転生男爵、領地開発RTAに敗北す 〜ゲームと仕様が違うのは聞いてない〜
最近出たばかりのあるシミュレーションゲームに結構ハマって勢いで書いたので初投稿です。
俺は絶望した。この見るからに荒れ果てた土地を前に、たった今さっきまではまあまあ楽天的だった。こういう時はやりなおし一択なのだ。
だが、なんか変だな。どこにもQuit gameのボタンがないが? データセーブもないし。そのことに俺は気づいた。正確に言えば、気づかないふりをしていた。
「え? 領地リセマラできんとかマジ? 終わったじゃん」
「何ワケわからんこと言ってんです、閣下。いつものことですけど」
隣では呆れ返った様子の若い男。叩き上げの傭兵時代から頼れるヤツだが、今はそんな塩対応が目にしみる。
まあそれもそうだろう。目の前に地面へと四つん這いになり、くずおれてしょげている上司がいたらそうなる。俺だってそうなる。
ああ、そんな薄情なヤツ以外にも、俺を見て不安そうにしている人影がいる。具体的には20人くらい。
「おい、その閣下ての、やめろよ。なんだかみじめになるだろ」
「どこからどう見ても、ご立派な武功を挙げて辺境鎮護と新領開拓を任された、ご立派な男爵閣下でございますよ」
「だまらっしゃい! 何度もご立派いうな、余計に虚しくなるわ!」
ぴしゃりと言い放ち、俺はいい加減に立ち上がった。そして所在なさげに野営テントの周囲で立っている20人の前へと向かう。
やはり不安そうだ。いや、そらそうだろな、としか言えない。
半年前、ウチの王国がやってた、結構長きにわたる戦争が終わった。そうして平和が訪れたわけだが、彼らは帰る場所を得られなかった。彼らは戦争で焼けた村々の難民である。
そんな中、こんなクソ怪しい成り上がり男爵と一緒に、辺境も辺境のど辺境へ、馬車一台とともに追いやられた。難民だからこそと言ってもいいかもしれない。そりゃ不安にもなる。
だから、俺はその不安を取り去ってやらなければならない。なぜなら俺が、俺こそがーー。
「諸君! 俺がホッペタグルグル男爵領を拝領した、エーリッヒ・クルップ・フォン・ホッペタグルグルである!」
「閣下、ホッペガルテンです」
……。
「エーリッヒ・クルップ・フォン・ホッペガルテンである! 諸君の命はこの俺が預かった、この手に全てかかっていると言っていい! さあ、四の五の言わずについてこい!」
「閣下、あなたのそのツラで言うと誘拐か脅迫にしか聞こえません。後の仕事がやりにくくなるのでやめてもらっていいですか」
……。
不安を取り去ってやらねばならない!!
◇◇◇◇◇
なんか変だな。そう思ったのはいつ頃だったろう。多分10歳行ってない頃合いだとは思う。
自分で言うのもアレだが、まあまあ賢い子供だったと思う。賢いというか、さかしらというべきか。大人並みに知恵が回って、要領のいい、いけすかないガキだった。
けれどある時ふと思ったんだ。気づいた、あるいは思い出したと言ってもいい。
「アレ? なんか目閉じてムムッて念じたら、俺の視点高くなるんだが? てか、資源のアイコンとか見えんだけど。なんか見覚えのあるUIだし。ん……? UI……? ……ア!」
こうして、俺は前世の記憶を手に入れた。しかも神の視点と言ってもいい、資源の場所がわかる見下ろしカメラ付きである。
何より最高だったのが、前世で死ぬほどやったシミュレーションゲームと色々そっくりなのである。
新米男爵となってちっぽけな開拓地を作り、時に襲いくる蛮族どもから村を守り、領内物資の流通を管理して町を育て、多くの領民を擁する大都市で兵を養い、隣領へと繰り出し新たな領地を手に入れる。まさしく永遠に遊べるタイプの神ゲーだった。
そんなわけで、資源アイコンの感じとか、見下ろしカメラの挙動とか。この俺が見間違えるはずがないのだ。ン百時間プレイして、実績も全解除し、縛りRTAをしていたほどなのだから。
ちなみにゲームの記憶ばかりあるが、前世終了の記憶はない。代わりに死ぬほどエナジードリンクと酒を飲んでいた記憶はある。ん……? もしかして……?
そんな気づいてはいけない感じのものはさておき、じゃあこの力と知識のおかげで GG EZなのかというと、そういうわけにはいかないのが世の厳しさである。
「つっても、資源の場所がわかってもなあ。別に俺のもんじゃないし。こないだ入会地で勝手にウサギ捕まえてぶっ殺されかけたし……」
当時の俺は齢10くらいのヒョロガリ村人Aである。間違っても新米男爵には程遠い。家も中産階級とはとても言えない小作農、しかも四男なのでスペアのスペアですらない。家族仲は良かったのが救いだ。
このままではこの力をまともに使いこなすことなく、一生を終えるだろう。それはちょっとイヤである。というわけで。
「じゃ、男爵になるか!」
男爵になることにした。がんばった。いっぱい褒められた。なのでもっとがんばった。めっちゃ褒められた。そして男爵になった。
それで、隣国よりぶんどった辺境地帯の一つ、うちの王国での名称でホッペガルテン男爵領と名付けられた土地をもらったのがほんの半月前。初期開拓民という名目でいくらかの難民を押し付けられ、馬車と一緒にひーこら言いながらやってきたのがついさっき、というわけだ。
めでたし、めでたし。
◇◇◇◇◇
「めでたし、めでたし、で済んでりゃどれほど良かったか……」
決起の挨拶を終えて小一時間。ほんのりぼやきながら、俺は馬車の中から開拓用の道具を取り出す領民たちを見ていた。彼らと共に、とにもかくにも生き残らねばならない。だが俺には勝算があった。
あの神ゲーのRTA走者だったこの俺が、10年足らずで一万人都市へと育て上げることなど朝飯前だったこの俺がいるのだ。多少条件が悪かろうがなんとでもなるわいガハハ。そんな勝算がたしかにあったのだ。
この終わった土地を見るまでは。
「見間違え、だったらいいなあ」
ゆっくりと目を閉じて、そっと念じる。前頭葉のあたりに力を持っていく感じで、ムムム。そうするとほんのり見えてくる、このホッペガルテン男爵領の景色。
俯瞰視点で俺はざっと周囲を見渡した。いくつも見える、資源のアイコン。それから土地情報が色分けされたレイヤー。それらを一通り見ていって。
「すげえや、森が狭すぎて獣も全然いないし、野生の木の実も全然ない。50人も養えないんじゃねえか? ここは都市内公園か何かか? うわあ、たまげたなあ。なんだこの肥沃度。ほぼ真っ赤じゃないか。あっ、あそこはギリギリ小麦が育ちそうだな。広さは……だいたい0.1モルゲン! かわいいね、家庭菜園かな? うーん、粘土と石は豊富で嬉しいね。でも今じゃないよね。鉄は? 鉄はどこ? 他の鉱脈は? 金銀なんて言わないからさ……ほら……銅とか……錫とか……あるじゃん……大理石とかもないの……? なんか売って暮らすのも無理じゃんね……」
見えるのは、絶望。ただただ、絶望。必要な資源がなんもない。だから俺は叫んだ。心の底から、叫んだ。
「神様、頼むゥーッ! リセマラを、リセマラをさせてくれェーッ! 豊富な鉄資源か木の実さえあればなんとでもなるんだよォーッ!」
「うるさいですよ、閣下! そんな元気があるなら丸太の一本や二本、運んできてくださいよ!」
「すまーん、許せ、ハインツ!」
情けない領主の声が響く。それを聞く領民たちは心の中で思った。いくらなんでも、人選が酷すぎるんじゃないか、と。別の男爵について行きたかったな、と。
ーーこれはそんな、領地開拓RTAに初手で敗北した、とある転生男爵の物語である。
続きは考えてないので短編です。
シミュレーションゲーム 時間が溶けて たのしい