24話。モブ皇子は、姫を守って光の皇子にざまぁする
「ルーク様……!」
オリヴィア王女が、アストリアに対して怯えたように後ずさりした。
相手は怒りに任せて攻撃魔法を放つような無分別な少年だからな。
俺も前世で親父に暴力を振るわれていたから、彼女の気持ちが良くわかる。
暴力を使って、自分を大きく見せたり、わがままを押し通そうとする人間というのは、怖いものなんだよな。
だから、俺がオリヴィア王女を守ってやらねばという心境になった。
「アストリア兄上、オリヴィア王女は私をダンスのお相手にとご所望されましたが?」
「ルーク、貴様ぁああ! 身の程もわきまえず、この僕と姫の間に割って入ろうと言うのか!?」
「そんなつもりは毛頭ありませんが、姫はあなたを怖がっておいでですよ」
オリヴィア王女はすっかり怯えており、とてもアストリアと踊れるような状態にはないようだった。
「ふざけたことを! 僕とオリヴィア姫は愛し合っているんだぞ!?」
「はぁ……?」
これは政略結婚だが、アストリアはどうやらオリヴィア王女をいたく気に入っているらしい。
だが、愛し合っているとは、どういう了見だ?
「なにしろ、僕の偉大さを証明する固有魔法【流星矢】を披露したんだからな! 今までこれを見せて、僕になびかなかった女の子なんか、いないんだ! わかったら、さっさとソコをどけ!」
こ、これは思った以上に重症だな。頭痛がしてきた。
小鳥を固有魔法で撃ったのは、己の強さを誇示するためだったのか。
オリヴィア王女も衝撃に言葉を失っていた。
なんというか、彼女がますます不憫に思えてきたな。
「……ではオリヴィア王女、参りましょうか」
「はい」
俺はアストリアを無視して、オリヴィア王女の手を引いた。
ダンスが始まってしまえば、衆目の中、それを妨害するようなマネはさすがにできないだろう。
「待て、ルーク! おのれぇ、決闘だぁッ!」
しかし、アストリアは予想の斜め上を行く暴挙に出た。
なんと、俺に手袋を投げつけてきたのだ。これは貴族にとって、正式な決闘の申し込みを意味するものだ。
「見事です、アストリア。このような公の場で面目を潰されては、我がオルレアン公爵家、末代までの恥!」
豪奢なドレスをまとった貴婦人──アストリアの母であるローズ皇妃が、朗々たる声で叫んだ。
「ルーク、我が子アストリアと決闘なさい!」
俺は呆気に取られた。
ローズ皇妃の実家、オルレアン公爵家は、帝国最強の騎士団を擁する武門の家系。名誉や体面をなによりも大事にしていることはわかるが……
「……今はオリヴィア王女をもてなす懇親パーティーの真っ最中ですが?」
主賓を蔑ろにして内輪揉めを始めては、外交は台無しになる。
ローズ皇妃は、帝国の置かれている状況を理解しているのか?
「逃げることは許しませんわよ。第3皇妃ローズの名において命じます!」
なるほど。この母親にして、この息子有りということか。正論は通じないようだ。
決闘を拒否して、逃げたなどと吹聴されたら、これから先の帝位継承権争いで不利になる。
仕方が無い。ここは、手早く終わらせてしまうとするか。
「ではアストリア兄上、今から中庭で決闘と参りましょうか? オリヴィア王女、申し訳ありません。ダンスはまた後ほど……」
「ル、ルーク様……!」
「良い覚悟だ! 言っておくが、使うのは真剣。魔法の使用も無制限だぞ」
アストリアはニヤリと嫌らしく笑った。
「父上から将の器などと評されて調子に乗っているようだが、男子にとって最も重要なのは、剣と魔法の腕であることを教えてやる!」
「……はぁ、それについて、特に異論はありませんが」
この10ヶ月の修行で、俺の剣技はガイン師匠に比肩するほどまでになった。
剣技だけで、アストリアを楽に完封できるだろう。
「ルーク様、いけません。アストリア様はオルレアン剣術免許皆伝とお聞きしました。殺されてしまいますわ!」
オリヴィア王女が、真っ青になって止めに入った。
まさに目障りな俺を決闘で殺すのが、アストリアの狙いだろう。
俺は魔法が【闇刃】しか使えず、剣も習い始めて1年未満のため弱いと侮られていた。
「ご安心くださいオリヴィア王女、すぐに戻って……」
「アストリア、この愚か者めが!」
その場の全員が固唾を飲んで見守る中、入場してきた皇帝アルヴァイスの怒声が轟いた。
「前線から帰ってみれば、危うくオリヴィア王女を塔の下敷きにするところだったと聞いたぞ。貴様、帝国とマケドニアの同盟を無に帰すつもりか?」
「父上! そ、それは……鳥めが、僕の面目を……!」
アストリアは震え上がった。
「黙れ! さらには宴席で、場違い極まる決闘騒ぎ。それでも余の血を引く者か!? 恥を知れ!」
「……ひぃっ!?」
「へ、陛下!?」
ローズ皇妃までも皇帝の迫力に呑まれて、息を飲んだ。
「オリヴィア王女、不肖の息子が失礼いたした。どうか、パーティーをお楽しみいただけますかな?」
「あ、ありがとうございます。皇帝陛下」
「では、皆も宴の続きを。楽士よ、演奏だ!」
皇帝が手を叩くと、楽士たちが音楽の演奏を開始して、その場の空気を変えた。
うまく、この場を収めてしまうとは、さすがは皇帝アルヴァイスだな。
「ルークよ、オリヴィア王女の命を救ったと聞いたぞ。褒めてつかわす」
去り際に、皇帝は俺にそんな言葉を投げた。
コイツは、いずれ母さんの暗殺を企てる冷血漢だが……意外と公平な人物でもあった。
「くくっ、姫君を取られた腹いせに場もわきまえず決闘騒ぎとは……」
「騎士の名門オルレアン公爵家も落ちたものです」
「面目を保とうとして、陛下のご不興を買い、自ら面目を潰すとは、まさに滑稽の極みですな」
貴族たちの一部が、口々に噂を始めた。
おそらく、第1、第2皇子派の者だろう。ここで皇帝におもねる形で、アストリアの悪評を広めようとしているのじゃないかと思う。
3人の皇子たちは、水面下で帝位継承争いをしているからな。
「……っ!」
完全にメンツを潰された形になったアストリアとローズ皇妃は、唇を噛んでいた。
「ふっ、ふーん、お父様が割って入ってくれて、アストリア皇子は助かりましたね。もしルークお兄様と決闘などしていたらボロ負けして、大恥をかいていたでしょうから」
そこにディアナが追い撃ちをかけた。
「き、貴様! この僕を愚弄する気か!? 父上のお気に入りだとしても許さんぞ!」
「悔しかったら、ディアと真剣、魔法無制限で決闘してみますか? いつでも大歓迎です」
「ぐぅっ……!」
ディアナの力を知っているアストリアは鼻白んだ。
「ディア、やめろ。最初に約束しただろう?」
「はい、お兄様!」
俺が制止すると、ディアナは俺に寄り添ってきた。
「お、おのれぇ。この屈辱。絶対に許しませんことよ。行きましょうアストリア!」
「えっ、しかし、母上、オリヴィア姫とまだダンスが……?」
「2番手など、あの小僧の風下に立ったと認めるのも同じこと。それが栄光ある帝国の正統なる皇子のすることですか? 帰ります!」
ローズ皇妃は、捨て台詞を吐いて不機嫌そうに立ち去った。
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