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30話。モブ皇子は、帝国のトップより頼られ運命を変える

「ルーク様、どちらにおられますか!? 一大事! 一大事でございます!」


 その時、メイドのミゼリアの声が聞こえてきた。

 見れば馬に乗ったミゼリアが、必死の形相でやって来ていた。騎乗した数名の護衛兵を連れている。

 何か緊急事態が起きたらしい。


「ミゼリア、俺はここだ!」

「ああっ、ルーク様! そちらにおられましたか!?」


 大声を張り上げると、ミゼリアが駆け寄ってきた。


「ぐるるるッ!」

「……ひゃっ、魔獣ぅ!?」

「で、殿下!?」


 クロが威嚇するように唸り、ミゼリアが腰を抜かした。


 護衛兵たちは、クロの上に乗った俺を見て仰天している。

 彼らは、俺の剣術修行に付き合ってくれた兵たちだった。


「大丈夫。こいつは俺がテイムしたヘルハウンドのクロだ。危険はない」

「ま、まさか討伐対象のAランク魔獣ですか!? ……って、人が死んでいる!?」


 ミゼリアは騎士たちの亡骸に気付いて、さらに動転した。


「こいつらはオルレアン騎士団から送り込まれた暗殺者だ」

「はぇっ!?」

「そんなことより、何が起きたのか話してくれないか?」

「そうだ。落ち着けよ嬢ちゃん。今、ここに危険は無いぜ」


 ガイン師匠も話を促す。


「じ、実はオリヴィア姫が狩りの最中に、ダークエルフにさらわれたんです! 彼らは、こともあろうに姫と交換にルーナ様の身柄を要求しています!」

「母さんを!?」


 あまりのことに驚愕してしまう。


「どういうことだ? 詳しく教えてくれ」

「も、申し訳ありません。私にも何がなんだか……! とにかくルーク様に一刻も早くお伝えしなくてはと思い、馬を走らせてきたんです!」

「……そうか」


 俺はその時がやって来たことを悟った。

 ゲームシナリオで、ルーナ母さんが皇帝アルヴァイスに暗殺される理由は、ダークエルフたちが反乱の旗頭に担ぎ上げようとしたからだ。


 ゲームではそれ以上、詳しく触れられていなかったが……時期的にも、この事件がその端緒と見て間違い無いだろう。


「オリヴィア姫はアストリア殿下とご一緒だったらしく。現在、サン・ジェルマン伯爵が殿下から詳しい話を聞いております」

「わかった。すぐに母さんのところに戻る。急ぐぞクロ!」

「わぉん!」


 俺はクロの首に、皇族の所有物であることを示す紫の布を巻いてやった。

 テイムした魔獣を帝都内に連れて行くためには届け出が必要だが、時間短縮のために今回は少々無茶をしなければならない。


※※※


「なっ、なんだあの魔獣は!」

「バカな、ヘルハウンドだとぉおおおッ!?」

「俺がテイムした魔獣だ。危険は無い、道を開けろ! 俺はルーク・セレスティア皇子だ!」

「ル、ルーク皇子ぃいい!?」


 帝都に戻ると、途中、何度も兵に制止されそうになった。道行く人々が目を丸くしているが、無視して進む。


「退け! この皇帝色(ロイヤルパープル)の布が見えないか!?」

「こ、皇族の所有物なのか!?」


 魔法や弓矢を射掛けてこようとした者もいたが、俺の叫びに手を止めた。


 素晴らしいことに、疾駆するクロは予想以上のスピードだった。こいつは良い騎獣だ。

 俺たちは宮殿の塀を飛び越えた。


「一大事、一大事!」

「ルーク皇子が、オルレアン騎士団が手を焼いてた魔獣ヘルハウンドを従えてしまわれたぞ!」

「まさか、そんなことが!?」


 夕暮れにさしかかった宮廷は、上を下への大騒ぎになった。

 クロの派手なお披露目になってしまったが、この際、好都合だ。


 俺はどうすればダークエルフからオリヴィアを無事に取り戻せるか、道中ずっと考えていた。

 ……おそらく、この手しかない。


 だが、俺の作戦を皇帝に認めさせるには、説得力が必要だ。

 それにはある程度、俺の力を披露しなくてはならない。


「おやめください、父上ぇええッ!」


 牢獄塔に近づくと、アストリアの悲鳴が聞こえてきた。

 まさか、アストリアは牢獄塔で拷問でも受けているのか?


「クロ、あの悲鳴の元に向かうんだ!」

「ワオンッ!」


 クロと共に門を蹴破る勢いで、牢獄塔に突入する。一階にある拷問部屋では、アストリアが椅子に縛り付けられて、がっくりと項垂れていた。


 その前には、厳しい顔付きの皇帝アルヴァイスとサン・ジェルマン伯爵が立っている。


「ルーク皇子!? こ、これは立派なヘルハウンドですな」

「ルークか。下がっておれ。今はお前に構っている暇はない」


 皇帝は俺を一瞥すると、アストリアに詰問した。


「オルレアン騎士団の者が白状したぞ。貴様はオリヴィア姫の唇を奪うために、姫を人気の無い場所に連れ出し、そこを敵に突かれたとな!」

「ひっ! ち、違います、父上! すべてはそこにいるルークめの差し金です。配下のダークエルフを使い、この僕を陥れようという卑怯なる……ぎゃあああああッ!?」


 椅子から電撃が放たれ、アストリアの身体が派手に痙攣した。


「嘘をつくと、その椅子から電撃が発生するとご説明した筈ですが?」


 サン・ジェルマン伯爵が、呆れたように告げる。

 どうやら、正確な情報を迅速にアストリアから引き出すための処置のようだ。


「この期に及んで、まだ戯けたことを! ルークを陥れる謀略を張り巡らせていたのは、貴様とローズであろう!」

「まったく、オルレアン騎士団まで深夜の私闘に動員するとは、感心しませんな」


 俺は驚いた。

 3日前のアストリアとの対決は、皇帝の耳にも入っていたらしい。やはり、侮れない男だな。


 これなら、もはや俺が手を下す必要もなく、第3皇子の派閥は壊滅するだろう。


「陛下、ダークエルフの要求に従い、母上を差し出すおつもりでしょうか?」

「下がれと言った筈だぞルーク」


 皇帝から叱責が飛んだ。

 だが、俺は退くつもりはない。この事件の対応を誤れば、母さんの死は確定だ。


「……ルーク皇子、それはございません」


 再度、口を開こうとした時、サン・ジェルマンが答えた。


「サン・ジェルマン!」

「良いではございませんか陛下。ルーク皇子にも関わりがあること。それにルーク皇子の知略は、我らの助けになる可能性がございます」


 サン・ジェルマンが好々爺のように微笑み、皇帝に代わって説明してくれた。


「ルーナ様を引き渡しても、おそらくオリヴィア姫は戻ってはまいりません。ダークエルフの目的は帝国への復讐でしょう。マケドニアを帝国にぶつけるために、オリヴィア姫はまず確実にむごたらしい拷問の末に殺されます」


 俺は愕然とした。

 ……そうではないかと薄々思っていたが、オリヴィアがゲーム本編に未登場なのは、この事件のためか。


「……そういうことだ」 


 皇帝が言葉を継いだ。


「そもそも賊徒の望みを叶えてやるなど有りえぬ。ダークエルフどもを殲滅し、アストリアの首をマケドニアに差し出してかの国に陳謝し、怒りを鎮めてもらうしかあるまい」

「今、マケドニアに敵に回られては厄介どころではありませんからな。それでマケドニア王が納得するかはわかりませんが……できる限りの誠意を見せねば」

「マケドニアに僕の首を差し出すぅうッ!?」


 アストリアは仰天した。


「そんな、あんまりです父上!」

「黙れ役立たずが! 帝国のために死ね!」


 皇帝は実の息子を、無情に突き離した。


「ひっ、あっ……ぉおおおおッ!?」

 

 自分の運命を悟ったアストリアは、無様にも号泣し出す。


「……という状況なのですが、何か良い打開策はございますかな、ルーク皇子?」


 サン・ジェルマンが俺を試すような視線を送ってくる。


「策など一つしかない。動かせる兵をすべて動員してダークエルフどもを狩り出し、血祭りに上げるのだ!」

「万に一つ、姫を奪還できる可能性に賭けるなら、確かに陛下のおっしゃる手しかごさいませんが……」

「そうだ。一刻も早く実行せねばならん。姫が奴らの拷問を受ける前にな!」


 これが母さんが暗殺される背景にあったことか……


 愛娘を惨殺されたマケドニア王は、おそらく報復のために母さんの命を要求してくるに違いない。

 これに抗うのは難しい。


 母さんは帝国を揺るがした賊徒たちの旗印と見なされ、排除しようとする意見が帝国内で多数派となる筈だ。

 このまま手をこまねいていれば、母さんが殺される破滅の未来が確実にやって来る。

 

 ならば、俺がやるべきことはひとつだ。


「陛下、どうか待ちを。オリヴィア王女の奪還を、この私にお任せいただけませんか?」

「……なに?」


 皇帝が振り向いた。


「成功のあかつきには、私に帝位継承権を与えて下さい! 必ずや成し遂げてご覧に入れます!」

「ほう、これは……!」


 サン・ジェルマンが感嘆の声を上げた。


「余に対して、できもせぬ大言壮語を吐くことは許さんぞルーク」

「そうだ! そ、そんな奇跡みたいなことが、できる訳が無いだろう……!?」


 皇帝の眼光が鋭さを増し、泣き喚いていたアストリアが目を見張る。


「はっ! 無論、策は考えおります」

「なんだと……!?」


 その場にいた全員が、衝撃を受けた様子だった。


「良かろう申してみよ。もし成功したあかつきには、貴様の願いを叶えてやろう!」

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