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 過去を思い出してはいけない。泣いてしまうから。


「グスン、グスン」


 まあ、泣いている子がいるわ。


「フフフ、坊やキャンディーをあげるわ」

「え、お姉ちゃん・・」

「これで元気を出して」

「有難う」



 お菓子は良い。食べている間は笑顔になれる。

 皆が笑顔になれれば私も嬉しい。

 私はアフリ、グラシー商会の雑用メイドだ。


 元は総領娘、外に商品を届けるときは、令嬢の服を着られる。

 しかし、この服もそろそろ限界かしら。

 また、義妹からお下がりをもらおう。

 派手だ。お直しをしなければならない。


 ダメ、未来を考えてはいけない。何故なら・・・



「ちょっと、トム、こんな所にいたの?帰ってきなさい!」

「母ちゃん!」

「なんだい。少し叱ったくらいで!ほら、手をつなぐよ!」

「うん」


 ほら、もう、あの子は私の事を忘れている。

 それで良い。


 あら、あそこに泣てる方がいるわ。職人さんかしら?


「畜生めー!皆、分かってくれない!グスン」


「フフフフ、キャンディーをどうぞ」

「あ、お前・・何だ。まあ、もらうか」


 私は今年15歳、花の乙女だ。微笑めば気持が和らぐかな。

 ・・・15歳、本当だったら貴族学園に入学するはずだった。



「おう、サムここにいたか。もう一回やり直しだ!」

「親方、俺、クビになったんじゃ」

「馬鹿め。【まだ】半人前のお前をほっとけるかよ」

「はい!」


 フフフフ、あの職人さんも頑張れるみたいだわ。


 皆は迎えに来る人がいる。


 しかし、私にはいない。

 だから独りで家に帰ろう。



「アフリ!どこほっつき歩いていたんだ!」

「申し訳ございません。お義母様」

「馬鹿だね。ここではグラシー商会夫人だよ。奥様とおよび!」

「はい、奥様」


「全く、メロディは貴族学園に入学中だよ!義姉としてしっかり支えなければいけないよ!」


「はい、奥様」


 この女、自分は使い分けが出来ていない。義姉として支えろと言う。

 メイドのお仕着せに着替えて、家庭教師のいる部屋に向かう。



 ドアは開けっぱなしだ。男性教師だから配慮されている。

 静かに入り。斜め後ろから声をかける。


「お茶とお菓子でございます」


「アフリ!遅い~」

「では休憩しましょう」


 その間、別室で家庭教師の先生の相談を受ける。



「はあ、厳しいですな。何とか入学できましたがFクラスです。宿題にも四苦八苦している状況です・・・・アフリ様を教えていた時が懐かしい・・」


「はい、先生、キャンディーです。過去は思い出してはいけないわ。辛くなるから」

「頂きます」



 どうしようもない。義妹は数年前まで色町で暮らしていたのだから

 酌婦の娘だ。

 仕方ない。仕方ない。授業が再開すると、廊下に酒の匂いが充満していた。


 発生源はお父様だ。


「ヒィック、おい、アフリ、帳簿をつけているか?」

「はい、お父様つけております。点検をお願いします」

「あ~、馬鹿やろう!私は商会長だ!商会長が帳簿つけるか!」

「申し訳ございません」



 お母様が亡くなってすぐに入り婿のお父様は愛人とその子を連れてきた。

 私と同年代だが、恐らく血がつながっているだろう。


 ・・・・いけない過去を思い出してはいけない。辛くなるから。


 ☆回想


『今日からお前はメイドだ。メイドにヌイグルミや絵本は必要ない。部屋をメロディに明け渡しな!贅沢なお前を躾けてやる!』


『ヒィ、やだ、やだ。何で縛るの。何で、お馬さん用のムチを持っているの・・』


 バチン!バチン!


『ヒャアアアーーーー』

『情けない子だね。色町流の躾け方法だよ!』

『キャハハッは、お義姉様、みっともないー』

『義姉と呼ぶのはやめな。メイドだ』



 ・・・・・・・



 いけない。過去を思い出してはいけない・・・

 家庭教師をお見送りをしたら、義妹が声をかけてきたわ。




「ねえ、アフリ、宿題をやって!」

「それはダメです。ご自分のためになりません」

「うわー、ケチ!お母様に言いつけるよ!」

「それでも出来ません!」


「おかあさーん。メイドが言うことを聞かないよ!」

「まあ、生意気ね。躾けてやるわ!」



 ・・・・・



「ウグ、ハグ・・・」


 食べ物に血が混じる。口内炎になったときは、お母様は大騒ぎをして、お医者様を探してくれた。


 ダメだ。過去を思い出してはいけない。


 結局、宿題をやってしまった。





 ☆☆☆貴族学園Fクラス



「メロディ嬢、グラシー商会のメロディ嬢!」


「は~い、先生・・って学園長までなんですか?」

「すごいぞ。君は選ばれた。Fクラス初快挙だ!」

「何ですか?」


「この前の宿題だよ!あれは第三王子の婚約者を選ぶ宿題だったのだ。第三王子リヒャルト殿下は、10代で宰相補佐の逸材だ。

 妻は実力で選ぶと公言しているぞ!うっかり聞いていなかったな」


「キャアー、やったわ!」

「いずれ、王宮から呼び出しを受ける。準備をしておくように」

「は~い」



 ☆☆☆グラシー商会


 メロディが王子妃候補に選ばれたらしい。グラシー商会は大騒ぎだ。


「宿題なんて口実よ。メロディの可愛さに一目惚れしたに違いないわ。やっぱり女は笑顔だわ」

「お母様、有難う。ドレス買ってぇ」

「もちろんよ。ねえ。旦那様、いいよね」

「既に仕立て人呼んでいるぞ」


「「キャアアーーー」」


 義妹メロディが王宮に呼ばれて大忙しだ。私は商会の仕事をしながら用意を手伝わされた。

 元々はこの商会は母と数人の使用人で回していた。今は実質働いているのは私一人だ。


「そうだ。父もいくぞ。夫人同伴だ。お前もドレスを新調しろ」

「まあ、有難う」


「しかし、メイドはどうする?アフリだと貧相だ」

「そうね。使用人ギルドに相談するわ。この際、メイドを新しくしましょう。王宮勤務経験者がいいわ」

「アフリは解雇よ。今すぐに出て行きなさい」

「そうだ。離縁だ」


「はい、旦那様、奥様」



 私はこうして追放になった。お母様の商会はどうなるのであろう。

 いや、もう、お母様の商会は過去になった。







最後までお読み頂き有難うございました。

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