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18話。モブ皇子、カミラ皇妃を破滅させる

【カミラ皇妃視点】


 私は帝国の柱たる四大貴族の一つ、ルードヴィヒ公爵家の長女にして、皇帝アルヴァイス様の寵姫カミラですわ。


 私は久しぶりにアルヴァイス様に私室に呼ばれ、浮き浮きした気分で向かった。

 やはりアルヴァイス様は、この私こそを愛していらっしゃるのだわ。


 ああっ、なんとも気分が良いわ。


 アルヴァイス様に取り入る魔族女ルーナに吠え面をかかせるために、その息子ルークの暗殺をザイラスに任せた。そろそろ、吉報が入る頃合いね。


 下賤な魔族どもが、宮廷に我が物顔でのさばるなど、あってはならないこと。

 次は娘のディアナも始末してやりましょう。


 ルークの死体をザイラスにアンデッド化させて、兄妹で殺し合わせるのも良いかしらかね?


 うふふっ、想像するだけで、ゾクゾクしてくるわ。

 愛する子供を両方失ったら、ルーナはどんな顔をするかしらかね?


「カミラ・ルードヴィヒ、お召しにより参上いたしまし……!?」


 入室と同時に、私は何者かに強引に床に引き倒された。


「なっ、なにをするの無礼者!?」


 屈強な兵士が私を組み伏せて、乱暴に手錠をかける。

 皇帝の妃である私に対して、有り得ない無礼だった。


「それは余の台詞だ、カミラ。貴様、なぜ即死魔法【冥界落とし】(タナトス)の研究を報告しなかった?」


 冷たい殺気混じりの皇帝アルヴァイス様の声が響いた。

 私は思わず全身を硬直させた。


 えっ、な、なぜ、そのことを……?


「今、帝国は二国を相手に戦をしておる。この状況がわかっているのか?」

「ルーク皇子のもたらした【冥界落とし】(タナトス)の研究資料……即死魔法を操るアンデッド軍団を作るのが目的とは、いやはや驚きましたな」


 大錬金術師サン・ジェルマンが、ソファーに腰掛けながら、興味深そうに羊皮紙の束を捲っていた。


「もっとも、即死魔法の実験はことごとく失敗。人間を昏睡状態にさせるとは……【睡眠】(ヒュプノス)のバージョンアップ版といったところですな」

「それでも、敵を即座に無力化できるこの魔法は、帝国軍の強化には大いに役に立つ。たいした手柄であるぞルーク」

「お褒めに預かり光栄でございます」


 最後の小憎らしい声は、私がザイラスに暗殺を命じたルークだった。

 まさか、生き延びていた?


 しかも、ザイラスの報告では即死魔法は、ほぼ完成していたということだけど……? ど、どういうこと?

 私は激しく混乱した。


「しかし、これほどの新魔法を秘密裏に研究していたとなると……ルードヴィヒ公爵家は、帝国に対して叛意有りと言わざるを得ませんな」


 サン・ジェルマン伯爵が冷淡に告げた。

 ここで、ようやく私は状況を理解して、戦慄した。


 ルークは私の放った刺客をすべて返り討ちにして、ザイラスの研究成果を奪ったのだ。


 あ、あり得ない。

 魔法も満足に使えない出来損ないが一体どうやって……?

 

 い、いや、今はそんなことよりも、とにかく、この場を乗り切らなくては。


 このままではルードヴィヒ公爵家は、ヴィクターちゃんを次期皇帝にして権勢を振るうどころか、反逆者として処罰されることになるわ。


「アルヴァイス様! これは何かの間違いですわ。その下賤な魔族の小僧が、この私を陥れようと! す、すべては、あのルーナの謀略にございます!」


 私はとっさにルーナに罪を被せようとした。


「そう、あの魔族女が、愚かにも帝国に復讐しようとして……!」

「この資料には、民を使った人体実験の詳細が書かれておる。牢獄塔に閉じ込められていたルーナに、これが用意できるとでも言うのか?」


 その瞬間、アルヴァイス様から、すさまじい怒気が発せられた。


「ひっ……し、しかし! その資料が、ルードヴィヒ公爵家の者が作ったものだという証拠はどこにも!」

「陛下、誠に残念ながら、私はカミラ皇妃の手の者に襲われ、剣術師範のガインによって救われました」


 ルークが口を開いて、私を冷ややかに見つめた。


「ガインは娘を人質に取られて、私を殺すようカミラ皇妃に脅迫されたと申しております。この資料は、ガインが倒したカミラ皇妃の刺客ザイラスが所持していたものです。ザイラスが、ルードヴィヒ公爵のお抱えの魔法使いであることは、サン・ジェルマン伯爵もよく御存では?」

「左様でありますなルーク皇子。不肖の弟子です」

「なっ、何を言うの出来損ないの小僧が!」


 私は証拠を突きつけられたことに激しく動揺していた。


 ま、まさか、ガインが裏切った?


 娘にかけられた不完全版【冥界落とし】(タナトス)の解除に加えて、大金まで与えてやると約束したのに。


 おのれ冒険者風情が、この私に楯突くとは……!


「カミラ皇妃は私怨のために、ディアナまで殺害しようとしていたようです」

「余はルークの命を危険に晒すなと命じたぞ」


 アルヴァイス様から、窒息しそうになるほどの威圧感が放たれる。


「さらには、余が兵器として育てているディアナまで害そうとするとは……余に対する謀反とみなす!」

「お、お待ちください、これは何かの間違いでございます!」


 私は大慌てで釈明をしようとしたが、気が動転して、良い言い訳が見つからなかった。


「私はただ、あの女──ルーナに誑かさているアルヴァイス様をお救いしようと……!」

「浅はかな。どうやはカミラ皇妃は、帝国にとって、害にしかならないお方のようですな」


 サン・ジェルマン伯爵が、心底軽蔑しきった目を向けてきた。

 この私にそんな暴言を吐くとは、腸が煮えくり返る思いだった。


「ルードヴィヒ公爵家もしかりだ。灸をすえる必要があるな。カミラとは離縁、現時点をもって後宮から追放。ルードヴィヒ公爵家は、領地の一部を召し上げる」

「良きご判断かと、存じます。ルードヴィヒ公爵家の増長は許しておけませんからな」

「り、離縁……!」


 離縁などされたら、私のルードヴィヒ公爵家での立場は完全に無くなる。一生、冷遇されることになるだろう。

 なにより。


「アルヴァイス様、では私の息子のヴィクターちゃんは!?」

「後宮から離宮に住居を移す。ヴィクターが余の跡を継ぐことは、もはや無いと思え」

「ヴィクター殿下には、今後、ルートヴィヒ公爵家の人質として、お役に立っていただきましょう。もし、再び陛下に楯突くようなことがあれば、ヴィクター殿下の生命をもって償っていただきます」

「……こ、このような御沙汰。私のお父様が黙っておりませんわよ!」


 ルードヴィヒ公爵家は帝国の柱たる大貴族。強く出れば、なんとかなると思って私は声を荒あげた。


「余の決定に従えぬというなら、ルードヴィヒ公爵家を取り潰すまでだ。サン・ジェルマン、任せた。ルードヴィヒ公爵家に連なるすべての者の首を取れ」

「御意にございます。では、まずカミラ様の首級から、頂戴いたしましょうか?」


 サン・ジェルマン伯爵が深く腰を折った。その目は冷然とした殺意をたたえている。


「ひっ!」


 不老不死の怪物サン・ジェルマンこそ、帝国の切り札。


 この男は神出鬼没なことで有名で、帝国内のどこにでも瞬時に現れ、帝国の敵と見做した者を抹殺してきた。


 ザイラスの話では不老不死の秘術とは、古竜の因子を取り込んで、不滅の肉体を手に入れることであるらしいわ。

 古竜は長く生きれば生きるほど、力を増すモノ……

 

 1000年の時を生きるサン・ジェルマンの力は、おそらくザイラスより遥かに格上。

 そんな怪物に狙われて生き延びれる訳が無いわ。


 私は積み上げてきたものが、音を立ててすべて崩れ去るのを感じた。

 今日、この日、私はすべてを失って破滅したのだ。


「へ、陛下のご命令に従いますので、命ばかりはご勘弁を!」

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