第拾玖話 fortress ~~第13次渡聖回廊会戦~~
更新遅れてすみません!よろしければ読んでいってください。
「(西暦2015ね、いや、違ったか…。星暦2128年俺たちの星“地球”は大エルトリア帝国に侵略された。父さんや母さんが生きているのか、地球がまだあるのかも分からない。俺たちは今、常陸たちに守られて皇国っていう国に向かっているみたいだ。そこは、常陸の故郷ならしく宇宙で一番安全ならしい。そこで地球を取り戻すための方法を考えるみたいだ。だけど、簡単には目的地に着きそうにない。この前も大きな戦いがあって沢山の人が死んだ。実際、俺が乗ってる戦艦も損傷が酷いみたいだ。常陸たちも俺たちの前では平気そうにしているけど、実際アイツが部屋に戻って休んでいるのをここ一週間見ていない。常陸はこの軍の司令官ならしくとても忙しいみたいだ。何か俺、いや俺たちにもできることはないのか…。いや俺たちにもできることがあるはずだ。だって俺たちは…)」
「貴明!ご飯食べないの!?ずっと部屋に籠って何やってるのよ!」
「悪りぃ、忘れてた。いま行くわ。」
「もぅ~早くしてよね、食堂で待ってるからね」
「わかった、いま行く」
「「「「いっただっきまーす」」」」
皇国軍旗艦白鷺艦内の大型食堂の一角で、大上たちが声を合わせて言った。
「うわ、これ旨いな!カレーライスっぽい味がする!」
宮崎が皿を持ち上げて物珍しそうに見上げながら言った。
「ちょっと、卓也恥ずかしいからやめてよ。みんな見てるわよ。」
卓也の腕を無理やり机に落としながら、双子の優香が言った。
他にも食堂には、戦闘で疲れきった兵士たちが時を同じくして昼食を取っていたが、無邪気な子供たちの姿に本国にいる家族を思い出したのか、自然と顔の緊張感が解れた兵士が多くいた。
「なぁ、みんな。」
突然スプーンを止め、大上が一緒に昼食を取っていた宮崎兄妹、雨宮、御坂、高町に言った。
「なによ、貴明。マジメぶって。」
雨宮が少し驚いた表情でいった。
「マジメぶってねえ!じゃなくて、最近俺たちこのままでいいのかなって、思ってさ。」
「ん?どうゆうことですか?」
高町が大上の方を見ながら言った。
「いや、俺たち守られてばっかていうか、常陸や他のみんなが必死に敵と戦ってるのに、俺たち何もできてないだろ。だから、俺たちもなにか協力できないかなって。」
「それって、私たちで常陸君の何かお役に立つことをしたいってことですか?」
高町が大上に言った。
「そう、それ!戦争はできなくても、ドックの整備や艦内の掃除、それに俺たち帝都高校の総合機械科の生徒じゃん!絶対何かできることあると思わないか!」
大上がスプーンを持ちながら言った。
「まぁ確かに。ここの人たちが使ってる言葉と日本語は全く一緒だから、以外とパソコンも使えるようになるかも。」
宮崎優香が顎に手を当てながら言った。
「あっ!それだったら、俺ドックの整備がいい!」
御坂が手を上げながら叫んだ。
「リアルロボに乗れなくても、整備だったらずっと近くにいられるし!」
さらに、目を輝かせながら言った。
「ったく、優はいっつも機械だのロボットだのって、そればっかね。ちょっとは…。」
「ん?何か言ったか?高町?」
御坂が高町の顔を覗き込んだ。
「なんでもないです!」
高町が覗き込んできた御坂と顔を合わせないようにそっぽを向いた。
「でも、やっぱ俺はレクルス乗ってみたいなー。俺、試作機だけど二足歩行型ロボットに乗ったことあるし。まぁ、怖そうな大人がたくさんいて焦ったけどな。」
卓也が思い出したかのように言った。
「えっ宮崎も!俺も実は軍のお偉いさんに頼まれてその試作機乗ったことある!なんか年齢制限で採用がどうとかこうとか言ってたっけ?」
「マジかよ、もしかしてそれって、大上の兄ちゃんが乗ってたやつのパイロットを探してたんじゃ…」
「もし、高校卒業してたら…」
「強制的に軍のパイロットにされてたでしょうね。」
高町が冷静な面持ちで言った。
「「マジかよ…」」
「でもそれって」
「「俺たち素質があるってことだよな!」」
大上と宮崎が目を合わせて言った。
「何言ってんの!レクルスに乗るってことは、戦争するってことでしょ!?死ぬかも知れないのよ!」
雨宮が怒りながら言った。
「まぁ、それは…そうだけどよ…。」
「でも、何か常陸君の力になりたいってのは賛成。後で常陸君のとこいってみましょ。」
「そうと決まれば早速常陸のとこに行ってみっか!」
っと言うと大上が急いで残りのカレーをたいらげた。
「ごちそうさま!じゃあ先に行ってるわ!」
「あっ!俺も俺も!」
「じゃあ、俺も!」
卓也と御坂が大上の後に続いてカレーを食べ終え食堂から飛び出していった。
緑帽星15万キロ沖・皇国軍渡聖回廊防衛線要塞“聖衛”近海
「敵艦隊!天津川<アマツガワ>第二次防衛線突破します!!」
「セルベリア軍旗艦オルドラント大破!戦線より離脱します!」
要塞内の中央防衛軍総司令部のオペレーターが目の前で起きている激戦の戦況を報告している。
「第七艦隊前進!第二次防衛線へ!空いた穴を塞げ!」
聖衛の総司令部で成澤中将の声が響いた。
「了解!第七艦隊前進開始!第二次防衛線を突破中の敵軍を殲滅せよ!」
「こちら第七艦隊!了解した!前進し、敵艦迎撃行動に移る。」
「敵レクルス群!第三防衛線に侵入!!第21、23、34レクルス大隊と戦闘中!」
「万が一に備る。“天壁”も発進!敵の陽電子砲攻撃があるかもしれん、各機展開と共に警戒活動怠るな!!」
成澤中将が厳しい表情で言った。
「新たに前方3500キロ沖!敵艦隊捕捉!数2500!!さらに増大していきます!」
「第三艦隊に対処させろ!“神雷”を使う、時間を稼がせろ!」
「しかし殿下!敵が本要塞上空まで接近しています!この状況で“神雷”を使うのは危険です!」
「どの道あの艦隊を対処するためにはアレを使うしか道はない。それに、あの艦隊に取り付かれたらこの要塞も陥落する。接近される前に討たねばならん!」
「敵艦隊急速接近!距離2800!レクルスの発進を多数確認!!」
オペレーターが司令塔を見ていった。
指令塔には、皇国軍司令官として神聖扶桑皇国皇族にして皇位継承権第一位の日向宮・義仁・日本が派遣され全軍に指揮を執っており、補佐官には上級貴族出身の成澤中将が着任していた。
「オークス将軍もいいですね?」
「はい、殿下。この状況を打開するには、“エレスハンマー”を使う以外策はないと私も考えます。」
「“神雷”発射準備!目標!後方敵艦隊増援部隊正面!!全軍!神雷発射まで何としてでも戦線維持に努めよ!」
「「「「「了解!!」」」」」
ここ、渡聖回廊は皇国中心部へ進入できる唯一の回廊である。なので、帝国は皇国中心部に侵攻するためにはこの回廊を通るしか他に道はなく、皇国は敵が本土内に侵入させないためにはこの回廊を死守すれば良い。皇国が長きに渡り国家を存続できたのは、この回廊を除く皇国本土を取り巻く絶対不可侵領域、皇国側呼称“神風”が皇国中心部宙域を取り巻いてるおかげであると言われている。そして、この渡聖回廊を防衛するために皇国側の技術の粋を集めて作られたのが、宇宙要塞“聖衛”(セイエイ)である。聖衛は直径60キロの巨大人口天体であり、10個艦隊、戦艦総数25000隻を搭載、常駐可能で、レクルス搭載数50000を超える。そして、この防衛線に襲来する敵艦隊の大襲来の危機を何度も救ってきたのが、聖衛の主砲である“神雷”超長距離惑星間戦略砲の存在である。この神雷は通称エレスハンマーと呼ばれ、聖衛も通称エレスと呼ばれている。
エレスというのは、銀河標準語で守護神という意味である。このエレスハンマーは半径五キロの口径があり、接近してくる敵艦隊を一撃で薙ぎ払う能力がある。よって、帝国軍艦隊はこの渡聖回廊に進軍しても、この要塞に阻まれ皇国中心部にこの大戦が始まってから一度も侵入を果たせていない。だが、この聖衛にも弱点がある。それは神雷に連射がきかず、超大規模な敵艦隊の襲来には、迎撃能力を超えてしまうのだ。帝国側はこれに目をつけ、15個艦隊総数37500隻を派遣し、今まさに第13次渡聖回廊会戦が勃発していた。
「了解!目標!敵艦隊増援部隊正面!」
「殿下。もしかするとこの位置に敵艦隊がいるということは」
「気付いたか、成澤。そうだ、増援艦隊と侵攻中の敵艦隊をまとめて沈められる。」
「エネルギー収束率75%!!」
「よし!射線上の全軍に退避勧告!」
義仁が司令塔にいるオペレーター全員に指令を出し、一斉に全軍に指令が出された。
「司令部から全軍へ。全軍神雷射線上より退避せよ。繰り返す、全軍射線上より退避せよ。」
「第一艦隊了解!」
「第三艦隊了解!」
「第四艦隊了解!」
各艦隊の司令官が聖衛の総司令部に返電した。
一斉に艦隊が後退を開始し、戦線に敵に付け入られる隙が多数生まれた。
それを見たエルトリア艦隊が一斉に突撃してくる。皇国軍にとっては厳しい撤退戦術となった。
「第一、第三、第四艦隊射線上より退避完了!」
「レクルス各機は、敵を牽制しつつ後退中!」
「敵艦隊、第一艦隊後退宙域に侵入!まっすぐ本要塞に接近してきます!」
「第一艦隊被害多数!第四艦隊が敵艦隊の集中攻撃を受けています!!」
オペレーターが叫んだ。
「“神雷”発射口バリアブルフィールド解除!要塞護衛隊各機!神雷発射まで援護!」
要塞表面に巨大な円形の砲が出現し、円の周辺が激しい閃光が発生した。
<大エルトリア帝国軍第13次侵攻艦隊・旗艦イルマルシュタイン>
「指令!エレス要塞表面に高エネルギー反応確認!!」
オペレーターが振り返って言った。
「くっ!やはり間に合わないか!全艦回避運動開始!!」
<聖衛・中央防衛軍総司令部>
「敵艦隊侵攻停止!撤退する模様です!」
オペレーターが振り返り義仁と成澤中将の顔を見て言った。
「エネルギー充填率は!?」
「エネルギー充填95%まで上昇!」
「敵艦隊、左翼と右翼に分かれて展開する模様です!」
「エネルギー充填率109%!!“神雷”発射準備完了!!」
「もう遅い!帝国軍よ、神の雷を受けるがいい!“神雷”、照射!!」
義仁が扶桑刀を力強く抜き、エルトリア艦隊にその刃先を向けた。
円の周辺に出現した閃光がさらに強くなり、発射口中心に立っている収束塔に円周辺の閃光から無数の光の柱が集まった途端、轟音とともに発射口全体が激しく光って、突如出現した巨大な光の柱が敗走する帝国艦隊に襲い掛かった。
キィィィィィィィィィィィィィィィンンンン!!!
<大エルトリア帝国軍艦隊>
「敵要塞より高エネルギー体収束!!来ます!!」
帝国軍オペレーターが叫んだ。
「全艦緊急回避!艦長!取り舵いっぱい!!」
第13次侵攻艦隊指令官ガウスト大将が言った。
だが、時既に遅く“神雷”は容赦なく帝国軍艦隊を蒸発させた。
「到達まで約3秒!!」
「もうダメだ!うわぁぁーー!!」
展開していた帝国軍艦隊の中央部分にぽっかりと穴が開いたように艦隊が放つ光が消えた。
「「「「ぐわぁぁーーー!!」」」」
侵攻艦隊旗艦イルマルシュタインは何とか回避に成功したが、艦体が衝撃波で激しく揺れた。
「くぅ!これが、これがエレスハンマーか!!」
艦橋内にある計器が異常数値を出しながら、ショートしたように電気が放出され、それに感電した兵士がバタバタと倒れた。
艦橋の全方位視覚システムもダウンし、艦橋全体が数秒真っ暗になった。
「ひ、被害報告!各艦隊に伝令を出せ!」
ガウスト大将が床から起き上がり、頭の出血を手で押さえながら言った。
「第二、第三艦隊!第六から第十艦隊それぞれ旗艦のシグナルを確認!あとは反応消失。艦隊の約5割を消失!」
「後方増援艦隊より入電!<我、先ノ攻撃ニヨリ艦隊ノ六割ヲ喪失ス。>」
「なんだと!!?ちゃんと確認したのか!」
「全帝国軍識別暗号で確認しましたが、反応はありません。間違いないかと…。」
「バカな…。一瞬で艦隊の半数一万隻以上を失ったというのか…。」
ガウスト大将が司令官席に力なく座り込んだ。
「指令。いかがいたしますか?まだ、艦隊は二万以上健在ですが進軍しますか?」
ガウストに応急処置をしながら副官のファウゼン中佐が言った。
「まずは後退だ。態勢を立て直す。」
「まぁ、それが最善ですね。了解しました。」
ファウゼン中佐が敬礼し、数歩下がり司令官席の後ろに立った。
「全軍に通達!被害の大きい艦は後方へ後退!全軍一時退却する。敵艦隊と距離をとり、牽制しつつ後退せよ!レクルス各機は艦隊の後退の援護に回れ!追撃部隊が来るぞ!何としても敵機に艦隊を攻撃させるな!」
<聖衛・中央防衛軍総司令部>
「“神雷”照射完了!各部異常なし!バリアブルフィールド再展開!」
フィールドが再展開され、要塞が再び青色の光に包まれた。
「敵艦隊は!?状況報告しろ!」
成澤中将がオペレーターたちに怒鳴った。
「はっ!報告します!」
「帝国軍は聖衛沖3500キロ地点まで後退を確認!状況は混乱状態と思われます!」
「よし、敵艦隊後退の隙に守りを固める!第一、第三、第四艦隊は防衛線に再展開せよ!」
日向宮司令官が水晶機構を見ながら言った。
「お見事でしたな、殿下。さすが無敵要塞。エレスハンマーの威力は素晴らしい。是非ともわが国にも欲しいものですな。」
セルベリア連邦軍上級大将のギルバート・エル・オークスが義仁の隣に立ち、横目で見ながら言った。
「何を仰いますか。貴軍にはニーベルング要塞があるではありませんか。私には、ニーベルングのシールドシステムの方が魅力的ですよ。」
義仁の後ろで同じく水晶機構を見ていた成澤中将が、オークス将軍をまっすぐ見ながら言った。
「ニーベルングシステムは国家機密なものでね。上級大将以外には口外してはならんことになっている。いくら同盟国といえども教えることはできないですな。」
オークス将軍が成澤中将と義仁を見ながら言った。
「それはわが国とて同じ。神雷もまたわが国も国家機密。聖皇陛下のご許可がなければお教えすることは出来ませんよ、オークス将軍。」
成澤中将がオークス将軍を恨みながら言った。
「こら、成澤。オークス将軍は2個艦隊を率いてわが国の危機を救わんとしてくださったお方だ。恩義には礼節で答えるのがわが国の慣わしだ。恩人にそのような口を利いてはならん。」
義仁が成澤を見て言った。
「しかし、殿下。」
成澤中将が義仁の後ろで懸念の声を発した。
「成澤。私の言うことが聞けないというのか?」
義仁が皇族の威厳の満ちた声で成澤を見た。
「い、いえ。」
成澤中将が恐縮した顔になり数歩後ろに下がった。
「オークス将軍。部下の非礼をお許し下さい。彼は国を想うばかり、すぐに周囲の者を敵と認識してしまう癖がありまして。」
義仁が少し頭を下げた。
「い、いえ。いいのですよ、殿下。こちらこそ、些細なことでお騒がせして申し訳ありません。わがセルベリアと扶桑皇国の絆はこのようなことでは揺るぎません。」
「ありがとうございます、将軍。それはそうとグラン=グリード戦線の戦況はどうなのですか?」
「相変わらず戦況は膠着状態です。ニーベルング要塞ができてから戦況を逆転できると思っていたのですが…」
「フラウデル問題ですか…」
「ええ、フラウデルを巡ってエルドランドと対立が激しくなっていまして、数週間前には小規模ながら小競り合いもありまして。」
「エルドランドですか。やはりエルドランド大公国はエルトリア帝国側に付いたということでしょうか?」
「エルドランド大公国は大公が不在の状態ですから、まだはっきりとは分かりませんが、現在は前大公のホルスト公亡き後、帝国派弟君クルスト卿が実権を握っていると聞いています。」
「ですが、エルドランド大公国といえば、ムーン連合の流れを組む国家。たとえ国の形が変われとも武装中立の国是を忠実に守ってきた国が、帝国派と連邦派に分かれるとは…。」
「それほど帝国の圧力が強いということでしょう。まぁ、それとクルスト卿は野心の強いお方ですからね。長年の連邦とエルドランドの係争地フラウデル恒星系をこの大戦に紛れて奪取しておきたいのでしょうな。」
苦笑しながら、オークス将軍が言った。
「いや、それと後もうひとつあるとすれば…」
「??何ですか?殿下?」
「やはり、あの噂は本当かもしれません。」
義仁がオークス将軍を見ながら言った。
「ん?あの噂…?ま、まさか…グリーンベレーの協力者の報告書に記載されていたあの噂ですか??」
「ええ、そうです。もし、それが真実なら、この戦争を早期終結に向かわせる鍵、いや、希望になるでしょう。そして、本当に戦うべきはいったい誰なのか、はっきりすることになるでしょう。」
オークス将軍は義仁の目から目が離せなかった。
額から汗がこぼれた。
「殿下。まさか…あなたは…」
まだ、戦闘が完全に終わっていないにもかかわらず、オークス将軍は激戦が目の前で行われているのを忘れてしまった。義仁の発した一言によって…。
時は星暦2128年。また新たな戦いが始まろうとしていた。