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俺はこの幼なじみが嫌いだ  作者: 湯上湯冷
1年生編
9/97

体育祭(1)

5月。

この月には、高校生が待ち望んでやまない一大イベントが存在する。


 そう、体育祭だ。


「リレーがいい人ー?」


「はいっ!」


「へーい」


「はい」


「うしっ!」


あらあら、みなさんお元気だこと。


「おっ、4人だけ?

 じゃあ、鈴木くん、佐藤くん、松永くん、それから……里崎の4人で決定ね」


「うおっ、なんか俺だけ呼び捨てなんだけど!?」


「あーごめんごめん。間違えちゃった」


ほんの一瞬で、教室に笑顔が咲く。

 ちなみに、この呼び捨てを食らった里崎くんはヒロだ。本名が里崎大翔だから、俺はヒロと呼んでいる。


「よっしゃあ!

 この最強メンバーで、絶対勝つぞー!」


「「「おおおおお!」」」


 流石は運動部、凄い熱気だ。

 そんな中俺はというと、ただひたすら冷静に、その時を待っていた。


「まだか……」


 俺が待っている競技、それは……他クラスと合同で行うパン食い競走である。


 パン食い競走は、6クラスの中で、俺のいる1組と2組、3組と4組、5組と6組がペアとなり、スコア変動なく行われる唯一の競技。


 つまり、戦犯という概念が存在しないのだ。


 俺は一目見た瞬間、「これだ!」と思った。


「じゃあ次、パン食い競──」


来た。


「はい」


 言い終わる前に立ち上がる俺。

 これなら誰も言い出せな──。


「俺もやりたいっす」


なに……!?

 き、君は確か、柔道部の森田くん!?


「これは1人だけだから、2人でジャンケンね。じゃあ行くわよ。最初はグー……」


 た、頼むよ神様。

 俺を勝たせてくれ……!


「ジャンケンポン!」


 俺の繰り出した渾身のハサミは、森田くんの石に粉砕された。


「や、やったっす!」


ふっ、体育祭当日、欠席します。


 あー! 二度と神になど頼むものかぁぁぁ!

あっでも、やっぱりいざとなったらお願いします!


「あっ、柚くん。

 残ってるのが二人三脚だけだから、二人三脚でいいかな?」


二人三脚……?

つまりなんだ? 俺は当日、誰かと肩を並べて走るのか……?


「──もう、なんでもいいです」


 ふとヒロに目を向けると、横を向いてニヤニヤと笑っている。

 あの野郎……。


「はい、決まりね!」


 うちのクラスをまとめる室長は、彦根若菜さん。

 見るからに真面目そうだし、しっかり者そうだし、反対票など入る訳が無かった。


 実際、頼りになるリーダーだと思う。


「じゃあ、走順とか作戦とかは各自で決めて記入するってことで……解散!」


「「「はーい」」」


 でも、俺みたいなやつに対する気遣いはしてくれないんだな……はぁ。

 なんて思っていたら、


「柚くん、二人三脚で本当に大丈夫だった?

 あっ、別にダメとかじゃないんだけど、もしかしたら空気に流されて決めちゃったかなって思ってさ」


 放課に入ってすぐ、神対応を受けた。

彼女の紫髪は、陽の光を受けて淡く輝く。綺麗に揃えられた前髪の下、大きな瞳がこちらを見つめる。


女神様……。


「で、どうなの?」


赤と白のリボンで結ばれたツインテール風のアレンジが、幼さの中に光る真面目さをより一層際立たす。


「正直、走るのは好きじゃないです」


「うん。ごめんけど、そんな気してた」


 優しいのは凄く伝わる。

 でも、ちょっぴり悲しい。


「ああ、俺のパン食い競走……」


「あれ? でもさ、パン食い競走も走るよね?」


 ギクッ。


「えーっと確か、二人三脚はペア表彰があって、パン食い競走は特になしだったっけ」


「へ、へぇ、そうなんだー……」


落ち着け、大丈夫だ。

いつも通り吸って吐いてさえいれば、動揺が露見することはない。


「ばぁぁぁ、ずぅぅぅ、ばぁぁぁ、ずぅぅぅ」


「ふーん、なーんか怪しいわね。まぁ、頑張れー」


「し、室長ぉぉぉぉ」


 こうして俺の、二人三脚出場が決定した。


「これから俺は、何のために学校生活を送ればいいんだ……」


 気づいた頃には2、3、4限目が終わっており、昼休みに入っていた。


「うっ」


 重たい足を必死にあげ、俺は屋上へ向かう。


「や、やっと着いた……」


 ドアを開けると、見慣れた顔が1人……2人!?


「おっ、待ってたぜ」


 大きなビーチパラソルを設置しているヒロと、その隣に女子生徒が1人。


「遅いぞ少年!」


 何かに影響を受けたであろう話し方。

 間違いない、あゆだ。


「何でまたあゆが屋上に?」


「今日は種目を聞きに来たんだぞ少年!」


 両手を腰に当てるその感じ、昨日やっていたピンクヘキサゴンの主人公だな。


「まぁまぁおふたりさん、とりあえず座りましょうや」


「うむ。有難く座らせてもらうぞ少年!」


「はいはい、ちょっと黙っててねー。

 それよりヒロ、これどうしたの?」


 そう、ヒロが準備してくれたのはビーチパラソルだけではない。


「あー、このピクニックテーブル?

 倉庫にあったやつもらってきた。

 もちろん、校長に許可は得てる」


「最高すぎ」


無意識にハイタッチを交わしていた。


 6人がけの大きなピクニックテーブルは、快適以外の何物でもない。


「はぁ、いつでも寝れそう……」


「喜んでもらえて何より」


 反対側にあゆが座ったため、ヒロは俺の隣に座った。


「それで、体育祭の種目だっけ?

 ちなみに天乃川さんは何にしたの?」


 どうせあゆのことだ。

 おそらく、女子の選抜リレーとかその辺りだろう。


「うむ。私は、『何でもやるよ!』と宣言してしまったばかりに、二人三脚になってしまったんだぞ少年!」


 ふーん……ん? 今、二人三脚って言った?


「へぇ、二人三脚ねぇ……おめでとさん」


「えっ? それってどういう……」


 キャラを忘れ、素で尋ねるあゆ。


「あら偶然、柚も二人三脚だよな?」


「うん」


「ええっ!?」


 あれ、待てよ?

 今の言い方、こいつやったか?


「ねぇヒロ?」


「ん? どしたどした?」


「君、やったね」


「はて、なんの事やら」


 この反応、確定か。


「でもまさか、柚くんが最初にチョキを出すなんて、僕全然知らなかったよー」


 ほーら、しっかり根回ししてんじゃん。

しちゃってんじゃん!

 森田てめぇ、勝つの知っててグー出しやがったな!

チッ、許さねぇ。


「ゆ、柚と同じ……!? あーもう、さっきはバカって言ってごめんね私……! ないす!」


 にしてもあゆ、嬉しそうだな。

 まぁ、知らない人とやる可能性があったから、相手が俺と聞いて安心したんだろう。


 かくいう俺もその1人な訳で。


「あっ、そうそう。

 あゆちゃんも災難だったねー」


「えっ? 何がです?」


 あれ? こいつまさか……。


「だってさ、最後に残ったのが二人三脚だったってことでしょ? 俺だったら絶対やりたくないもーん」


 あーらら、隣のクラスまで根回ししてらー。


「い、いや? まぁ私は別に、二人三脚でもよかったなーなんて」


 どうやら、俺とあゆはまんまとヒロに嵌められたらしい。


「あっ、そうなんだ! まぁとにかく、2人とも、練習ファイトー!」


「おー! じゃ、じゃあ柚、一緒に練習頑張ろうね……!」


「う、うん。頑張ろうね」


 さて、これからどうなることやら。


 俺はあゆが嫌いだ。

 ペアと言うだけで安心させてくる、そんなあゆが嫌いだ。

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