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23話。モブ皇子は、隣国の王女に惚れられる

次の日──


「まさかオリヴィア王女の懇親パーティーに招かれるなんて、思ってもみませんでしたね!」


 黒いドレス姿のディアナが微笑んだ。

 俺たちは魔族の子として忌避され、社交の場に招かれることは無かったので、うれしいみたいだ。

 

「オリヴィア王女が、ぜひ俺たちにも出席して欲しいと言ってくれるなんてな」

「お兄様は、オリヴィア王女の窮地をさっそうと救ったとお聞きしました! 正装姿も凛々しくて素敵です! さすがはディアのお兄様です!」

「そ、そうか……?」


 ディアナの賞賛は、だいぶ身内のひいき目が入っている気がするが……

 俺も慣れない正装に着替えて、姿身鏡の前で着こなしをチェックしていた。


 なにしろ、これはチャンスだ。

 これからのし上がっていくため、社交パーティーで有力な貴族たちとコネを作っておくこと、隣国の王女と友誼を結んでおくメリットは大きい。


「まあまあ、ふたりとも良く似合っているわよ」


 ルーナ母さんが俺たちを見て、感動していた。


「でも、ふたりの晴れ舞台に同行できないなんて……はぁ、お母様は悲しいわ」


 母さんは尖塔の倒壊で台無しになった薔薇園(ローズガーデン)の復旧工事の現場監督をしなければならなかった。

 優先的使用権を持つということは、管理責任も負うということだ。


「お母様と一緒に行けないなんて、ディアも残念です」

「いつか3人で、パーティーに参加しような」

「ふたりで、楽しんできてね。ディアナはあまりヤンチャしちゃダメよ。ルーク、ディアナをしっかり見ていあげてね」


「大丈夫だよ、母さん」

「はい、大丈夫です! ディアはいい子にしています!」


 ディアナは元気良く手を挙げて応える。

 母さんは、ディアナがヴィクター相手に暴れたことがあるので、何かしでかさないかと、心配しているみたいだった。


「こんなにカッコいいお兄様にエスコートしていただけるなんて、ディアは幸せです」


 ディアナは俺に寄り添って、うっとりする。


「ありがとう。ディアもかわいいぞ」

「うわっ! お兄様、結婚しましょう! 今すぐしましょう!」


 俺はハイテンションの妹の手を引いて、会場に向かった。


 会場には、着飾った大勢の貴族たちが集っていた。

 足を踏み入れた途端、彼らの視線が俺たちに注がれる。


「あらっ、すごくキレイな子たちね」

「陛下と同じ、翠眼……? どちらの貴族家のご子息とご令嬢かしら?」

「しっ! アレは、ルーナ皇妃殿下のお子たちですぞ」

「あっ、あのカミラ皇妃を失脚させたという魔族の子ですか!? ……末恐ろしい」


「滅多なことを申されるな。ルーク皇子は、皇帝陛下に将器を認められるほどのお方ですぞ」

「妹のディアナ皇女は恐るべき魔法として、飛躍的に成長されているとか」


「……しかし、帝国に未だに逆らうダークエルフ王族の血を引いているのでしょう? 陛下は、あのような子らを重宝するおつもりなのでしょうか?」

「乱世にあっては、致し方なしということですな」


 俺たちを目の当たりにした貴族たちが、噂し合う。恐れ半分、興味半分といったところか。


 皇帝が俺の貢献を認めてくれたおかげで、あからさまに俺たちを嫌悪する人間はごく一部だった。

 というより、カミラ皇妃を失脚させたことで、俺を恐れる者が増えているようだな。


 その時、ファンファーレが鳴り響いた。


「オリヴィア・マケドニア王女殿下のおなりです!」


 美しいドレス姿のオリヴィア王女が、しずしずと入場してきた。

 それで人々の興味は、俺たち兄妹からオリヴィア王女に移った。


「お兄様、ダンスをしませんか? 宮廷のダンスホールでお兄様と踊るのが夢だったんです」

「ダンスか……そう言えば、ぜんぜん練習してこなかったな。ディア、教えてくれるか?」

「はい、喜んで!」


 妹相手なら、別に失敗しても問題ない。

 皇帝を目指すなら剣と魔法だけじゃなく、社交ダンスくらいできなれは駄目だ。練習がてらやってみるか。


 そう思って、ダンスホールに向かった時だった。


「オリヴィア姫! 昨日は、不幸な事故に巻き込んでしまい、申し訳ありませんでした。ぜひ、僕と一曲踊ってください!」


 第3皇子アストリアの大げさとも思える大声が響いた。


「ふ、不幸な事故ですか……?」


 そちらを見やると、オリヴィア王女が顔を引きつらせていた。


「あの……塔が崩れてきたのは、アストリア様の魔法によるものでは?」

「まさにその通り! この僕が、いかに偉大な魔法の使い手か、ご理解していただけましたでしょうか?」


 ふたりの会話は致命的に噛み合っていなかった。

 アストリアはオリヴィア王女の命を危険にさらしたことについて、申し訳なく思うどころか、魔法の威力を自慢する始末だった。


 幼いころから神童、【光の皇子】などとチヤホヤされてきたため、他人は自分の魔法を賞賛するものと信じて疑わない様子だった。


 アストリアはオリヴィア王女の前に跪いて、彼女の手の甲にキスをする。

 オリヴィア王女は助けを求めるかのように周囲に視線をさまよわせた。


「あっ、ルーク様、いらしてくださったのですね!」


 オリヴィア王女は俺と目が合うと、歓喜した様子で、俺に駆け寄ってきた。

 えっ、なぜ……?


「昨日は、誠にありがとうございました! どうか、わたくしと踊っていただけませんか?」


 この申し出にはいさかか驚いた。

 オリヴィア王女とは親睦を深めたいと思っていたが、社交パーティーで最初にダンスを踊る異性は、婚約者か恋人だ。


 少なくとも、初ダンスの申し込みは、相手に対して好意があると伝えることを意味する。

 案の定、周りの貴族たちがどよめいた。


「オリヴィア姫!? な、なぜ、この僕を差し置いて、その出来損ないなどと!?」

「むっ!? ルークお兄様は出来損ないなんかじゃありません!」


 愕然とするアストリアに対して、ディアナが怒りをあらわにした。


「お姫様も、お兄様にはディアというれっきとしたパートナーがいるのが見えないんですか!?」

「おい、ディア」


 ディアナはオリヴィア王女に対しても、威嚇するような目を向ける。

 さっそく妹がやらかし始めたので、俺は繋いだ手を引っ張って背後に隠した。


「ほら、ご覧ください。お兄様は、ディアと最初に踊るんです!」


 何を勘違いしたのか、ディアナは勝ち誇ったように言い放った。

 周囲のざわめきがより一層大きくなる。


「オリヴィア様の誘いを断わるとは……!」

「しかし、オリヴィア王女はなぜルーク皇子を? いずれにせよ、これは……」


 ダンスを申し込まれておきながら、断わるというのは、かなり失礼な態度だ。


 これが許されるのは、申し込まれた側の身分が高いか、すでに決まったパートナーがいる場合のみだ。


 俺は皇族といっても庶子で、ディアナは妹である以上、オリヴィア王女の申し出を断わるという選択肢はない。


 そもそも帝国側は、すでにオリヴィア王女の身を危険に晒すという失態を犯しているのだ。これ以上、彼女の心証を悪くするのは外交上、得策とは言えないが……


 このパーティーは、オリヴィア王女とアストリアの仲を取り持つために設けられたものなんだよな。

 オリヴィア王女も、そのことは理解している筈なんだが。


「オリヴィア王女、私は皇子とは名ばかりの庶子ですが……よろしいのですか?」

「は、はい。もちろんです!」


 俺は精一杯の抵抗を試みたが、こんなうれしそうな笑みを返されては、白旗を上げざるを得ない。


「ディア、悪いけど……」


 俺はディアナの手をそっと離した。


「あっ、お兄様……!」


 ディアナは悲しそうな顔をしたが、こればかりは致し方ない。


「オリヴィア王女、私でよろしければ喜んで」

「はい! ありがとうございます、ルーク様!」


 俺が腰を折ると、オリヴィア王女は感激した様子だった。

 しかし、彼女は一体、どういうつもりなのだろう?


 アストリアがお眼鏡にかなわなかったから、俺を使ってアストリアを躱そうということか?

 政略結婚の相手は、歳の離れた第1皇子、第2皇子でも良いわけだしな。


 ただ、彼らは士官学校に入学していて、今、宮廷にはいない訳だが……


「下賤な魔族の子が調子に乗るな! オリヴィア姫は、僕の婚約者となられる方だぞ!」


 そこに怒り心頭のアストリアが乱入してきた。

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