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俺はこの幼なじみが嫌いだ  作者: 湯上湯冷
1年生編
8/97

昼休みの屋上

「なぁ、柚」


「んー? なーにー」


 屋上で寝転がる俺とヒロ。

 こういう時、ふと思う。


 春は素晴らしい季節だと。

・・・あれ、なんか最近同じことを言ったような気が……いや、気のせいか。


「いやなに、この前話してた子いるじゃん?」


「あー、多分聞いてたと思う」


「多分ってお前……まぁ、いつも通りか」


 ヒロはよく恋愛に関する話をしてくる。

 はっきり言って興味は無い。


 だが、貴重な友達を失わないため、俺は渋々話を聞いている。

というかヒロも、ただ人に話したいだけなんだと思う。


「それでな、あの子についてなんだけど──」


 そして今日もまた、ヒロの恋愛話が始まった。


「うんうん」


「それでな──」


 初めは何となく相槌を打つが、ある程度経つと俺は決まって眠りにつく。

 だって長い放課は、眠るためにあるんだから。


 それに、ヒロは俺が途中で寝ても絶対に怒ったりしない。

 この男はきっと、この世で1番の理解者だ。


「──って訳なんだよ」


「へぇ、それは辛いね」


 ただ、今日は珍しく眠ることが出来なかった。

 一応思い当たる節はある。


 そう、例の写真だ。


「うえっ、起きてるじゃん!?

 珍しいこともあるもんだなぁ」


 おいおい、起きてるだけで驚かれる俺って何者なんだよ。


 なーんてツッコむ気が起きるはずもなく、俺は力なく寝転がっている。


「仕方ないなー。珍しく起きてるそこの君に、俺様が1つアドバイスをしてやろう」


「えっ、別にいらない」


「えぇショック!」


 直後、これは流石にマジトーン過ぎたと、これまた珍しく反省した。


「で、でも、これは覚えておいた方が絶対にいい! そして柚には、聞く義務がある!」


 いや折れないんかい。

 なーんてツッコミをする気が起きるはずもなく──以下略。


「俺からのアドバイス、それはずばり……!」


 これはもう聞くしかないな。


「ずばり?」


フェンスに止まるカラスが飛び立ったその瞬間、ガバッと起き上がるヒロ。

ひしひしと感じる名言誕生の気配。


「女の子の前では笑顔でいるべし」


普通だ。


「へぇ」


でもなんか安心した。


「それはどうして?」


「そりゃあ、人の笑顔が1番の武器だからに決まってんじゃん」


わーお、突然の名言出たー。


「ぶ、武器っていうと……?」


 こいつなんか深いこと言ってるかも。

 俺はなぜか、少しヒロに期待を寄せた。


「そう、武器だ。だって想像してみろ。

 好きな人が笑顔だったら、それだけで少し、幸せになれるだろ?」


「あー、そう言う意味ね」


 意味が普通で安心した。


「あっ、そうそう。話は変わるけど、柚は好きな人っていないのか? あっ、ちょっと待って。やっぱ気になる人でいいや」


 うわー出たよ。

 中学の修学旅行でもあったなー。

まぁ、絶対回想しないけど。


「いないよ。いた事はあるけど」


「へぇ、やっぱいないんだ。おもんねぇやつ」


「別にいいよ。面白くなくても」


 それは自分でも思う。

 ただ、人生における面白みって、一体何だ?

 俺の人生はきっと、この答えを見つけることで、ようやく動き始めるんだと思う。


「いや、待てよ。なんか今ふと思ったんだけどさ……」


「ん?」


 何か嫌な予感がする。


「柚、隣のクラスの天乃川さんってどうなの? なんか仲良いみたいだし、いっそ付き合っちゃえば?」


 ほらやっぱりー。


「いやいや、俺なんか釣り合わないって。

 そこんとこ、ヒロなら分かるでしょ?」


「いーや、俺にはお似合いに見えるけど? あっ、でもそっか。もうすでに相手いたりしてな」


うーわ。長くなりそうだし面倒臭いし、早く話終わらせよ。


「まぁ、ヒロが言うなら相手いるんじゃない?」


 そう口にした次の瞬間。


「相手いないよ、私」


やけに耳馴染みのある声が、ドア付近から聞こえた。


「おやおや、屋上に人が来るなんて珍しいな……って、まさかのご本人登場!?」


 寝返りをうったヒロは、驚きを隠せないといった様子で目をぱちぱちさせる。

 噂をすればってやつの体現だな、これ。


「まさかとは思うけど、あゆも眠りに来たの?」


「ま、まぁ、そんなところかな……えへへ」


(いや絶対嘘じゃん! これ柚に会いに来ちゃってんじゃん!)


 ヒロは何か言いたそうにしていたが、必死に口を押さえ、自分と戦っているようだった。


「ふーん、あゆって独り身なんだー」


「それを言うなら《《柚も》》、だけどね」


「はっ? 俺独り身じゃないし」


「えっ……?」


(柚って、彼女、いるの……?)


「まぁ、嘘だけど」


「なっ……!?」


(いや嘘かーい)


「もう、びっくりしたじゃん」


(えっ、えっ、これで付き合ってないってマジ!? おかしくない!? ねぇ、おかしくない!? 言いたい! 今すぐ言いたい! あーもう言っちゃうか! 言ってやろうか! ああ?)


 とその時、放課の終わりを告げるチャイムが鳴った。


「あっ、もう時間?」


「あっ、結局寝れなかった」


「あっ、助かった」


 でもこれは次の授業、睡眠学習確定だな。


「じゃ、じゃあ、俺先行くから!」


「おう」


 そう言うと、ヒロは颯爽と階段を駆け下りていった。急ぎの用でもあったんだろうか。


「で結局、あゆは何しに来たの?」


「えっ、わ、私は……」


(やばっ、なんて誤魔化そう)


あれ、なんか困ってる?


「そ、そう、確認しに来ただけだよ」


「確認? なんの?」


 曖昧な記憶だが、室長の仕事の中に、屋上にいる生徒を見に来るという内容のものは無かったはず。


「そ、それは……浮気調査だよ! じゃあね!」


「・・・はっ? えっ?」


 意味の分からない言葉を残し、あゆもまた階段を駆け下りていった。


「浮気調査……? 意味わかんねぇ」


 ヒロといい、あゆといい、なぜこうも急いで階段を駆け下りていくのか。


「……あっ、授業だからか。やっべ」


 俺はあゆが嫌いだ。

 いつも顔を見せにきてくれる、そんなあゆが嫌いだ。

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