第五十八話 初めての兄弟喧嘩
風が強くなり、辺りの草がユラユラと揺れている。
雨も降ってきた。
しばらくアーサーは来ないはずだ。獣王国の活躍でルークも足止めできているはず。
正直、ルークと戦うのは避けたい。
単純な理由だ。あいつは強い。正面から戦わず隙を狙わないと勝てない気がする。
「おや、もう終わりかな?」
突然後ろから声がした。情景反射で後ろに剣を振る。
しかし、そいつは軽く跳ね除け技を使うことなく俺を斬った。
「ぐっ、、お前、、、なんでここに!?」
目の前にいたのはつい先ほど見えないほど遠くに飛ばしたアーサーだった。
フラグは立てるものではないな、、。
「それより、君のお目当てが来たようだよ。」
まさか、災厄の結果を招いてしまうとはな。
「俺の誤算だったよ。」
ルークは息切れをしつつ、恐ろしい形相で俺を睨んでいる。
「ハァ、、お前は何をしたか分かっているのか?」
グランド・アースで城の兵諸共潰したことに怒っているのだろう。
「お前が偉そうにいう立場じゃねぇな。やられて黙ってるのは一番嫌いなんだよ。だから、戦い方はどうあれお前を殺したい。」
今更怒りが湧いてくる。ずっと無気力でいた俺の心にポッと火が付いたようだ。
「二体一でもいいかな?」
アーサーは申し訳なさそうに言うが、ここまでは一応想定内だ。
「いや、二体『三』の間違いだぜ。」
さっき聖魔王国を翻弄した技は『複製』の次の段階。
『自分の複製した能力の持ち主を召喚することができる。』
さっきは俺自身を複製した。
俺は右手を横に向けて発動する。
「模倣召喚」
俺の身体から出てきたのは人型の魔獣。レイヴン先生との特訓のおかげで俺の能力も次の段階へと上がった。
「来い、不明」
ウォォォォウッッ!
「な、なんだあの化け物は、、?」
実は俺もこいつについてはあまりよくわかっていない。ただ、こいつ能力はかなり強い。
魔人はアーサーの前に立つと彼と同じ構えをした。
「もしかして、僕の真似をしているのかい?」
「いや、こいつの能力は『ミラーリング』。相手の動き、技、能力以外ならなんでも真似ることができる。」
アーサーに飛び掛かる。
あっちは任せておいて、ルークの方は向き直す。
もう逃げられない。戦ってこいつを殺すしかない。
「複製人間はもう作れないのか。まさか、お前の剣技で俺に勝てると?」
「負け戦はしないんだよっ!」
落ちていた兵の槍を『ホーミング』を使いルークに連続で投げる。
「ちっ、、正々堂々と戦う気はないのか!?」
片手の剣で薙ぎ払い、距離を詰めてくる。
「西欧流 交叉する闘牛!!」
「居合の三式 翠嵐」
お互いの技が打ち消しあう。だが、誤差で打ち負けてしまいもっていた剣が飛んでいった。
「あっ!」
「そこだっ!」
ルークは体制を立て直し、詰めてくる。
『液体操作』で雨の剣を作ったがすぐに破壊され、俺は肩から腰までを斬られた。
「うがあっ、、」
まずい、次の攻撃が来る。
『複製』をうまく活用すれば剣技に補うことができる。
『錬金』で土から盾を作りルークの攻撃を防ぐ。
「なに!?」
次に『鎧着脱』で鎧のパーツを持ってきて『接続』を使い武器を持ってくる。
よし!なんとか持ち直した!
そして、居合流の型を構える。
ルークは必ず『アレ』を使ってくる。
予想通り俺の後ろから攻撃が来る。
そこだ!
『見切り』を使ってルークに一点突きをする。
居合の四式 虎突
ついにルークに攻撃が届いた瞬間だった。
『模倣』 『複製』の次の段階の能力。召喚魔法をベースとしている。能力は複製人間を出している間は、その能力は使えない。また、すでに故人となっている人物は召喚できない。