば、おそらくマケドニアとの同盟は成り立つでしょう。まさしく起死回生の一手。ここが勝負所かと……」
サン・ジェルマンのその一言が決め手となった。
「良かろう。ルークとディアナにオリヴィア姫の救出を命じる!」
皇帝は期待のこもった眼差しで、俺を見つめた。
「帝国の未来がかかった重大な任務だ。見事成し遂げたあかつきには、ルークに第三位の帝位継承権を与え、オリヴィア姫との婚約を認める! 期待しておるぞ、ルークよ!」
「はっ! 必ずや陛下のご期待に応えてみせます!」
俺はひざまずいて誓った。
俺の愛する人達の幸せな未来を勝ち取ることを。
さあ、決戦開始だ。俺が鍛え上げた力は、今、この時のために……!
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