第弐拾壱話 interception ~~国境宙域~~
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「本艦隊左舷前方!未確認機を帝国軍と断定!レクルス数350!本艦隊に急速接近!敵機は可変機型と思われます!」
「可変型だと!?わが国以外でなぜその技術を!?」
「おそらく、ガイアでの情報処理が失敗したのだろう。奴等め、それも計算のうちで。」
井上大佐が言った。
「我が方のレクルスの対処可能時間は?」
橘少佐が言った。
「敵機の速度が速すぎます!対処時間はおよそ1分!」
「目標尚も接近!距離35000!」
「レクルス隊敵機対処開始しました!」
「戦闘宙域より敵機突貫してきます!」
オペレーターが振り返っていった。
「くっ!全艦、対空墳進弾発射!」
常陸がオペレーターに対して言った。
「「「全艦、対空墳進弾発射!」」」
オペレーターが復唱して、全艦に指令が出された。
第弐宇宙艦隊の全戦闘艦から対空ミサイルが発射された。
その放たれたミサイルが弾道を描きながら、まっすぐ突撃してくる新型敵レクルスに目標を定め、迎撃に向かう。
「敵レクルス!本艦隊に向け墳進弾発射!数、300!!」
「っ!?敵墳進弾解析完了!マークⅡ型DⅡ墳進弾を確認!!」
オペレーターが振り返って言った。
このDⅡミサイルは帝国軍が対皇国軍艦船用に開発した特殊兵器であり、皇国軍艦船の特徴であるバリアブルフィールドシステムに対して、強制的に干渉することにより、フィールドシステムに重大な障害を与える能力を有している。
この帝国軍の新兵器により、火力よりも防御力に重きを置いている皇国軍はフィールドを安易に突破されるようになり、帝国軍に苦戦を強いられた。
それに対抗して、皇国軍はレクルスを艦艇に大量に配備し、新型兵器である対レクルス用広域拡墳進弾“カスタムザー”を開発、実践配備し、敵機にDⅡミサイルを発射される前に撃墜する戦略を採用しているが、友軍機が展開している場合、友軍機にも被害が及ぶ場合があり、使用が制限されることが多く、有効な対抗手段とはなっていない。
「墳進弾接近!!距離12000!」
「全艦!対空砲撃戦始め!!」
「「「全艦!対空砲撃戦始め、対空砲撃戦始め」」」
「艦隊、隊列乱れているぞ!各艦との距離を確認しつつ応戦せよ!」
「続いて、妨害電波弾射出!」
常陸が艦橋で指示を出し、一糸乱れず艦隊が特殊兵器を迎撃している。
「ダメです!敵墳進弾、対処仕切れません!」
「艦隊左翼に直撃します!」
オペレーター達が水晶機構を見ながら言った。
「くそ!まだ、セルベリア艦隊の補給は終わらないのか!?」
橘少佐が言った。
「すでにセルベリア艦隊も戦闘可能艦が後方に出現した艦隊の対処するために発進しています。補給は完了後、補給艦が戦闘宙域より護衛艦隊を伴い離脱中です。」
「何としてでも打ち落とせ!左舷に砲火を集中!レクルスの対処はレクルスに任せろ!」
常陸が艦橋で怒鳴った。
艦隊の至近距離でミサイルが次々と打ち落とされていくが、その弾幕を掻い潜り、DⅡミサイルが接近してくる。
「敵墳進弾、残数15まで減少!」
「艦隊至近距離です!迎撃間に合いません!!」
「着弾まで約5秒!」
そして、ついに帝国軍から放たれた特殊兵器が艦隊左舷に直撃した。
ミサイルが直撃し、艦船のフィールドが緑色に光った。
「艦隊左翼、被害多数!成城、高山、金剛のフィールドシステム低下!」
「夕月、夜月にもシステム障害発生!艦隊左翼を中心にその他被害艦多数!」
「衝撃波、本艦に到達します!」
オペレーター達が言った。
「各員、衝撃に備えよ!」
白鷺艦長の九条大佐が言った。
その数秒後、艦全体に強い衝撃が襲った。
「くっ、被害報告!」
「フィールド出力15%低下!ですが、装甲、各種火器に異常なし!」
「艦体航行に支障なし!」
オペレーターが言った。
「本艦体左舷上空より敵機!先の爆撃隊と思われます!」
「対空砲撃!打ち落とせ!!」
九条大佐が言った。
旗艦白鷺を中心に、一斉に対空砲火が敵機に浴びせられる。
その対空砲火に撃墜される機が殆どだが、決死の覚悟で突撃してくる帝国軍機を徹底排除にはいたらなかった。
「敵レクルス群、墳進弾発射!直撃コースです!」
「迎撃しろ!墳進弾発射管、25番から68番!参号式装填!」
九条大佐が戦闘指揮を執りながら言った。
「迎撃墳進弾装填!目標、左舷上空敵レクルス群!!」
「参号式、てぇぇ!!」
ミサイル発射管から勢い良く対宙ミサイル“参号式”が発射された。
他の艦艇も迎撃ミサイルを発射し、フィールドを損傷した艦の退避と援護を行っている。
「セルベリア艦隊!エルトリア機動艦隊と戦闘状態に入りました!」
「エルトリア艦隊、準アイリス級戦艦を盾に進撃してきます!数、500!セルベリア艦隊に向け前進してきます!」
「準級相手ならセルベリアも遅れは取るまい!相手は軽戦艦だ!後方の艦隊はセルベリアに任せる!本艦隊は左舷から飛来するレクルス群の対処に専念!」
常陸が言った。
「くそ、こんなにレクルスをどこから。もう、敵機の数は1000をとうに超えている。」
橘少佐が言った。
「別働隊がいるはずだ、そこを叩ければ。」
井上大佐が言った。
「敵機、本艦に急速接近!本艦直上!」
「墳進弾発射!数、45!」
「対空迎撃!打ち落とせ!」
近接防御速射砲と副砲が上空の敵機に向け、他の艦船に当たらぬよう砲火を浴びせている。
「ドォォォォンン!」
「ドォォォォンン!」
「ドォォォォンン!」
「「「うわぁぁ!」」」
「墳進弾直撃!フィールドの薄い部分を狙われました!」
「右舷第一装甲板被弾!損害軽微!」
「敵機の狙いは本艦だ!弾幕を密に!」
「艦隊密集体系を維持!」
白鷺艦橋で戦闘指揮が行われている。
その時、前方宙域に不審な動きを水晶機構が探知した。
「指令!前方の索敵機より入電!本艦隊前方に帝国軍の大艦隊を確認!距離、100000!」
「何!?」
常陸が水晶機構が映し出す前方の宙域を見た。
「くそ、網を張っていたな。全艦、主砲雷撃戦闘用意!」
常陸が言った。
「「「了解。旗艦より全艦隊へ。全艦、主砲雷撃戦闘用意!全艦、主砲雷撃戦闘用意!」」」
神聖扶桑皇国宇宙軍第弐宇宙艦隊の主力艦1000隻が一斉に主砲を展開し、前方から接近してくる大エルトリア帝国宇宙軍艦隊に対し、迎撃体制に入った。
その間にも、敵レクルスの襲撃は続く。
「全攻撃隊発進開始!目標、前方敵艦隊!」
常陸がレクルス管制官たちに言った。
「了解!全レクルス攻撃隊発進開始!艦隊防衛隊は、攻撃隊発進ののち発進し、左舷の敵機対処中の友軍機を援護せよ。」
「全艦、敵艦隊迎撃体制に移行中。横一列三段陣形へ。」
「敵艦隊、水晶機構に反応!艦数、1800!艦隊中心に超弩級戦艦群の反応確認!これは、ガレウス級戦闘母艦と思われます!」
「なっ!ガレウス級だと!?ガレウス級はアーネンベルグ戦線方面に展開しているはず。なぜ、このような場所に。」
九条大佐が言った。
「ガレウス級は大量のレクルスを搭載できると聞くが、あんな遠距離からレクルスによる爆撃は無理だ。どこかに、もう一隻いるはずだ!左舷方面にもう一隻いるぞ!」
常陸が言った。
「偵察機からの連絡はまだなのか!?」
橘少佐が言った。
「依然発見情報はありません!すでに偵察隊の2割が戦闘で壊滅!」
「敵レクルス群、当方レクルス部隊に押し戻されつつあります!」
「前方敵艦隊、本艦隊に接近!距離85000!」
「当方、第一次攻撃隊全機発進完了!」
「敵レクルス反応確認、数1500!」
オペレーターたちが言った。
「艦隊防衛隊全機発進させよ、艦隊の防衛を確実にするんだ。」
井上大佐が言った。
「了解。艦隊防衛隊発進開始。相沢隊、発進開始。続いて、結城隊発進開始!」
「了解。結城隊開始!」
隊長機が白鷺から勢い良く発進した。
「田上少尉、お先に発進しますね。」
大上准尉がレクルスの回線を使って、田上少尉に言った。
「了解しました。すぐに出て落とされることは無しにしてくださいよ?」
田上少尉が言った。
「わかってますよ。それでは。」
と言うと、大上機がカタパルトデッキへの移動が完了した。
「大上機、カタパルトデッキ移動完了。発進準備良し。発進、どうぞ!」
レクルス管制官の声が響く。
「了解!大上大樹、レクルスX、発進します!」
「ギュィィィィィンン!」という音とともに勢い良く大上機が発進した。
「続いて田上機、発進、どうぞ!」
「了解!田上優、村雨発進します!」
田上機も同様に勢い良く白鷺を後にした。
すぐに、小隊長の無線が入る。
「まもなく、第一次攻撃隊が敵機と交戦に入る。大部分は惹きつけてくれると思うが、敵機が艦隊に接近する可能性がある。その前に左舷の敵機を押し戻すぞ!小隊各機、続け!!」
結城隊長が言った。
「「「「「「「了解!!!」」」」」」」
結城小隊が編隊を組んで、左舷敵機対処の援護に向かった。
「敵艦隊、距離55000!」
「まもなく、第一次、第二次攻撃隊と敵編隊が衝突します!」
「全艦隊に向け、回線を開け!」
常陸が言った。
「了解。回線開きます。」
「全神聖扶桑皇国宇宙軍第弐宇宙艦隊の諸君。私は、第弐宇宙艦隊司令長官、常陸・暁守・仁矢だ。これより、本艦隊は前方のエルトリア帝国軍艦隊と戦闘を開始する。すでに、左翼には、敵機動艦隊が展開しているものと思われ、後方は別働隊により完全に押さえられている。セルベリア艦隊からの援助も無い。友軍援護の無い初めての大規模艦隊戦であり、厳しい戦いになるとは思うが、皇国本土では、エルトリア帝国軍の猛攻が続いており、既に渡聖回廊にまで帝国軍が侵攻している。祖国が援軍を、いや、我々の到着を待っているのだ。我々はここで立ち止まる訳にはいかない!たとえここで我らが敗れようとも、一隻でも、いや一機でも多く敵を撃破し、神聖扶桑皇国宇宙軍の力を帝国軍に教えてやろうではないか!」
白鷺艦橋で演説している常陸の顔がモニターを通して全軍に映った。
『おおおぉぉぉ!!』
演説を聞いていた全艦隊の軍人たちが言った。その数は数えきれない。
レクルスパイロットたちは戦闘しながら、その声に耳を傾ける。
「いまこそ!帝国軍に逸し報いるときだ!日ごろの訓練の成果を発揮し、国家国民の期待に答えよ!!」
「神聖扶桑皇国!聖皇陛下!万歳!!」
常陸が少し頭を下げ、両手を挙げて叫んだ。
『ばんざーーい!!!!』
艦橋にいた兵たちが叫んだ。
全艦隊の兵も同様である。
「万歳!」
『ばんざーーい!!!!』
「万歳!!」
『ばんざーーい!!!!!』
「総員、持ち場に戻れ!」
「全艦主砲照準!目標、前方大エルトリア帝国艦隊!」
常陸が言った。
「攻撃隊、攻撃開始!」
一斉に第一次、第二次攻撃隊が敵編隊に突入していった。その数1500と同数である。
両軍のレクルスが入り乱れる中、両軍の艦隊が戦闘宙域に接近する。
「敵艦隊!主砲射程圏内まで、12000!」
<エルトリア帝国艦隊>
「さぁ、これで鬼ごっこも終わりにしようか、常陸卿。ガイアの真実を知っている貴方を逃がす訳には行かないのでね。なぁ、アルフォウス中将殿?」
ここに、皇国軍と帝国軍との間で大艦隊による第一次国境宙域会戦が行われようとしていた。