第拾捌話 fenius Ⅱ ~~第二次フェニウス会戦~~
長らく休止していましたが、連載開始しました。よろしければ読んでいって下さい。
「ええい!!なぜ、押し切れんのだ!!もっと戦力を投入しろ!これだけの戦力があってなぜ落とせん!」
大エルトリア帝国宇宙軍第七艦隊旗艦ルルシウスの艦橋で司令官のベルダー侯が怒鳴った。
「しかし、閣下!わが軍は投入可能なほぼ全兵力を前線に派遣しています!これ以上の投入は不可能です!」
アルフォウス付の元参謀だったケイト少佐がベルダー侯に言った。
「不可能を可能にするのが貴様ら軍人の役目だろう!それにまだこの艦の周りには艦やレクルスがいるではないか!」
ベルダー侯がワイングラスを持っている方の腕を動かし、ルルシウスを護衛している艦隊を見て言った。
「なっ!護衛艦隊を投入すればルルシウスは丸裸になります!そうなれば、敵機動兵器の奇襲攻撃を受けたときにとても艦を守りきれません!そのときは、閣下の身も危険に晒すことになりますが、よろしいのですか!?」
「そ、そんなことわかっているわ!!冗談だ、冗談!そんな馬鹿げたことを言う暇があれば、さっさと皇国軍とセルベリアを討ち取れ!」
ベルダー侯が「グッ」っという表情をし、ワインを一気に飲み干した。
<白鷺艦橋>
「11時の方角!レクルス接近!数15、来ます!」
「対空砲火を集中しろ!取り付かせるな!第三護衛隊は何をしている!」
九条艦長が苦しい表情でオペレーターに怒鳴った。
「ダメです!敵機の数が多すぎて防ぎきれません!!うわぁ!」
ドォォォォォォォンン!!
ドォォォォォォォンン!!
接近してきた対艦装備型ドライが放った対艦ミサイル2発がシールドに直撃した。
「くっ!敵艦隊の進撃を防げても、これでは!」
常陸が宙域図を平面に映し出している作戦机に両腕をつけ衝撃に耐えて言った。
「閣下!このままでは艦隊が持ちません!全軍に“カスタムザー”使用許可を!」
橘少佐が常陸と同じく作戦机に右腕をつけ衝撃に耐えながら言った。
「ダメだ!あれを使えば目標周辺の友軍機にも弾が当ってしまう!」
「ですが、このままでは!」
「敵艦隊進撃を開始!接近してきます!」
「夕月、夜月被弾!」
「敵機接近!先程と同じく11時の方角!数23!」
「くっ!ミサイル発射管1から35までスレンダー照準!てぇぇー!」
白鷺に続いて、夕月、夜月、翔鶴、舞鶴も続いて対空砲撃と共にミサイルを発射した。
「全艦回避運動開始!取り舵5!後続艦に白鷺に続くように通達!」
「「「了解!」」」
「敵艦隊、本艦隊に急速接近!!」
夕月と夜月が主砲を斉射し、白鷺や他の艦もそれに続く形で主砲を斉射した。
「間髪入れるな!続いて主砲2番、4番!撃てぇ!」
「閣下!これではただの消耗戦です!敵レクルスを黙らせなければ、当方の損害が増す一方です!」
「私も橘少佐の意見に賛成です!このままでは艦が持ちません!閣下ご決断を!」
井上参謀が言った。
「…わかった。全軍に“カスタムザー”の使用許可を!第一から第五艦隊護衛隊に帰艦命令!“カスタムザー”換装次第緊急発進開始!全軍に予想攻撃範囲内より退避命令!」
常陸が井上参謀と橘少佐に言った。
「「了解しました!」」
すぐさま常陸の命令が全軍に伝えられた。
「セルベリア艦隊にも通達!攻撃予想範囲内より友軍機の退避を要請!全軍に通達!」
「「「了解!!」」」
「旗艦より全軍へ!これより我が軍は、敵機動兵器殲滅のため広範囲拡散攻撃を開始する!ただちに予想攻撃範囲より退避せよ!繰り返す!ただちに予想攻撃範囲内より退避せよ!」
「ようやく許可が下りたか!各機!護衛隊が“カスタムザー”換装するまでの辛抱だ!各機気を抜くな!」
結城中佐が結城小隊全機に言った。
「「「了解!!」」」
「やらせるか!これ以上!!てやぁぁー!」
「田上少尉!っ!」
大上機と敵ドライ接近戦用のビームソードがぶつかり合った。
「くそ!お前なんかに構っていられる余裕なんてないんだよ!!」
と言うと、大上機が右足で敵ドライを蹴り飛ばした。
「このっ!!」
というと、右腕に持っていたビームソードを左腰部に瞬時に戻し、代わってその右腕で腰部のビームライフルを取り、敵ドライに照準を合わせた。
「喰らえ!」
ビィィィンン
ドォォォォンン!
敵ドライがビームを受けて四散した。
「っく!次から次へと!!」
「てやぁぁ!!」
田上少尉が鬼神の如く叫びながら、接近する敵編隊に突撃した。
「これ以上艦隊には近づかせない!!」
「田上!大上くん!無茶するな!っく!各機、両機に続け!」
「「「「了解!!」」」」
<セルベリア艦隊>
「皇国軍より入電!『我、之ヨリ、敵機動兵器殲滅ノ為広範囲攻撃ヲ開始スル。貴軍ノ攻撃予想範囲ヨリノ退避ヲ要請スル。』」
「皇国は、“カスタムザー”を使用するつもりか。」
「アームストロング閣下、退避命令を。」
副官のカノン参謀が言った。
「わかっている。全軍に通達!全軍、L4戦闘宙域より退避!皇国軍に了解したと返電しろ!」
「「「了解!!」」」
「敵艦隊主力部隊、体勢を立て直し進軍してきます!!」
「っく!このままでは押し切られる!」
「敵編隊接近!!対艦装備機です!!」
セルベリア軍オペレーターがアームストロングを見て言った。
「第一から第十一ルシュイン小隊に艦隊護衛を下命!第三から第七機動隊は引き続き敵艦隊攻撃に専念!」
「「了解!!」」
セルベリア艦隊クースベルグ級宇宙戦艦16隻の対空砲が一斉に敵編隊に対空砲火を浴びせている。
「敵アイリス級8、ヘンデル級4、尚も接近!!」
「バカな!何故この砲火の中を進軍してくる!やつらに恐れはないのか!?」
その瞬間、敵アイリス級の放った主砲がクースベルグ級4番艦の右舷に直撃した。
ドォォォォォォンン!!
「ヘルベルト被弾!!火災発生!!」
「くそっ!これ以上接近させるな!!主砲照準!撃てぇ(ファイヤー)!!」
セルベリア艦隊旗艦ユリシーズ艦長のタナトゥス少佐が言った。
後続艦がユリシーズに続き、主砲を斉射した。
「くっ!艦隊が!!」
ミシェイル小隊副長のゼス大尉が言った。
「わかってる!だが、こちらも裂ける戦力がないんだ!くそっ!!」
「前方にさらに敵機!」
ルシカ少尉が言った。
接近してくる敵機は今までの敵機とは違いすぎる機動性で突っ込んできた。
「何だ!あいつは!?」
ゼス大尉が言った。
「あいつがおそらく親玉だ!各機殺られるなよ!散開!!」
『あれが、旗艦か!一気に落とすぞ!俺は前方から行く!マークは皇国軍の方に行け!』
『わかった!』
ティエリー機とマーク機がそれぞれ散開した。
『これさえ落とせば!』
ティエリー機が一気にユリシーズに接近した。
「させるかよ!!」
ドォォォォォンン!!
『何!?』
ミシェイル少佐が駆る“ルシュインⅡ”から放たれたビームライフルの光が、ティエリー機のビームライフルを貫通し吹き飛ばした。
『くそっ!セルベリアにも骨がある奴がいるもんだな!』
「こいつが親玉か!悪いがこれ以上進ませる訳には行かないんでね!!」
「凄い!さすが隊長。」
ルシカ少尉がティエリーの駆るドライとミシェイルの駆るルシュインⅡの戦闘を見て圧倒されていた。
<エルトリア帝国艦隊 ルルシウス艦橋>
「第一戦隊、クースベルグ級と戦闘中!被害甚大!!」
「第十七戦隊シグナル消失!!」
「第三大隊応答してください!第三大隊!!」
帝国軍オペレーターの言葉が艦橋内で飛び交っている。
「いいぞ!いいぞ!こちらが押している!後もう少しだ!一気に押し倒せ!」
ベルダー侯が司令官席を立ち上がり叫んだ。
「しかし閣下。当方の被害は甚大です。既に戦艦5隻と随伴艦7隻を喪失しております。レクルスの撃墜数は三桁を超えています。」
アルフォウス大佐が司令官であるベルダー侯に言った。
「そんなものどうってことはないわ!勝てばいいのだ!勝てば!」
「しかし!」
っとアルフォウスが言いかけた時に皇国軍が動きを見せた。
「皇国軍・セルベリア軍!後退開始!」
「そら見ろ!!今だ!!追撃しろ!」
ベルダー侯が興奮しながら、オペレーターに怒鳴った。
その時、アルフォウスの脳裏に白鷺の超大型陽電子砲の存在が過ぎった。
「(…まさかっ!!)」
「閣下!!全軍に追撃中止命令を!!」
「何を言っている!今、攻めなくていつ攻めるのだ!」
ただならぬ様相のアルフォウスを見て、ベルダー侯もたじたじになった。
「皇国軍の大規模攻撃が来ます!!!」
「!!???」
< 皇国軍・白鷺艦橋>
「全機“カスタムザー”装填完了、発進しました!」
「連合軍攻撃予定範囲より退避完了!!」
「全軍!拡散攻撃開始!!」
「全機カスタムザー攻撃開始!!」
数十個の“カスタムザー”が一斉に帝国軍に向け発射された。
シュィィィィィィンン!!
シュィィィィィィンン!!
“カスタムザー”の発射音の後にカスタムザーが拡散し、エルトリア軍機に襲いいかかる爆音が戦闘宙域を包んだ。
「皇国軍!拡散兵器発射しました!ミシェイル少佐!」
「わかってる!!」
というとティエリー機からミシェイル機が離れ一気に後退した。
『何のつもりだ!』
ティエリーが叫んだ。
「誰だか知らないが勝負はお預けだ!またな!生きていたらの話だけどな!」
っと言うとミシェイル機が一気に戦闘宙域より離脱した。
『何故後退した!?ん?』
「これでも喰らえー!帝国ども!!」
ティエリーの目の前でカスタムザーが発射され、皇国軍機が退避していくのが見えた。
『くそっ!この為だったのか!』
ティエリーが一気に加速して戦闘宙域からの離脱を試みた。
「「「うわぁぁ!!」」」
カスタムザーの亜号式墳進爆雷が炸裂し、敵機に容赦なく爆雷が降り注いだ。
「うわぁぁぁ!」
「何だよ!何が、うわぁぁ!!」
<エルトリア帝国軍ルルシウス艦橋>
「な、何が起こったというのだ…。」
「皇国軍の広範囲拡散攻撃と思われます!当方の被害甚大!」
「レクルスの約5割を喪失!アイリス級、ヘンデル級共に被弾!」
「皇国軍・セルベリア軍攻勢に出ます!前線が総崩れです!」
「なんて様だ!この責任はどう取るつもりだ!アルフォウス!」
「全て閣下のご命令どうりにしただけです。閣下。このまま本国に逃げ帰りでもしたら下手したら処刑ものですよ。」
「ど、どうしたらいい!?アルフォウス!私はまだ死にたくない!!」
「閣下が私に指揮を一任していただけたら…。」
「わかった!言う通りにしよう!指揮はお前が取ればいい!」
「わかりました。閣下のご英断感謝いたします。」
キッ!とした目つきになり、アルフォウスが指示を出した。
「指揮権委譲に伴いこれより私が指揮を執る!信号弾打て!全軍に撤退命令を!被害の大きい艦から後退開始!中央艦隊は前線部隊撤退の援護を!」
「「「了解!!」」」
「まっ!待て!撤退だと!?撤退は許さん!最後の一兵になるまで戦えと命じろ!アルフォウス!!」
ベルダー侯が保身にまみれた表情で言った。
「黙れ!バカ者!これ以上兵を死なせても尚わが身大事か!!能無しは引っ込んでいろ!!」
「な、私を誰だと!」
「後で銃殺刑にでも好きにすればいい!だが、これ以上兵たちを死なせることは許さん!!」
「グッ!この屈辱忘れぬぞ。」
ベルダー侯が睨みながら言った。
<皇国軍艦隊・白鷺艦橋>
「敵艦隊後退していきます!」
「閣下!追撃を!」
橘少佐が言った。
「いや、いい。今回の戦闘はここまでだ。全軍に通達!全軍、本宙域を離脱!被害の多い艦を優先して後退させよ!」
「ですが、いまなら敵艦隊を壊滅するチャンスです!この好機みすみす逃すのですか!」
「我らの目的は、敵艦隊壊滅ではない。エレスに着くことだ。セルベリアの被害も大きい。ここは一度引き、今日の勝利ではなく明日の勝利を選らんだ方が得策だ。」
「…了解しました。」
橘少佐が不服ながらも敬礼した。
「レクルス各機警戒活動続行!全艦隊の本宙域からの離脱を援護せよ!」
「「「了解!!」」」
「セルベリア艦隊より通信です!」
「わかった。つなげろ。」
水晶機構の大型モニターにアームストロングの顔が映った。
「皇国軍に被害は?」
「ええ、かなりの損害を被りました。敵の攻勢が予想外の火力だったので、多くの兵を失いました。」
「こちらも、戦艦2隻が戦闘不能状態になりました。主力艦隊も被害が出ています。補給もままならない状態です。まさか、帝国軍があんな戦術でくるとは。」
「それほど、必死だったということでしょう。とにかく、エレスへの帰還を急がねば。」
「そうですな。あともう少しでエレスのはずですからね。敵も自分の勢力圏下でという思いがあったのでしょうな。それでは、また後ほど。」
「了解しました。」
常陸とアームストロングが互いに敬礼して通信を切った。
「(あともう少しでエレスか。エレスの戦況も大丈夫なのかどうか…。この戦、わが国も本格的にならねば、いつか“天城”にエルトリア軍が侵攻することもありえる。なんとしてでも、エレスに行き、そして本国に帰還しなければ。)」
白鷺艦内で常陸がこの大戦の行く末を考えながら、皇国の本格的戦争開始に向けた準備に必要性を痛感していた。