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俺はこの幼なじみが嫌いだ  作者: 湯上湯冷
1年生編
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幼なじみ

「ふわぁ……」


 学生の憧れである窓際最後列──から、前へ4つ進んだ窓際最前列。


 そこが俺、神月柚(かみづきゆず)の席である。


 ちなみに、この柚という名前は、母親がつけてくれたらしい。その由来はシンプルで、俺が可愛くてしょうがなかったからだとか。まぁ、それでどうして柑橘系になるんだとは思うけど。


 ねっむ……。


 俺は、そんな自分の名前をとても気に入っている。


ただ、悩んでいた時期もあったわけで──

あれはそう、俺がまだ小学生になったばかりの頃。


『なんか柚って、女の子みたいな名前だな』


 クラスの男子が口にしたなんの悪気もない一言。

 そもそもあれは、俺の名前について言っていたのか、それすらも分からない。


 でも確かなのは、当時の俺に『女の子みたい』は結構効いたってこと。

 いや、正直めっちゃ効いた。


 あと15分……か。


 だからなのだろう。俺は中学生になってすぐ、自分に金髪という要素を付け加えた。

 ちょっとやりすぎな気もしたけど、現状を変えられるならって。


通っていた学校が自由を尊重する一貫校ということもあってか、親も学校も何も言わず、俺のしたいようにさせてくれた。


ほんと、感謝してもしきれないってやつだよ。


 それからというもの、名前でバカにされることはなくなり、毎日楽しく学校に通うことが出来た。まぁ、多少は目立ってたみたいだけど。


 ──あれ、ほんとに多少だったかな……いや、今考えても仕方ないよな。うん。


 そして、そんな俺は今年、高校生になった。

 たまにベビーフェイスと言われることはあるが、身長は170センチくらいまで伸びている。


 最近のマイブームは、長袖カッターシャツの袖をまくって着ることと、この席で気持ちよく眠ること。

 ハズレ席と言う割に日当たりがよく、心地よい睡眠へと誘ってくれるこいつに、絶賛片思い中である。

だがしかーし、授業はつまんない。


 基本、授業中は頬杖を付き、ずっと中庭を見ている。

 今受けている数学の授業なんかは特に。

 だって俺、数学苦手だし。


「はい、じゃあ今日はここまで。ちゃんと復習しといてくださいね」


「「「はーい」」」


 ようやく授業が終わり、2時間目の放課がやってきた。


 俺はこの10分間の放課が大好きだ。


 確かに短時間ではあるが、机に突っ伏して寝るのがまぁ気持ちいい。

 そんなわけで、授業が終わった開放感を全身に感じながら、俺は机に突っ伏した。


 やはり、とても心地よい。


「最っ高……」


 それから2分程で、寝る準備が整った。

 もういつでも夢の世界にいける。


 自分の中にあるスイッチがオフになると同時に、俺はゆっくりと目を閉じた。


 しかし次の瞬間、前の扉が騒がしく開き、誰かがこちらへ早足で向かってくる。


「柚、来たよ!」


 よく知る声が俺の名前を呼ぶ。

……あれ、なんか今呼ばれた気がする……。


 その声を聞いた瞬間、男子たち、いや全員の視線はその誰かに集まった。


「んん」


 窓側を向いていた俺は、顔の向きを廊下側へと変える。潰れる頬に机がひんやり気持ちいい。


「なーんだ、起きてるじゃん」


 薄っすら目を開けてみると、目の前に立っていたのは金髪ポニーテールの女子生徒だった。


 夢……?


 ブレザーが着てもらっているとさえ思えてくるその美しい生徒は、片手に毛布を持っている。


・・・ん? 毛布……?


「あっ、あゆか」


 俺は彼女をよく知っている。

 彼女の名前は天乃川(あまのがわ)あゆは。


 確か、『彼女を見た男子は必ず2度見してしまう』だっけ?

まぁとにかく、そんな噂が出るくらいの人気者である。俗にいう、学校のマドンナってやつだ。


 ただ残念なことに、俺はその感動を味わう事ができない。


 理由は簡単。

天乃川あゆは 改め"あゆ"は、俺の幼なじみだから。


 保育園で知り合ってから今に至るまで、俺の隣には決まってあゆがいた。

 当然、親同士も仲がいい。

 それこそ、親同士で旅行に行くくらいに。


「あ、あのっ……!」


「あゆちゃん、こっち見て……!」


「ん?」


「「うわぁぁぁぁぁぁ死ねるぅぅぅぅぅぅ!」」


 そんな俺とあゆの距離感は、付き合っているように見えるのだろう。


「2人って付き合ってるの?」


 もう聞き飽きた質問だ。

 そして、俺は決まってこう答える。


「そんなわけないだろ。あゆはただの幼なじみだよ」


 無論、あゆは超絶可愛い。

 でも、俺があゆに対して恋心を抱くことはない。


 だって、俺とあゆでは不釣り合いだから。


 あゆが今金髪なのは、俺を1人ぼっちにしないため。

 あゆが今毛布を持っているのは、この時間いつも寝ている俺に毛布をかけてあげるため。


 こんなに優しさと思いやりに溢れ、男子の憧れの的であるあゆと、幼なじみというだけの俺。その差は歴然だ。


 だから俺は決めた。


 あゆを嫌う。

 嫌ってさえしまえば、恋心を抱く可能性は限りなく0に近づくから。


「何しに来たの?」


「何って、毛布かけてあげようかなって」


この優しい笑顔が辛い。


「ふーん。別にこの席暖かいし、毛布とかいらないから。それで、他に用は?」


 自分でも分かる。

 俺のしていることは最低だ。


 でも、こうでもしないと、俺は不器用だから。


「うーん……特にないかも! じゃあ、私戻るね! ばいばい!」


 そう言うと、彼女は教室に戻っていく。

 それはもう、天使のように澄み切った笑顔で。


「あ、あゆちゃんまたね……!」


「あっ、ずるい! ま、またね……!」


「うん、またね!」


「「キャーーーーーーーー!」」


改めて思う。


「ほんとクズだな……俺」


 ギュッと心が締め付けられるように痛かった。


「おやおや、あの柚がねぇ。ふーん」


 でも、これが俺の選んだ道だから。

 不器用な俺でも進める、楽で最低な逃げ道だから。


 俺はこの幼なじみが嫌いだ。

 いつも俺の事を第1に考えてくれる、そんな幼なじみが嫌いだ。

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