表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

13/41

13話。モブ皇子、カミラ皇妃の手先のテイマーを倒す

 俺はガイン師匠と一緒に、魔獣退治のために帝都の外れにある森を訪れることになった。


 生まれた時から牢獄塔に閉じ込められていた俺にとって、外の世界は新鮮だった。

 朝露にきらめく緑の葉が目に眩しいし、なにより空気がうまい。鳥たちのさえずりも心地が良かった。


 できればディアナも連れてきてやりたかったな。

 ディアナは一緒に行きたいと喚いていたが、皇帝から許可が降りる訳も無かった。


「俺の後を離れずについてこい」

「はい、師匠」


 周囲の景色に目を奪われていると、ガイン師匠の警告が飛んできた。

 森は魔物の生息域だ。決して師匠から離れるなと、言いつけられていた。


 日が落ちると、火起こしや野営のやり方を教わった。


 魔物は夜陰に乗じて人を襲うため、野営中は火を絶やさずにいなくてはならないらしい。


 こういった冒険者ならではの知識を教えてもらえるのは、ありがたかった。

 ゲームをやり込んだだけではわからない、生の体験だ。将来、きっと役立つだろう。

 

「あっ、そうだ。これは母さんが作ってくれた【上位回復薬】(ハイ・ポーション)です。師匠にもひとつ渡しておきますね」

「純粋な青だと……? これはとんでもなく良質な【上位回復薬】(ハイ・ポーション)だな」


 バックパックから取り出した【上位回復薬】(ハイ・ポーション)をお裾分けすると、ガイン師匠が目を見張っていた。


 師匠はさすがは腕利きの冒険者だけあって、母さんの【上位回復薬】(ハイ・ポーション)の品質の高さを一発で見抜いた。俺としても鼻が高い。


「お前が、いつもの次の日には怪我が全快していたのは、コイツのおかげか?」

「そうです。母さんは、魔法薬作りに長けているんです。ディアも今、【回復薬】(ポーション)作りの修行中です」

「ははっ、じゃあ、そいつはディアナの【回復薬】(ポーション)か? 濁りがヤバくて、薬効は無いに等しいな」


 俺がもう一本取り出した【回復薬】(ポーション)を見て、ガイン師匠は噴き出した。


 ディアナは母さんの指導を受けて、【回復薬】(ポーション)に励んでいたが、なかなかうまくいかず、品質は最低ランクだった。


 母さんいわく、怪我を癒やす【回復薬】(ポーション)作りは、地道な修行が必要らしい。


 それにディアナは壊すのは得意だが、癒やすことは苦手みたいだった。


「そうですか。ディアは、たんぽぽ先生には自分の【回復薬】(ポーション)は一つもやるなと言っていたんで、ちょうど良いですね」


 薬効の有無など関係ない。

 かわいい妹が俺のために作ってくれたものなので、水代わりに飲むことにする。


「うん、うまい。これは最高の【回復薬】(ポーション)です」


 実際には苦かったが、妹を貶されたままでは腹が立つので、無理に飲み干した。


「お前たち兄妹は、本当に仲が良いんだな。悪かった、そう怒るな」

「ディアもいつか、母さんのような立派な薬師になりますよ」


 妹は『お兄様のためにディアは【回復薬】(ポーション)作りをがんばります!』と言ってくれていたので、俺はそれだけで感無量だ。


 それに薬師を目指すなら、魔王にはならないでくれると思う。


「……そうだな。【回復薬】(ポーション)の作成で一番大事なのは、使う人間の無事を願うことだからな。その点に関しては、間違いなく合格だな」


 師匠はなぜか、気分が沈んだ様子だった。


※※※


 次の日、さらに俺たちは森の深くへと分け入った。

 霧が出てきて、視界が悪い。これじゃ魔獣が近くに潜んでいても、気付きにくいな。


「魔獣の目撃報告があったのはこのあたりだ」

「何人もの旅人が喰われて犠牲になっているんですよね? それにしては、本道から外れ過ぎてる気がしますが」

「……そうだな」


 なんとなく、歯切れの悪い返事をガイン師匠がした時だった。

 6体の魔獣グリフォンが突如、木陰より姿を現した。


「グリフォン!?」


 確か旅人を襲っているのは、Dランクの魔獣ブラックウルフだった筈だ。こんなBランクの魔獣がいるなんて、聞いていないぞ。


 しかも、グリフォンどもは、俺に向かって一斉に襲いかかってきた。

 ガイン師匠が援護してくれたとしても、これは切り札を使わなければ、しのげる状況ではない。


 幸い、目撃者が師匠だけなら、口止めをすれば俺の秘密は拡散されない筈だ。

 そう判断した俺は、現在使える最大威力の【闇刃】(ダークエッジ)で迎撃した。


【巨人の大剣】(ティターンズ・ソード)!」


 尖塔のごとく高く伸びた【巨人の大剣】(ティターンズ・ソード)で、襲いかかってきた前衛の3体を輪切りにする。

 奴らは断末魔と共に、地面に倒れた。


 そこに、後衛のグリフォンが放ってきた無数の風の刃が、俺を斬り刻もうと迫る。


【魔断剣】(ディスペル・ソード)!」


 俺は、全身から極小の【魔断剣】(ディスペル・ソード)をハリネズミの針のように出現させて、そのことごとくを無効化した。

 鉄壁の防御形態、ハリネズミモードと呼んでいた。


「なんだその魔法は!?」

「ガイン師匠、敵です!」


 ガイン師匠は唖然として立ち尽くしていた。

 なぜか、剣を抜こうともしていない。


「ガイン、なにを、ぼーっと突っ立っていやがる!? 俺の魔獣と連携して、そのガキを殺せ!」


 木陰から顔を出した男が叫んだ。

 妙にグリフォンどもの統率が取れていると思ったが、こいつはテイマーか?


 それで、だいたいの事情を察することができた。

 ……ガイン師匠は敵だったってことだ。


「はぁああああッ!」


 俺は【巨人の大剣】(ティターンズ・ソード)を猛然と振り回して、残りのグリフォンどもに叩きつけた。


 【巨人の大剣】(ティターンズ・ソード)は具現化した魔法の剣であるため質量が存在せず、羽毛よりも軽々と扱えるのが特徴だった。


 次の魔法を放とうとしていたグリフォンどもは、すべて一撃で絶命する。


「信じられねぇ!? クソッ、あとは任せたぞ!」


 手下を倒されたテイマーは、脱兎のごとく逃げ出した。


「逃がすか!」


 俺は足の裏から【闇刃】(ダークエッジ)を勢い良く伸ばし、その反動で大きく跳躍した。

 一瞬でテイマーとの距離を詰めて、その背に刃を叩き込む。


「【ヒュプノスの魔剣】!」

「がはッ!?」


 テイマーに喰らわせたのは殺傷力が無い代わりに、相手を眠らせる効果のある【ヒュプノスの魔剣】だ。


 テイマーはその場に崩れて眠りに堕ちた。この男からは、事情を聞き出す必要がある。


「魔法が一つしか使えない無能皇子っていう噂と、ぜんぜん違うじゃねぇか。まさか今の巨剣は、【固有魔法】か……?」


 ガイン師匠が剣を抜いた。


「とんでもねぇ威力だな。ディアナより、お前の方が怪物だったて訳か」

「ガイン師匠、どういうことか説明してもらえますか?」

  

 俺は師匠を睨みつけた。

 ガイン師匠が敵ならば、確実に口を封じなければならない。おそらく、黒幕はカミラ皇妃あたりだろう。


 俺が実力を隠していたことがカミラ皇妃に伝われば、俺にも【魔法封じの首輪】が嵌められるに違いない。

 そうなれば母さんを守ることは、ほぼ絶望的となる。


 できればガイン師匠を殺したくはないが、母さんの命、そしてディアナの運命とは天秤にはかけられない。


「悪いがレナを救うために、お前には死んでもらう必要がある。そういうことだ」

「……レナ? 師匠の家族ですか?」


 ガイン師匠の顔に、葛藤が浮かんだ。


「そうだ。俺の娘だ。要するに、俺とお前は似たもの同士ということだ。なら、譲れないのもわかるだろ?」


 娘を人質に取られて、命令を聞かされているということか。


 だけど、甘いぞ。

 俺は7年間、宮廷で生きてきて、貴族のやり口というのは、それなりに理解できるようになっていた。


「俺を殺したら、確実にレナちゃんが返ってくるという保証はありますか?」

「なに……?」

「カミラ皇妃は、皇帝から俺を殺すなと命令されています。俺を暗殺しようとしたことが明るみに出れば厳罰が下るでしょう。証拠隠滅のために、師匠とレナちゃんは消されるのではないですか? カミラ皇妃なら、確実にそうすると思いますよ」


 ガイン師匠の顔が、驚愕に染まった。

 カマをかけてみたが、それで黒幕についての確証が持てた。


 あいつは、俺たち親子、特に母さんに対して強い嫉妬と憎しみを抱いているからな。


 なら、やることはひとつだ。

 ガイン師匠と共に、カミラ皇妃をあらゆる方法で徹底的に叩き潰す。

 もう二度と俺たちに手が出せないようにな。


「俺がレナちゃんを助け出すのに協力します。ふたりで力を合わせればきっとできますよ、ガイン師匠」

「……正直、驚いた。お前はすげぇ男だなルーク」

お読みいただき、ありがとうございました!

少しでも面白い! 続きが読みたい! と思っていただけたら、


『ブックマーク』登録と、下にあるポイント評価欄【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にしていただけると幸いです!


評価ボタンは、モチベーションに繋がりますので、なにとぞ応援よろしくお願いします!


↓この下に【☆☆☆☆☆】欄があります↓

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
お読み頂きありがとうございます!!
少しでも面白いと思って下さった方は

ぜひ「ブックマークに追加」をしていただけると嬉しいです!!


同じ作者の新作です↓

魔王少女の勘違い無双伝~中二病をこじらせて、配下の人間も守る誇り高き悪のカリスマムーブを楽しんでいたら、いつの間にか最強魔王軍が誕生していた件

小説家になろう 勝手にランキング
ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ