第五十三話 開戦準備
「君に会えて嬉しいよ。いくつになったんだい?」
「15歳ぐらいですかね。俺も会えて嬉しいです。」
ほんの少しだけ笑みが溢れる。しかし、レイヴン先生にこれまであった事を話す時には元の顔に戻っていた。
「なるほどね。大変な思いをしたようだ。それで、、聖魔王国にいる兄をどうするんだい?」
「、、兄ではありません。あいつを殺すことが目的ですので。」
「その後は?」
人を今から殺す、そう発言したら普通は止めるはずだ。でもレイヴン先生は淡々と話を聞いている。
「家族を探します。見つけたらあとは住める場所を探して。神を倒すとか言ってましたけどルークに負けてしまった時点でなんか、、見当違いなことをしている気がしてて。」
焚き火に枝を放り投げる。無心で語っていたためかこれが本心なんだなと感じた。
また、逃げることを決めてしまった。
レイヴン先生には反対される、しかし1人だろうが何年かけようが必ず目的を果たす。
「わかった、協力しよう。」
「、、え?」
「ほ、本当ですか?」
「だが、戦うわけでは無い。君の意見を尊重すると言っている。私もこの歳では戦えないからね。」
納得してもらえた事におかしいと思わなければならないのに何故か喜びを感じた。
「獣王国の知り合いに声をかけてみよう。あとは君次第だ。特訓もつけてやるぞ。」
「っ、、ありがとうございます。」
レイヴンは俺の元へ歩み寄り、手を取った。
「だが、判断は誤るなよ?」
何かに刺された感覚がした。
「言葉や行動は取り返せない。それも一つの道だからだ。人生の道は違うルートに変更はできない。君はその道を進むのか、ということだ。」
寝床についたが、何故かレイヴン先生の言葉が頭をグルグルと回る。
次の日の朝、ポートアイランドから出発し船で3時間ほど行くと獣王国に着いた。
船着場には、看板が建ててあった。
人間立ち入り禁止
「いいんですか?本当に。」
「私に任せなさい。」
大きな鉄の扉の前に立つと案の定、犬型の獣人の兵が100人ほど出て来て俺たちを取り囲んだ。
情景反射で剣を抜こうとしたが、レイヴン先生は俺の手を止めた。
「私が分からないのかね?この無礼が獣王に知られるとまずいのでは無いか?」
すると、兵隊長の1人が何かを感じ取ったのか急いで中に入るよう促した。
周りの兵も青ざめている。
レイヴン先生は何者なんだ?
獣王国 サンデルマ城 玉座の間
玉座には片目に傷があり、大きな体と立て髪を持つライオン型の獣人が座っていた。
「久しいなレイヴン。随分と老けたものだ。先ほどは部下の非礼を許して欲しい。」
「水臭いな。軽く話そうでは無いか。まぁ、今回用があるのは私では無く、この子だ。」
俺は一歩前に出る。
凄い、獣王と呼ばれるだけはある。雰囲気だけでも伝わってくるがかなりの強者だ。
「ふむ、主が世界の異端者、アレクか。」
世界の異端者、、ね。何を言われてもいいが。
「なぜ、俺の名を?」
「ふはははっ、、礼儀を知らんようだがまぁいい。聖魔王国から連絡があってな。まだ生きているかもしれないので見つけたら身柄を引き渡すようにと。」
ちっ、、やっぱあいつらか。となると、、
「すまんなレイヴン、君の弟子だとしても今と昔は違う。立場があるのだ。」
周りに兵が集まってくる。やる気満々のようだ。
「来いよ、振り返ってくる火の粉は払うだけだ。」
ワァーッッッ!!
数百人の兵士が一斉に飛びかかってくる。
ピチョ、、ピチョン、、
赤い血溜まりが出来てしまった。さっきまで騒がしかった玉座の間も今は静まり返っている。
「、、次はあんたか?」
王に剣を向ける。
「ほう、まさか全て倒すとはな。」
獣王は口をポリポリとかき、立ち上がった。
「気に入った!貴様の要望を一つ手助けしてやろう。」
俺を試していたのか。まぁ、全員は死んでないはずだから今から治癒をすれば間に合うんじゃ無いかな。
「聖魔王国と戦争を起こす。獣王国には支援をしてもらいたい。」
「覚悟はあるようだな。しかし、まだ心が揺らいでいるな。」
まただ。この感覚。
自分は間違っていない。復讐を終わらせるにはもうこれしか無い。
「、、、いや、大丈夫だ。俺はもう戻る気は無い。」
ポートアイランド付近の酒場にて
「グッンッ、、プハー。やっぱり酒は美味い!禁酒していた時もあったけど自由っていいなぁ〜。」
狐の面を被った男が昼間から酒場のカウンターで飲んでいる。
そこに、1人の少女が来店してきた。
「いらっしゃい。おや?1人で来たのかい?」
店主のおっさんが不思議そうに聞いている。
「ある人を探してるのよ。」
この声、、そうか。
「もしかして、お嬢ちゃんが探してるのはアレクっていう奴じゃねぇか?」
「!。知ってるの!?どこ!教えて!」
うおー、グイグイ来るなぁ。久しぶりに女の子と喋るから少し口がモゴモゴするぜ。
「まぁ待て。外で話そう。」
店から少し歩いて森の中に入った?
「レナ、、ちゃんだっけ?アレクから聞いてるよ。」
「んで?どこよ。嘘だったら容赦しないわよ?」
「おい!待て待て。アレクはもうお前と会う気は無いらしい。無理に行っても危険な目に遭うだけだ。」
すると、彼女は悲しそうなら声で俺に言ってきた。
「あいつを、、彼を止めないと。何か取り返しのつかないことをしようとしてる、、。もう本当に戻ってくる気が無いかもしれない。だから!そうなる前に!」
勢いに押された。でも、アレクの今からやろうとしていることの前で彼女は邪魔になる。合わせてはいけない。絶対に。
「なら、俺を倒してみろよ。できたら居場所を教えてやる。」
「上等よ。そのほうが早いわ!」
これで、今覚醒してるかどうかわかるな、、。
聖魔王国大戦開始まであと2日。