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16話。モブ皇子、外道魔導師ザイラスを叩き斬る

「レナ、身体はどこもおかしくないか?」

「う、うん、大丈夫だよ、お父さん。寝起きで、ちょっと頭がボーッとするけど……」


 レナちゃんは、自分の身に何が起きたのか理解できず、戸惑っている様子だった。

 目覚めたらいきなり見知らぬ場所にいたのだから、無理も無い。


「よかった。後遺症のようなものは無さそうだな。俺はやることがあるから、ちょっとここで待っていてくれ」


 ガイン師匠はレナちゃんの頭をやさしく撫でると、振り返った。


「ルーク、あの女を追い落とすのにザイラスの研究資料が必要なら、俺も探すのを手伝うぜ」

「助かります、師匠」


 レナちゃんが閉じ込められていた隠し部屋には書架と机があり、数十冊の本が収められていた。おそらく、ここが本命だとは思う。


 他にいくつも部屋があるようなので、手分けして【冥界落とし】(タナトス)に関する資料をできるだけ手に入れよう。それがカミラ皇妃の不正の動かぬ証拠となる。

 

「レナちゃん、ごめん。お腹が空いているよね? これを食べて、待っていてくれないかな」


 俺は母さんから持たせてもらったクッキーを取り出して、レナちゃんに手渡した。


「あっ、お兄ちゃん、ありがとう……!」


 レナちゃんが目をキラキラさせてクッキーを受け取る。


「お兄ちゃんって、俺はレナちゃんと同い年だよ」

「えっ? すごく、大人っぽいから、お兄ちゃんかと思った」

「そっか。俺はルーク、仲良くしてくれるとうれしいな」

「ルークくん、だね。うん、よろしく!」


 レナちゃんが、満面の笑みを浮かべた。


 おおっ、素直な良い娘じゃないか。

 同年代の友達なんて出来る余地が無かったので、とてつもなくうれしい。


 今度、ディアナにもレナちゃんを紹介して、3人で遊ぶのも良いな。

 きっとディアナも喜ぶ。


「レナ、ルークはお前の命の恩人だぞ。お前からもちゃんとお礼を言えよ」


 ガイン師匠が書架を漁りながら告げた。


「そ、そうなの……?」

「ああっ、悪い魔法使いに眠らされていたレナを助けてくれた皇子様だ」

「えっ、皇子様!?」


 その時だった。 


 突如、天井が崩れて、数人の人影が落ちてきた。しかも、ソイツらは耳障りな呪文を詠唱している。

 まさか、これは……!


「ザイラスの仲間か!」


 ガイン師匠が剣で斬りかかろうとするも、奴らの魔法が発動する方が早かった。


【冥界落とし】(タナトス)

「レナちゃん!」


 俺はとっさの判断で、攻撃力0の【魔断剣】(ディスペル・ソード)を両手両足から生み出して、自分と師匠とレナちゃんを貫いた。


「がぁああッ!?」


 だが、部屋の外にいたジャックには【魔断剣】(ディスペル・ソード)による魔法防御が間に合わなかった。

 ジャックは喉を掻きむしるようにして倒れる。


「「なんと、驚いたぞ小僧。やはり、その剣には、【解呪】(ディスペル)と同じ効果があるのだな?」」


 床に降り立った4人の男たちが、一斉に同じ言葉をしゃべった。

 その顔は腐って崩れ、ローブから覗く腕は骨が剥き出しになっていた。動く死体。こいつらは、アンデッドだ。


「いゃああああッ!?」


 レナちゃんが恐怖の絶叫を上げた。

 俺は彼女を背後に庇って、【魔断剣】(ディスペル・ソード)を構える。


「「まさか【合成魔法】か? 本来なら老境にさしかかって初めて足を踏み込めるその領域に、7歳にして到達するとは、実に興味深い」」


 その老人口調と、初見ですぐに【魔断剣】(ディスペル・ソード)の効果を見切ったことから、ピンと来た。


「……そうか、俺が最初に倒した女も、お前が操っていたアンデッドだな、ザイラス!」

「ザイラスだと!?」

「そうです。ガイン師匠、コイツは【死霊使い】(ネクロマンサー)です!」


 死体をアンデッドに変えて操る外道魔導師が、【死霊使い】(ネクロマンサー)だ。


「「しかり。察しが良いな小僧、それにしても……」」


 4体のアンデッドが、横たわるジャックを一斉に凝視した。


「「テイマーは死んだな。ハハハハハッ、ついについに完成したぞ! 即死魔法を操るアンデッド軍団。これこそ、この私の40年にも渡る研究成果だ!」」


 アンデッドどもが同時に歓喜の声を爆発させた。


「「この力があれば、師を──かの不老不死の怪物サン・ジェルマンを超えられる!」」

「ちぃいいいッ!」


 ガイン師匠が疾風となって、ザイラスの操る4体のアンデッドを叩き斬った。奴らはその衝撃で吹っ飛ばされる。


「甘いな。いくら斬られようと、魔法の詠唱には何の支障もない」


 だが倒れた奴らは、何事も無かったように【冥界落とし】(タナトス)の呪文を唱え始めた。

 さらに、天井から大量のアンデッドどもが飛び降りてくる。


「ここは不利です! 外に逃げましょう!」

「ルークくん!?」


 俺はレナちゃんを抱きかかえて、砦の外への脱出を試みる。


 即死魔法を操るアンデッド軍団などと、狭い場所でやり合ったら、命がいくつあっても足りない。


 だが、床を突き破って湧き出たアンデッドどもが、出口を塞ごうと立ちはだかった。


「どけぇえええッ!」


 俺は足から【魔断剣】(ディスペル・ソード)を出現させて、蹴りで刃を叩き込む。敵はその一撃で動けなくなるが、空いた穴をすぐに別の敵が埋めた。


 しかも、新たに出現した数体のアンデッドどもが【冥界落とし】(タナトス)を詠唱しだした。


 まずい……


 【巨人の大剣】(ティターンズ・ソード)を使えば敵を一気に薙ぎ倒せるが、あれは全身の魔力を一点に集中させるため、【魔断剣】(ディスペル・ソード)との同時使用ができない。 


 このまま背後の敵と挟み撃ちにされたら、数の暴力で押し潰されるぞ。


「ルーク、レナを連れて逃げろ! 敵は俺が抑える!」


 ガイン師匠が壁となって、背後から追撃してくるアンデッドどもを押し返した。


「お父さん!?」


 猛然と剣を振るうガイン師匠は、俺たちを逃がすために捨て石になるつもりらしかった。

 師匠には【冥界落とし】(タナトス)を防ぐ手段が無い。


「せっかくレナちゃんと再会できたのに、何を考えているんですか!?」

「いいから行け! 俺の、せめてもの罪滅ぼしだ!」

「この娘を孤児にする気かッ!?」


 前世では、俺が6歳の時に母さんが蒸発し、高校生の時に親父が死んだ。

 そんな親を失う悲しみを、レナちゃんに味合わせる訳にはいかない。


「全滅するよりマシだ! 行け!」


 くそぅ……

 

 この窮地を脱するには、今すぐアンデッドを操っているザイラスを見つけ出して、倒すしかない。


 ゲーム知識に照らし合わせれば、【死霊使い】(ネクロマンサー)は、操るアンデッドどもの近くに身を潜ませている筈だ。

 だけど、それが何処かまでは、さすがにわからない。


 どうすれば、いい? どうすれば……


『いいルーク? 【死霊使い】(ネクロマンサー)は、死霊魔法の効果をわずかでも高めるために、地獄に近い地下に拠点を築くものなのよ』


 その時、母さんの魔法の授業が脳裏に蘇った。

 ゲームでは語られていない設定だったので、おもしろかったのを覚えている。


 ……なら、一か八かだ。


「うぉおおおおおッ【巨人の大剣】(ティターンズ・ソード)!」


 俺は右手に超大型【闇刃】(ダークエッジ)を出現させ、地下に向けて思い切り突き刺した。


「なにぃいいいッ!?」


 ザイラスのアンデッドどもが、驚きの声と共に【冥界落とし】(タナトス)の詠唱を中断した。

 床が砕けて、俺たちは大量のアンデッドごと地下室に落下する。


「きゃああああッ!?」

「大丈夫!」


 悲鳴を上げるレナちゃんを左手で抱き締めて、俺は地下室に着地した。

 

「あ、ありがとう……ルークくん」


 なぜかレナちゃんは、ポっと顔を赤らめていた。

 ガイン師匠も俺の隣に、無事に降り立った。


「いきなり、何をするかと思ったが、こういうことか?」

「魔鋼製の床が!? い、今のは……!」


 そこには、腰を抜かした初老の男がいた。

 アンデッドとは異なる血色の良い顔。紛れもなく生きた人間だ。


「お前がザイラスだな」

「お、おのれ……」


 俺は男に詰め寄った。


 戦闘はアンデッドに任せて姿を見せないのが【死霊使い】(ネクロマンサー)の戦い方だ。隠れ場所を突き止められたら、もはやチェックメイトだ。


「……下僕どもよ。殺れ!」


 だが、ザイラスは悪足掻きで、アンデッドどもを俺たちにけしかけてきた。

 さらに自身は、【冥界落とし】(タナトス)を詠唱しだす。

 

「野郎、さんざん好き放題してくれたな!」


 ガイン師匠が群がるアンデッドを切り倒す。


「ザイラス、お前はここでおしまいだ!」


 俺は再び、【巨人の大剣】(ティターンズ・ソード)を出現させた。

 それで、壁となって立ちはだかる無数のアンデッドごとザイラスを叩き斬った。

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