第二十六話 人生を捧げた者からの依頼
あの一件のあと、俺はウェルアと共に町に出て聞き込みをしていた。
ジース陣営とは和解という形で争いは終了した。
そしてお互い協力して地下から出る方法を探すということになった。
「いや、知らないねぇ。」
やはり町の人は誰も知らない。
「やっぱりそんな都合のいい方法は無いのかなぁ、、」
「なら、私のドリル魔法で穴を掘って出るのはどうかしら?」
何年かかるんだよ、、
だが、最後に尋ねた町長の家で進展があった。
町外れに住んでいるキルスという男が地下から出る方法を見つけたらしいのだ。
しかし、噂ではそいつは有名なホラ吹き。別の言い方をすれば嘘つき。
しばらく歩いていると、小さくボロい家に着いた。
「すいませーん、キルスさんはいますかー。」
すると中からゴホゴホと咳き込む声が聞こえてきた。
「ゴホッ、、はい、なんの御用かな?」
「俺はアレクっていいます。こっちは仲間のウェルア。俺たち、、」
言いかけているところでキルスは俺の肩に飛びかかってきた。
「お前!俺の代わりに陣営を引き継いでジースを倒してくれた冒険者か!?」
「えぇまぁ、、あれ、俺の代わりにってことは。」
「あぁ、俺の名前はキルス・メリアス。レナの父親でモグラ陣営の代表だ。」
「何でこんなところにいるのよ!」
後ろから大きな声が飛び込んできた。
ウェルアが本気で怒っていたのだ。
「父親なら家族を守るためにそばにいるべきじゃないの!?妻や娘を置いて1人で出て行くような奴は父親失格よ!」
ウェルアの両親は最後まで寄り添ってくれていた。
この世界では金に困ると子供を売りに出したら置いて行ったりするのはよくあることだ。
だからこそ、ウェルアはキルスの行動に腹を立てているのだ。
「すまない、私もゴホッ、あの2人や陣営のみんなを置いて行ったことは悪いと思っている。ただ、私はあの馬鹿げた争いを地下から出る方法を見つけて止めようと思ったんだ。」
「だからって、、」
「それに、私の体を見てわかる通り病気にかかってしまったんだ。これは呼吸の病気でね、治癒魔法でも治らないんだ。」
その後もウェルアが納得する説明をしてくれた。
陣営争いには負けると悟ったキルスは1人で埃まみれの資料室で過去の記録を探し、地下から出る方法を探し出した。しかし、肺炎のようなものにかかってしまい家族に合わせる顔も無くなってしまった。
「これでわかってもらえたかな?」
俺たちは無言で頷く。ウェルアもわかったようだ。
キルスの命は長くは持たない。
家族に知られるのも辛いだろう。
「それでは、ゴホッゴホ、、君たちに私が見つけた全てを教える、、、」
「というので以上だ。あとは君が作戦を立てて酒場で人を集めて実行してみてくれ。」
その後、キルスはいきなり倒れてしまい過呼吸に陥った。
俺とウェルアは治癒魔法をかけて少しでも楽にしている。
「ごめんなさい、キルスさん。私、貴方のことを全くわかってなかったのに偉そうな態度を取ってしまった。」
「ゴホッ、君が悪いんじゃない。私も置いて行ったことは事実だからね。ぐっ、、最後にアレク君と少し話しておきたいんだ。」
ウェルアは泣くのを堪えながら家から出て行く。
「陣営争いについては本当にありがとう。感謝しても仕切れない、、最後に君が冒険者ということで依頼を出してもいいかな?」
「あぁ、依頼料は地下から出る方法でいいよ。」
「ありゴホッがとう、、レナは、、私の子供ではないんだ。」
唐突に驚きの事実を告げられた。
「だけど、、あの子をゴホッ、、娘と思い、育てたなら、最後に、、責任を取りたい、、」
俺の手を弱々しくも力強く握ってきた。
「あの子を、、頼む、、。」
「その依頼、引き受けた。」
そうして辺りは静かになった。
キルス・メリアス 無能力