文化祭(7)
「ねぇ柚、この紙見て。どっからどう見ても白紙なんだけど」
「ん? 白紙の紙がどうかした?」
振り返った俺の視界に映るのは、紙の束と真剣に睨めっこしているあゆの姿。
まぁ、実際にはそう見えたってだけなんだけど、なんか聞きたくなっちゃったんだから仕方ないよね。
「どう? 勝てそう?」
「えっ、勝てそうってなに……!?」
ですよねー、普通そうなりますよねー。
すいませんでした。
「あーいや、気にしなくていいよ。こっちの話だから」
「こっちの話……? なるほど」
なぜか、あゆは大きく頷いた。
あれぇ、なんか納得されちゃった。
ま、まぁ、このままだとよく分からないことになりそうだから、とりあえず話を戻そう。
「ところでその紙、白紙なのは確かに気になるね」
「うん。私はてっきり謎解きが書かれてるんだと思ってたけど、白紙だし違うみたい」
少しの間頭を悩ませていると、ウトウト眠そうにしていた夏芽ちゃんが、突然ピシャッと目を見開いた。
「あーその紙ですね! その紙は、えーと、なんと言いますか、その紙はですねぇ……」
しかし、喋れば喋るほど語気が弱まっていく夏芽ちゃん。
その様子を見て、何となく分かった。
何か後ろめたいことがあるんだよね。
主にあの人のせいで。
「はいはーい、それについては私自ら解説しよう!」
あっ、主犯格が起きた。
目を開けたかと思えば、先輩は勢いよく身体を起こす。
「その紙はね、生徒たちに謎解きを作ってもらう用の紙だよ!」
「えっ、作ってもらう?」
「そう! で、それを私と夏芽で解くの!
ねぇー」
「えへへ、そういうことみたいです」
顔を見合わせ笑う2人。
正直、全く意味が分からない。
「えーと、すみません。1つ確認いいですか?」
「もっちろん! 何でも聞いてよ! なんたって私、部長だし!」
そう言うと、奥田先輩は立ち上がった。
「なら遠慮なく聞きますけど、謎解き部の出し物って、問題を作って解いてもらうっていうのが定石じゃないんですか?」
「のんのんのん、古い、古いよ後輩くん!
定石に囚われていては何も始まらないのだよー! それに、これはこれで意外性があって面白いと思わない!? ねっ?」
「まぁ」
確かに意外性はある。
というか、意外性の塊と言っていい出し物だと思う。
でも、絶対に面白くはない。
とまぁそれはさておき、やはり気になるのは入口の女湯暖簾だ。
まさかとは思うが、自分が寝たかったから人を寄せ付けない工夫をした、とか……まぁ、あんな先輩でも、流石にそこまではしないか。
そんなことを考えていると、突然夏芽ちゃんが口を開いた。
「あの、私の話を聞いてもらえますか?」
「ん? いきなりどうしたの?」
「うん、俺らでよければ全然聞くよ」
「ありがとうございます」
その表情は真剣そのもの。
間違いない、これは何か物凄い話が聞ける……ごくりっ。
「では話します」
彼女の覚悟を受け取った俺とあゆは、全神経を集中させ耳を傾けた。
「文化祭準備の日、私は先輩に言いました。
『いくつか問題を作りましょう』と。
でも先輩は、『えー、問題作なら作ってもいいよー』と、よく分からない発言を連発するばかりで、何もしようとしませんでした」
「ちょっ、ちょっと夏芽……?」
話を聞き、明らかに動揺する先輩。
うわぁ、口を滑らせる予感がプンプンと……。
「それに『防衛用だから』とか言って、Amasonで暖簾買ってましたし」
「夏芽……! そそそそそそそそそういう冗談はあまり人前で言うものではありませんよっ……!? ま、まま、まさか私が寝たかったから買ったとでも言いたいんですか……!?」
あはははは。これはもう確定だ。
「「へぇ、先輩がそんなことを」」
「こ、怖いよおふたりさん……」
無意識に動きがシンクロしていた。
それもそのはず、だって俺とあゆはこのだめ部長を……本気で睨まないといけないから。
「ちちち違うんだよ! 問題作っていうのは言葉の綾で、個性的な問題って意味だったの!」
「奥田先輩、もう帰ってください」
「奥田先輩、静かに寝てた方が学校のためかもしれないです」
「あっ、今のなんか萌えた。もう1回、もう1回だけ言って!?」
・・・えっ?
なんか先輩の様子といい発言といい、今の色々とおかしくない……?
萌えたってつまり、萌えたってことだよな。
何を思ったか1度まばたきしてみると、不思議なことに奥田先輩の目がハートに見える。
そしてそれは、何度目をこすっても変わらなかった。
「よしっ、怖いから逃げよう」
「ゆ、柚、外の屋台行こっ! やっぱこの先輩さんおかしいよ!」
「あっ、もう行っちゃうの? まぁいいや。
またいつでも来てねー!」
「はい、謎解き部一同お待ちしております!」
うん、二度と来ないと思うから大丈夫。
俺とあゆが資料室を出ると、2人も追って入口辺りまで出てきた。
あっ、もしかしてこれ、捨て台詞を吐くチャンスなのでは?
この時俺は、なぜかそう思った。
「あっ、そうそう。おふたりも楽しんでくださいね、睡眠祭」
「あの、うちの先輩がごめんなさい……」
「睡眠祭? なにそれ面白っ! まったねー!」
あー、だめだこりゃ。
その後、俺とあゆは振り返ることなく昇降口へと走った。
「はぁ、はぁ、とんだ災難だったね」
「ああ、普段部活に顔出さなくて正解だったかもな」
「うん、私も今はそう思う」
結局、変な先輩のせいで無駄に疲れてしまった気がする。
「あー、動いたらなんかお腹すいちゃった」
お腹に手を当てるあゆと、そんなあゆから目が離せなくなる俺。
すると直後、俺の口が勝手に動いた。
「屋台、俺奢るよ?」
「えっ、いいの!?」
「うん、好きなだけ食べていいよ」
「やったー!」
どうやら、あゆの魅力に俺の脳が負けたらしい。
でも、まぁいっか。
だって、嬉しそうなあゆの顔が見られたら、疲れなんて吹っ飛ぶだろうし。
あっでも、この場合はお金も飛ぶのか。
「やっぱ、お手柔らかにお願いします」
「よーし、心得た!」
あゆは胸に手を当てそう言うと、俺の手を取り、外へ駆け出して行った。




