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22話。モブ皇子は、隣国の姫を助ける

 10ヶ月後──


 俺は8歳になり、いよいよ母さんが暗殺される時期が近づいていた。


 ゲームでは、ダークエルフが母さんを謀反の旗印にしようと争乱を起こしたことが、その切っ掛けとなるんだよな……


 だが、その争乱というのが、いつ、どこで行われるのか? 具体的に何が起きるのか? わからなかった。

 

 だから、日々、修行に励み、何が起きようとも、どんな敵が襲ってこようとも対応できるようにしておかねばならなかった。


 俺は早朝から薔薇園(ローズガーデン)で、剣の素振りをしていた。


 ここは母さんが優先的使用権を持つ場所なので、他人の邪魔が入りにくい。

 色とりどりの薔薇が咲き乱れて、目を楽しませてくれるのも心地良かった。


 だが今日に限って、闖入者がやってきた。


「オリヴィア姫、いかがでしょうか? ここが我が帝国自慢の薔薇園(ローズガーデン)です」

「まぁ、素敵な場所ですね!」

「ははっ、お気に召したようで何よりです。ですが、咲き誇る薔薇たちもオリヴィア姫の美しさには遠く及びません」


 そこに歯の浮くような台詞と共に、10歳の第3皇子のアストリアがやって来た。

 光属性魔法を得意とし【光の皇子】の渾名で呼ばれ、早くも貴族令嬢たちの注目の的になりつつある貴公子だ。


 彼は可憐なドレス姿の8歳くらいの女の子──隣国マケドニアの王女、オリヴィア姫を連れていた。


 現在、セレスティア帝国は2国と戦争の真っ最中で、一進一退の攻防を繰り返していた。西の強国マケドニアは中立を保っていたが、敵に回られると非常に厄介だ。


 そこで、皇帝アルヴァイスはマケドニアと同盟を結ぶために、オリヴィア王女と第3皇子アストリアの政略結婚を推し進めようとしていたのだ。


 だとすると、ここは二人の逢引の邪魔をせず、退散しておいた方が良いだろう。そう思った時だった。


「お前は、出来損ないの魔族の子。目障りであるぞ、消えろ!」


 アストリアは俺を見咎めると、居丈高に言い放った。


 俺が邪魔なのはわかるが、この横柄な態度は……

 おそらく、俺にマウントを取ってオリヴィア王女に良い格好をしたいのだろう。思春期の男子あるあるだ。


「あ、あの、アストリア様、あのお方は……?」

「お目汚しを。お聞きになったことがあるかと存じますが、父上が戯れに魔族女に産ませた子です」

「ルークと申します。お初にお目にかかります、オリヴィア王女」


 俺はとりあえず、オリヴィア王女に挨拶だけして立ち去ることにした。


「これはご丁寧にルーク様、オリヴィア・マケドニアでございます」


 オリヴィア王女は俺に対して、優雅なカーテシーを返した。


「どうか、仲良くしていただけるとうれしいです」

「こちらこそ」


 魔族の血を引く俺に対して偏見を持たないとは、なかなか好感の持てる娘だった。


 記憶を掘り返すと、ゲーム本編ではオリヴィア王女は未登場だった。


 名前すら出てきてないことから考えると、これから激化していく戦乱の中で、命を落とすのかも知れない。

 だとすると、多少、不憫な気持ちになった。


「このような下賤な者に、あいさつなど不要です。さあ参りましょう、オリヴィア姫」


 アストリアは舌打ちすると、オリヴィア王女の手を取って強引に連れて行こうとした。


「きゃ、お待ちくださいアストリア様!」


 オリヴィア王女は足がもつれて転びそうになっている。

 まったく、これじゃエスコート役失格じゃないか……


 そう思った時、小鳥たちが二人の頭上を通過し、アストリアの顔面に糞を引っ掛けていった。薔薇園(ローズガーデン)は小鳥たちの憩いの場でもあった。


「……こ、高貴で美しい僕の顔にぃ!?」


 その瞬間、アストリアは貴公子然とした態度をかなぐり捨てて癇癪を起こした。


「手討ちにしてくれる! 固有魔法【流星矢】(スター・アロー)!」

「えっ!?」


 こともあろうに、アストリアは小鳥たちに向かって、攻撃魔法を放った。

 それはアストリアの渾名あだなの由来ともなっている固有魔法【流星矢】(スター・アロー)だった。


 魔法の光矢は、小鳥たちを消滅させたのみならず、宮廷の尖塔に激突した。


「きゃああああッ!?」

「危ない……!」


 なんと尖塔がへし折れて、俺たちの頭上に落ちてきた。

 俺は足裏から【闇刃】(ダークエッジ)を飛び出させ、その反動で大きく跳躍した。


「はごぉっ!?」


 アストリアをタックルで突き飛ばし、オリヴィア王女をお姫様抱っこで救い出す。


 ドガァアアアンッ!


 間一髪、巨大な尖塔は俺たちの背後に落下した。

 瓦礫が飛び散り、宮廷は一気に騒然となる。

 さすがに、これには肝を冷やした。


「お怪我はありませんか、オリヴィア王女!?」

「あっ、ありがとうございます。ルーク様!」


 俺にしがみついたオリヴィア王女は、薔薇のように顔を真っ赤にしていた。


 俺はそっと姫を地面に降ろすも、彼女は恐怖のためか、俺にまだしがみつこうとしてきた。


「痛……っ」


 俺は背中に鋭い痛みを感じた。飛び散った瓦礫の破片が刺さったようだ。


「ルーク様、まさかお怪我を?」

「いえ、大丈夫です」


 被害者であるオリヴィア王女に心労をかけたくないので、俺は首を横に振った。

 母さんの作ってくれた【上位回復薬】(ハイ・ポーション)を普段から持ち歩いているので、この程度の傷なら特に問題無い。


「今、癒やします【回復】(ヒール)!」


 オリヴィア王女が、俺の背中に手を回して患部に回復魔法を当ててくれた。

 破片が抜け落ちて傷が塞がり、かなり楽になる。姫君が稽古事の一環で身に着けたとは思えない、なかなかの腕前だった。


「ありがとうございます。オリヴィア王女」

「と、とんでもありません。ルーク様は、わたくしの命の恩人です。わたくしの方こそ、いくえにもお礼を申し上げます」


 何か熱っぽい瞳をオリヴィア王女は向けてきた。

 彼女が治療のために俺の背中に手を回したため、抱き合うような格好になってしまっている。


 これは、ちょっと気恥ずかしいな。


「はっ、はひぃいいい!?」


 薔薇の花壇に突っ込んだアストリアは、腰を抜かしていた。

 どうやら無事のようだが、まったく後先考えずに強力な魔法を放つなんてな……


 コイツは、かなり衝動的で頭に血が昇りやすい人間のようだ。


 もしオリヴィア王女が怪我でもしていたら、最悪、両国の同盟が台無しになるところだったぞ。


「姫ぇえええッ!」

「ご無事でありますか!?」


 オリヴィア王女の護衛の騎士たちが、押っ取り刀が駆け付けてきた。


「みなさん、大丈夫です。わたくしはこの通り、ルーク様のおかげで無事です」

「おおっ、ま、誠にありがとうございましたルーク皇子殿下!」

「姫をお救いいただけるとは……我ら一堂感謝いたします!」


 騎士たちは、俺に向かって片膝をつき、口々に感謝を述べた。


「いえ、オリヴィア王女がご無事で良かったです」

「しかし、なぜ尖塔が倒れるような事故が……?」

「なにか、強烈な光が見えましたが?」

「も、もしや、帝国と王国の同盟を阻まんとする第三国の仕業!?」

「だとしたら一大事ですぞ!」


 騎士たちはオリヴィア王女の命を狙った者がいたのではと考えて、色めき立った。


「それは、そのう。アストリア皇子殿下が……」


 オリヴィア王女は言いにくそうに顔を伏せた。


「はぁ? ……ま、まさか。今のは、アストリア皇子の固有魔法【流星矢】(スター・アロー)だったのですか!?」

「な、なぜ、そのような事態に?」

「皇子殿下は、小鳥に糞をかけられて憤慨されたようです……」


 事情を知ったマケドニアの騎士たちは呆気に取られた。


「バカな!」

「その程度のことで、姫の命を危険に晒すとは……!」

「【光の皇子】が聞いて呆れる」


 彼らは静かな怒気を込めて、アストリアを睨んだ。


 これはマズイな……帝国と王国の間に亀裂が入ってしまう。


 両国が実際に同盟を結んでいたかは、ゲーム内で語られていなかったが、歴史が危険な方向に向かうのは、阻止せねばならなかった。


 万が一にも、これが原因で帝国が戦争に負けるような事態になったら、母さんとディアナの身も危険になる。


 ここはフォローしておかねば……


「我が兄、アストリアが申し訳ありません。皇族の末端に名を連ねる者として、いくえにもお詫びいたします」

「そんな、顔を上げてくださいルーク様!」


 俺が謝罪すると、オリヴィア王女は大慌てになった。


「ルーク様は、何も悪くありません。わたくしは、この通り、あなた様のおかげで無事だったのですから!」

「……これは、ルーク皇子はなんともご立派なお方でございますな」

「ルーク皇子のようなお方が、帝位継承権を与えられておらず、アストリア皇子のような暗愚がのさばるとは、なんとも嘆かわしい!」


 マケドニアの騎士たちは口々にそんな噂をした。

 かなり辛辣な評価だが、これは致し方ないだろう。 


「治療だぁ! 早く僕を治療しないかグズどもぉおおおッ!」

「はっ! アストリア殿下!」


 薔薇の棘に全身を刺されたアストリアは、大した怪我でもないのに大げさに喚き散らし、宮廷魔導師団に取り囲まれていた。


 オリヴィア王女を危険に晒したというのに、彼女に対する謝罪や気遣いは一切無かった。

 本来は、この男が真っ先にそれをなさねばならないというのに、自分のことしか考えていないようだ。


「ああっ、ルーク皇子が姫の婚約者であっていただけたら……!」

「も、もう何をおっしゃるのみなさん! ルーク様が困っておいでですわよ!」


 オリヴィア王女は照れたように否定しながらも、どこか悲しそうな目をしていた。

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