第五十二話 謎の男
ゴロッ、、ゴロゴロ、、、
空は雲に覆われていてどこからか雷鳴が聞こえてくる。
今はまだ昼というのにあたりは暗い。
ポートアイランドの聞き込みの最中に聞いた「白髪の老人が居た」という情報をたよりに酒場に来ていた。
「いらっしゃい!こちらへどうぞ!」
赤髪て白いバンダナを巻いた明るいお姉さんが俺をカウンターの席へと誘う。
静かにカウンターの机に手を置き、「白髪の老人を見ていないか?」と尋ねる。
この世界で老人というのは珍しい。
この世界に医学は余り進歩しているわけではなく治癒師や魔法使いが回復魔法をかけるくらいだ。
なので、病気にかかれば治せるというわけではない。
このワードを出せば見つかると思っていたが、店主のおっさんも知らないと答えた。
仕方が無いから、何か頼もうと思い酒を注文しようとした時、右の方から酒の瓶とグラスが流れてきた。
ふと目をやると、茶色のローブを着て顔には黒い狐の面をつけた男がこちらを見ていた。
「俺からの奢りだ。悪いな兄ちゃん、話を盗み聞きしちまった。そのじぃさん、俺は知ってるぜ。」
首の後ろを手で擦りながらもう片方の手をヒラヒラとさせている。
「、、、教えてくれ。」
「任セロリっ!」
店を出た後、街から離れた森を2人で歩く。
「兄ちゃん、『アレク』って名前だろ?お尋ね者のくせにフラフラ出歩いて大丈夫かね?」
「、、心配ない。それより、俺のことを知っているならなぜ聖魔王国に通報しなかった?」
男は立ち止まり、俺の方へ向く。
「そりゃ〜、悩んでる男をほっとくわけにはいかないわな〜。あんたは何か凄いことを成し遂げようとしている。それも15歳の年齢でよく頑張るなぁ。」
ペラペラとよく喋るな。ただの酒飲みだったか?
「ほら、着いたぜ。」
急に男が足を止めたため、少し驚いてしまった。
顔を上げると誰かの焚き火の跡がある。
「ここで待っておけば多分来る、、いや絶対、、そのうち、、。」
曖昧な回答だが、確かに魔物が多い森で焚き火ができるほど余裕なのはあの人ぐらいだ。
炎魔法で火をつけ、焚き火を見つめる。
パチンッ、、パチパチ、、
ゆらゆらと燃えている炎を見ているとレナ達のことを思い出す。
しかし男は沈黙を破って驚きの発言をしてきた。
「なぁ、、兄ちゃん復讐しようとしてるのか?」
予想外の質問に思わず「なっ、、」と声が出てしまう。
「何故、、そうだと思う?」
「勘だよ。俺も今大きなことを成し遂げようとしている最中でさ、迷っているお前を見ると何だかわかっちまった。」
同志がいるとわかり、俺はこれまでの冒険の話をスラスラと伝えた。
彼はふむふむと聞いてくれて、同情もしてくれた。
一年ぶりに心が温かくなった気がする。
「おお、、そうかそうか。俺は兄ちゃんのやる事を応援するぜ!」
持ってきた酒を交わし、彼は去っていった。
一応、気配を消す能力を持っているかもしれないので『複製』をしてみたが手応えがあまり無かった。
その時、森の方からパキッと枝が折れる音がした。
魔物かと思い、剣を取り出す。
しかし、魔力で分かった。徐々に焚き火の灯りで顔が見えてくる。
白髪で青い瞳を持った老人。
立っていたのは探していたレイヴン先生だった。
「やぁ、アレク。久しぶりだね。」