第参話 Tension~~緊張~~
大エルトリア帝国宇宙軍第三艦隊・旗艦コンキスタドール艦内
「ここが地球か…。我等、ヒューマンの母なる星…。全宇宙の始まりの星…。約束の地…。色々と名がついたものだな。だが、この星もわが国のものとなる日が来た…。この星をわが国の勢力圏下に置けば、皇国への侵攻がし易くなり、戦略上も要衝となろう。それよりも地球を支配すれば、全宇宙においてわが国の権威は一層強まるものとなるだろう。」
第三艦隊提督ヘンデル・エル・ヨハネスブルク大将は、艦橋から大型モニターに映しだされた地球を見ながらつぶやいた。
「だが、簡単にいきますでしょうか?地球側のあの自信。侮れないものの存在を感じてならないのですが…。」
副官のクラウス・ミュラー大佐が上官の後ろに共に立ち、地球を見ながら言った。
「考えすぎだ、クラウス。たかが未開惑星に何ができる?星一つも統一できない生き物に恐れることはない。我々は、ただ、やつらに銃を突きつけていればいい。そうすれば、おのずと奴等の方から音を上げてくるわ。大体、こんな低文明の政府に特別大使など送る必要など無いではないか!本国は何を考えている!」
最初は冷静に話していたヘンデル大将だが、次第に苛立ち始めていた。何故なら、彼は帝国きっての差別思想・自民族中心思想家であったからだ。第一、彼は自分が何故こんな役回りなのかにとても不満を持っていた。
「(はぁ、また始まった…だが、本当に大丈夫なのだろうか…。)」
クラウスは心の中で呟いていた…。だが、その予感が的中することになるとは、ヘンデルやクラウス本人を初め、従軍した帝国軍の軍人達は夢にも思っていなかった。
その頃地球では、国連と各国との連携により、地球外知的生命体の飛来情報や今後の方針、情報統制などが迅速に行われていた。その結果、各国の国民の大部分はこの情報がもたらされることなく、通常通りの生活を送っていた。例外を除いては…。
「ちっ、エルトリアめ、とうとう動きだしたか…。」
学校のトイレでその情報を確認した常陸は、今後の対応を考えていた。
「このままでは、地球がエルトリアの勢力圏の飲み込まれ、皇国の重大な脅威となるのは明らかだ…。さて、地球人たちはどう出るか…。」
「おーい!常陸!いつまで小便してんだよ~。雨宮のやつどうにかしてくれ!イライラして勉強どころの騒ぎじゃない!」
苛立ちながら、大上がトイレに入ってきた。きっと、また喧嘩したのだろう。
「また喧嘩?本当に仲がいいんだね?w」
常陸は洗い終えた手をハンカチで拭きながら苦笑しながら言った。
「仲良くなんかねえよ!ったく、何かといえば嫌味しか言わないんだぜ、あいつは。中学から一向に変わんねえ。」
ぶつぶつと溢れんばかりに今までの経緯を話し始めたので、常陸は話題を変えた。
「そういえば、さっきの数学の問題は?できた?」
「いや、まだです…。助けてくださいまし~!!」
大上が常陸に抱きつきながら、必死にお願いしている。きっと、相当分からないのであろう。
「わかったから離せって、じゃあ教室に戻ろうか。」
「(無邪気なものだな、自分たち地球人に危機が迫っているというのに)」
常陸は心の中で一人呟いていた。
そして、「大崩壊」へのカウントダウンが始まった…。