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28話。光の皇子は、ルークに勝とうとしてすべてを失う

【アストリア皇子視点】


「がぁあああッ!」

「きゃあ!? お、お止めくださいアストリア様ぁ!」


 僕はアストリア・セレスティア。皇帝アルヴァイスを父に、騎士の名門オルレアン公爵家のローズを母に持つ偉大なる第3皇子だ。


 ……だというのに、魔法がひとつしか使えない出来損ないの魔族の子に敗れて、騎士の命とも言うべき剣を奪われた。


 一晩経っても、あのルークへの怒りと屈辱が冷めやらず、メイドたち相手に暴れて憂さを晴らしていた。


「笑ったな……こ、この僕を笑ったなぁああッ!?」

「ひぃいい!?」


 今朝やってきたメイドたちは、沈んでいる僕を見て、卑屈な笑みを浮かべた。

 出来損ないに敗れた無能皇子と、嘲笑されているように思えた。


「僕は父上の後を継いで覇者となるべく生まれてきた【光の皇子】だぞ!」


 だからメイドどもに思い知らせるべく、拳を叩き込んでやった。


「きゃああああッ!」


 メイドは悲鳴を上げて転がる。


「くそぅ。僕はこんなに強い。こんなに強いんだぞ!」

「何をしているのですか、アストリア!?」

「母上!」


 そこに母上がやって来た。


「ローズ皇妃殿下!」


 メイドたちが慌てて平伏する。


「あの出来損ないの魔族の子の始末に失敗したと聞きましたが……?」

「も、申し訳ありません、母上……! ルークめにおじい様からいただいた名剣を奪われ、オリヴィア姫の婚約者となるのを辞退するように要求されました。もし従わなければ、卑怯にも僕とオルレアン騎士団が敗れた事実を白日の元に晒すとぉおおッ!」


 母上の目が厳しい光を帯びた。


「……あなたは、そんな要求を飲むつもりなのですか?」

「そ、それは……」


 覇者たる者は強くあらねばならぬと幼い頃から厳しく躾けられてきた。

 それがルークごときに決闘で敗れ、奴の命令に従わねばならないなんて、忸怩たる思いだ。もちろん、嫌に決まっている。

 

「ルークはしょせん妹とは正反対の出来損ない。報告を受けましたが、ディアナとガインが加勢したからこそ闇討ちに失敗したのでしょう? 再戦の決闘を挑み、公衆の面前であの小僧を叩き潰せば……」

「違うのです、母上。再戦を挑もうにも奴には……!」


 絶対に勝てない。

 その一言を発するのは、さすがにプライドが許さなかった。


『貴様だと? なんだその口の利き方は? 今ここで殺されたいのか、アストリア』


 あの夜、ルークに脅された僕は、奴に心底恐怖した。


 生まれて初めての経験であり、積み上げてきたプライドはズタボロだった。


「……まさか、一対一で勝てないと言うのですか? あなた程の者が?」


 母上は衝撃を受けたようだった。

 しばらく考え込んだ後に、母上は口を開く。


「しかし、オリヴィア姫をルークに奪われたとなれば、良い物笑いの種。あなたの帝位継承は絶望的になりますよ。なれば、あなたは無価値です」

「そ、そんな……!」


 母上から無価値と言われて、思わず膝が震えた。

 剣も魔法も、他者を圧倒するほど強くなければ、生きている価値がない。


 覇者たる力を示し、帝位を継承することこそすべてだと、母上からずっと言われて育った。


「オリヴィア姫がルークを気に入っているのは、夜会の態度から一目瞭然でした。このまま手をこまねいていれば、いずれそうなるでしょう。マケドニアの女は一途ですからね」

「ぐぅ……」


「それだけではありません。ルークはおそらく、オリヴィア姫との婚約が成ったら、あなたを追い落とすために、あなたとオルレアン騎士団を返り討ちにした事実を公表するでしょう。そうなれば、あなただけでなく、我がオルレアン公爵家の名誉も地に堕ちます!」


 た、確かにその通りだった。

 ルークは帝位継承争いに名乗りを上げているんだ。

 ならば、絶対に僕を蹴落とそうとしてくる。

 

 約束など守られる訳が無い。騙し合いこそ、貴族の本分だ。


「このままでは、我らはあの下賤な魔族の子の下に付くことになりかねません。そのような屈辱は絶対に容認できません!」

「……で、では母上、どうしたら!?」


 僕は母上に取りすがった。


「もう容赦しません。ルークは我がオルレアン騎士団でも最強の【死の四騎士】に始末させます。問題はオリヴィア姫です。ここで勝負に出ねばなりません」


 母上はキッと僕を睨みつけた。


「オリヴィア姫が国元に帰る前に、狩りにでも連れ出して強引に唇を奪いなさい。無理やりでも、あなたのものにしてしまうのです」

「唇を……? しかし、そのようなことをすれば……」


 さすがにオリヴィア姫の怒りを買いかねない。


「心配ありません。マケドニアの王侯貴族にとって口付けは、永遠の愛を誓う神聖な行為なのです。ファーストキスを奪われたとなれば、姫はあなたになびくより他にありません。それが、かの国の掟なのです」

「なるほど……マケドニアの風習にも詳しいとは、さすがは母上です!」


「ふふっ。元々、あなたとオリヴィア姫の婚約にはマケドニア王も乗り気だったのですから、何も問題ありません」


 そうか。それに考えてみれば、今まで僕に好意を持たなかった娘などいなかった。

 多少、強引に迫ってでも、既成事実を作ってしまえば良い。


 この僕のものになるのだから、きっとオリヴィア姫も泣いて喜ぶさ。


「私が手を回して、マケドニア側から狩りに誘わせます。さすれば、ルークめも口出しできないでしょう。うまくやるのですよ、アストリア。皇帝の座につくのは、あなたです!」

「はい、母上!」


 この時、僕と母上は、この策謀が裏目に出て、何もかもすべて失う羽目になるとは考えてもいなかった。


※※※


 2日後。

 僕は手勢を引き連れて、オリヴィア姫と共に森に狩りにやって来た。

 危険な魔物や曲者の出現に備えて、周囲はオルレアン騎士団が警戒にあたっている。万全の備えだ。


 このような絶対安全な環境の中で行われる狩りは、権力の証であり、貴族にとって最高級の娯楽だった。


「浮かないお顔ですね、オリヴィア姫。狩りはお嫌いですか?」

「……あの、ルーク様もご一緒してくださると聞いたのですが、どうされたのでしょうか?」


 馬に乗ったオリヴィア姫は、よりにもよってそんなことを尋ねてきた。


「愚弟めは、体調を崩したようです。今日は、この僕と存分に楽しもうではありませんか?」


 ルークは剣術の師匠と共に、魔獣退治に出かけていた。

 そのタイミングに合わせて、母上が狩りをセッティングしたのだ。


 ふん。仮にも皇帝の血を引く者が冒険者の真似事とは情けない限りだが、これならルークに万が一にも横槍を入れられることはない。


 それに、母上が最強の刺客も放ったしな。


「そんな……! では狩りは早めに切り上げて、ルーク様のお見舞いに参りませんか? あの方は、わたくしたちの命の恩人なのですから」

「はぁ……?」


 オリヴィア姫は心配そうに顔を曇らせている。

 僕がせっかく、もてなしてやっているというのに、ルークが気になって仕方がないとでも言うのか?


 ぶちぶちと頭の血管が怒りに焼き切れそうになった。


 ちっ。ちょっと可愛くてマケドニアの王女だからって、調子に乗りやがって……


 僕は右手を上げて合図を送る。

 すると、茂みに隠れた配下がオリヴィア姫の乗る馬に吹き矢を浴びせた。


「えっ、きゃあああッ!?」

「一大事だ。姫の馬が暴走したぞ!」


 痛みに驚いた馬は、オリヴィア姫を乗せたまま暴走しだした。

 僕も馬で駆けて、その後を追う。


 これはオリヴィア姫とふたりきりになるための策だ。


 オリヴィア姫は馬から振り落とされまいと、必死にしがみついている。

 ハハハハッ! この僕をコケにした罰だ。いい気味じゃないか。


「ひゃあ!?」


 やがて、耐えきれなくなりオリヴィア姫は、落馬して地面に転がった。


「あはははは! ようやくふたりきりになれましたね!」

「ア、アストリア様? な、何を……?」


 僕はオリヴィア姫に近づいて、傲然と見下ろした。

 彼女は、身体を強く打ったためか、動けずにいる。


 ふん。キスをする前に、どちらが上位者なのか、少々、思い知らせてやろう。


「オリヴィア! お前は僕の婚約者になるために帝国にやって来たというのに、ルークごときに色目を使いやがって!」


 僕はオリヴィア姫の足を、思い切り踏みつけた。


「痛いッ!? だ、誰かぁ……!?」

「泣き叫んでも、誰も助けには来ないぞ。周囲は我がオルレアン騎士団が固めているんだからな!」


 オリヴィア姫の護衛も同行していたが、うまく引き離せたし、今ごろはオルレアン騎士団によって締め出されてるだろう。


「さあ、唇を寄越せ。この僕の女にしてやる!」

「嫌です! ルーク様!」


 すると、こともあろうにオリヴィア姫はルークの名を呼んで助けを求めた。


「こ、この僕をコケにするにも、程があるぞ!」


 僕は怒りを爆発させた。


「良いことを教えてやる! ルークは今頃、母上の放った刺客に始末されている頃だ!」

「な、なぜ、そんなことを……? 薔薇園(ローズガーデン)で、ルーク様はわたくしたちを救ってくださったではないですか!?」


 生意気にもオリヴィアは、僕をキツく睨み返した。


「あなたには、その恩義に報いようという気が少しも無いのですか!?」

「はぁ? 恩義だと? 僕の命を助けるのは当然! 僕にひれ伏し機嫌を取ることこそ、奴のあるべき姿じゃないか!?」


 僕はオリヴィアの髪を掴んで、強引に引き寄せる。

 オリヴィアは全力で抵抗した。


「い、痛い、やめてください!」

「ここで僕に永遠の愛を誓うなら、これ以上、痛めつけないでおいてやる。さあ、アストリア様を愛していると言え!」


「そんなことをしても、無駄です! わたくしのファーストキスはすでにルーク様に捧げております! わたくしはルーク様の婚約者です!」


 オリヴィアは毅然と拒絶した。

 あまりのことに愕然となり、目の前が真っ暗になった。


「なっ、なんだと、いつの間に……!?」


 僕がオリヴィアと婚約できる可能性は、すでに断たれていた。


 ならば、僕は無価値。もう父上にも母上にも愛してもらえなくなる。

 なにより、あのルークに剣と魔法だけでなく、恋でまで、完全に敗れるなんて。


「今回のこと、国元に帰ってマケドニア国王であるお父様に報告させていただきます! アストリア皇子は、わたくしに乱暴をしようとした卑劣漢だと! あなたには厳罰が下るでしょう! もはや帝位継承など、あきらめることです!」

「なっ、な……!」


 『お終い』の3文字が、脳裏をよぎった。

 まさか母上が授けてくれた策が、完全に裏目に出てしまうなんて……

 全身の血が怒りに沸き立った。


「くっそぉおおお! もう許せん!」

「いや!」


 破れかぶれでオリヴィアに復讐しようと、僕は

右拳を振り上げた。

 そんなことをすれば、僕の立場はさらに悪化するだろうが、もはや感情を抑えることができなかった。


 なぜ、オリヴィアは僕じゃなくて、ルークを選んだんだ。

 僕はオリヴィアのことが、本気で好きだったんだぞ!

 

 次の瞬間──視界に闇色の刃が走った。


「はぐぁおおおおッ!?」


 右腕に激痛が走り、大量の血飛沫が飛ぶ。僕の右腕が斬り飛ばされたのだ。


「今のは【闇刃】(ダークエッジ)! ルーク様ぁ!」

「な、なに……! ルークだと!?」


 僕は恐怖に震え上がった。

 なぜ、奴がここにいるんだ。そ、そんなバカな!

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