25話。モブ皇子は、決闘を仕掛けてきた光の皇子を一蹴する
2日後──
俺は牢獄塔で、ガイン師匠と剣の修行をしていた。そこに、メイドのミゼリアが手紙を差し出してきた。
「ルーク様、オリヴィア王女の使者より手紙を預かって参りました」
「お姫様から? やるねぇ、さすがはルーク皇子」
ガイン師匠が口笛を鳴らしてくる。
俺は剣を振るう手を止めて、汗を拭った。
「からかわないでくださいよ、師匠」
「いや、マジな話、お前さんならモテるだろう? うちのレナもルークくんに会いに行きたいって、うるさくてな」
「なっ、なんて書いてあるんですか!? まさか、デートのお誘いとかでは!?」
魔導書を読んでいたディアナが、飛び上がって顔を寄せてくる。
「いや、そんな訳ないだろうって……おう!?」
手紙に目を通した俺は、思わず目が点になってしまった。
『ルーク様、お慕い申し上げております。
今夜0時に薔薇園の赤薔薇の花壇前にて、お待ちしております。
どうかお1人で来てください。わたくしも、1人で参ります。
オリヴィア・マケドニア』
「よりにもよって、深夜の逢い引きの誘いですかぁあああッ!?」
ディアナが、顔を真っ赤にして絶叫する。
「待て待て……そんなことが、現実に起こる筈が無いだろう?」
一瞬、びっくりしてしまったが、ラブコメラノベじゃあるまいしな。彼女いない歴、前世も含めて37年の俺は、現実というものをわきまえていた。
「それ以外の何だというんですか!? これは紛れも無い恋文です!」
「そ、そうなのか……? この前、ダンスで失敗したから、ダンスを教えて欲しいと頼んだんだけど、ソレじゃないか?」
「もう、時間と場所を考えてください! それなら、コソコソ密会する必要なんて有りますか!?」
ディアナが力説するも、俺は未だに信じられない心境だった。
女の子から、ラブレターをもらうなんて初体験だぞ。
「ハハハッ。やっぱりな!」
「アストリアからお兄様に乗り換えようと……なんという尻軽女、ぜ、絶対に許せません!」
尻軽女って……妹は最近、ませてきており、大人のような言葉を使うようになっていた。
若干、言葉が乱暴なのが気になるが。
「でも……俺は、未だに帝位継承権を認められていない立場だぞ」
そんな俺をオリヴィア王女が、婚約者に選ぶとは思えないんだけどな。
なにしろ、帝国と王国の同盟に関わる話だ。庶子である俺では、身分的にオリヴィア王女と釣り合いが取れない。
マケドニアの国王は、まず首を縦に振らないだろう。
「いやいや、これは大チャンスだぞルーク皇子。皇帝は、次に大きな貢献をしたら、お前さんを正式な息子として認めると言ったんだろう? ならお姫様と婚約してマケドニアとの同盟を成立させたら、息子として認めてくれるじゃないか?」
「それは、確かに……」
同盟締結の手柄を、アストリアから奪う訳だな。
「皇帝を目指すなら、マケドニア王国の後ろ盾があった方が良いしな。ここで、バシッとお姫様の心を掴んじまえよ!」
ガイン師匠は俺の背中を叩いて愉快そうに笑った。
「ちょっと、たんぽぽ先生。勝手なことを言わないでください。ルークお兄様は、ディアと将来を誓い合っているんですよ!?」
「いやいや……」
ディアナは7歳になっても、俺と結婚したいと言っていた。
それはうれしいのだが……
破滅の未来を変えるためには、俺がオリヴィア王女と婚約するのは確かに良い手だと思う。
マケドニア王国が俺の背後にあるとなれば、母さんを害そうなどと皇帝は考えなくなるかも知れない。
何より、チャンスを果敢に掴みに行かねば、帝位など得られるものではない。
「よし。オリヴィア王女の誘いを受けようと思う」
オリヴィア王女とはまだ2回会っただけだが、幼いながらも礼儀正しく、好感の持てる娘だと思う。
問題は、俺が女の子と付き合った経験など皆無ということなんだよな……
そこはなんとか、がんばるしかないな。
「お兄様、本気ですかぁ!?」
ディアナが頭を抱えて叫んだ。
「なら、ディアも付いて行きます!」
「へっ……?」
※※※
深夜0時。
月明かりに照らされた薔薇園は、まるで妖精郷のごとき幻想的な美しさをたたえていた。
すでに倒壊した塔の瓦礫は撤去され、一部損壊したとはいえ、宮廷一の名所はその優美さを取り戻している。
こんな場所でお姫様と密会というのは、さすがに緊張するな。
俺1人で来て欲しいとのオリヴィア王女の要望だったが、ディアナとガイン師匠が隠れて付いてきていた。
困ったことに、ディアナはオリヴィア王女が俺に変なことをしないか監視するのだそうだ。
はぁ、そんな訳は無いと思うけどな……
付いて来ないように言っても聞かず、結局、押し切られた。
ガイン師匠には、ディアナが暴走しないように抑えてもらうために来てもらった。
妹がオリヴィア王女に無礼をかましたら、冗談抜きで外交問題に発展する恐れがあるからな。
約束の場所には、すでに人影があった。
うん? オリヴィア王女にしては背が高い気が……
「やはり、やって来たな……下賤な魔族の子め!」
そこで待っていたのは、抜き身の剣を携えたアストリアだった。
「この僕からオリヴィア姫を奪おうとは。不遜、不遜、不遜! 身の程をわきまえろ、この出来損ないがぁああッ!」
アストリアは目を血走らせ、完全に怒り狂っていた。
「……なぜ、あなたがここにいるのですか、アストリア兄上?」
「オリヴィア姫の侍女が貴様に手紙を送ったと知り、もしやと思って密偵を使い、姫を監視していたんだ!」
「はぁ?」
まるでストーカーだな。
「姫は寝室を抜け出して、1時間も前にここに到着していた。こともあろうに赤薔薇の花壇前でだぞ! 貴様、赤薔薇の花言葉を知っているか!?」
「いえ……?」
「『あなたを愛しています』だ! この僕という者がありながら、許せん! なんという屈辱だぁ!」
俺は恋愛方面には疎いので、そんな花言葉は知らなかった。
本気で、オリヴィア王女は俺に愛の告白をしようとしていたのか?
……だとしたら、きっと勇気を振り絞ってのことだったのだろう。
俺は彼女をいじらしく思えた。
「それで、オリヴィア王女は?」
もし、まだ近くにいるなら、迎えに行ってあげたかった。
「姫君が深夜に出歩くなど、非常識もはなはだしい。故に僕が説得して、帰ってもらった!」
「……そうですか。では、俺も帰ります」
オリヴィア王女には、後で手紙を送るとしよう。俺を呼び出しておいて帰らざるを得なかったことを、きっと彼女は気に病んでいるだろう。
俺は踵を返して帰ろうとした。
「待て! 貴様とはここで決闘だ!」
言うと同時に、アストリアが猛然と剣を叩き込んできた。
俺はソレを振り返りざまに鞘に入った剣で受け止める。
「なに……!?」
アストリアが抜き身の剣を持っていた時点で、こうなることは予想がついていたが……
まったく、こちらの返答も待たずに、背中から斬りかかるとは恐れ入るな。
「び、びくともしないだと?」
力任せに俺をねじ伏せられると思ったアストリアは、瞠目した。
普段から、ガイン師匠と力比べをしている俺にとって、アストリアのパワーは、まさに児戯に等しかった。
「決闘、お受けします。負けた方は、オリヴィア王女から手を引くということで、よろしいですね?」
「笑止千万! 死ね【流星矢】!」
アストリアは至近距離から固有魔法を放とうとした。
だが、その寸前に俺はヤツの腹に膝蹴りを見舞う。
「げばぁああああッ!?」
アストリアはゲロを吐きながら、地面を転がった。
密着するほどの距離なら、蹴りの方が剣や魔法より速い。これもガイン師匠から習ったことだ。
「……オリヴィア王女はお前にはふさわしく無い。彼女は俺が、貰い受ける」
俺は剣を抜きながら宣言した。
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